第6話 それが私の生き方です
椎名充(しいなみつき)の記憶力はすごくて、高校時代に起きたことの全てを覚えているのではないかと気が動転した。
ときどき突然昔のことを質問してくるので、あたふたしては勘で答えた。
彼女と二人きりでの沈黙は怖いので、絶えず話続けてくれたのは助かった。
「暗黒面があるらしいぞ、彼女」
同期の清水が昨日はお邪魔して悪かったなと言った後、ニヤリとして付け加えた。
「なんかおまえ楽しんでないか?」
くすくす笑いながら清水は信じてもらえないかもしれないが、何があっても自分はお前の味方だからなと言った。
「そうだといいけどな・・・」
「杉本さんの方はそうとも限らないって感じだったぞ」
いぶかる俺に、清水は杉本さんも高校時代から長い間ずっとあのこの側にいて段々気付いたんじゃないかとこぼす。
「そうか・・・。俺は杉本ってそういうの気にしないタイプだと思ってた」
「そういうのって?」
俺が少し考えた末に追い詰めて捕まえる・・・みたいな?と言うと清水はいくら仲が良くても異常な行動には目をつぶれないのではないかと苦笑した。
昨日はなんとか乗り切ったのだが、また何かをしかけてくるのではないかと根拠のない不安で頭の中がもやもやする俺だった。
お仕置きのつもりだった。
二人で食事をする約束だったのに、蒼汰(そうた)くんが同期の清水さんに私たちのことを見張らせていて、ひどく不愉快な気分になった。
私は平気だよと言ったのに、詠美(えいみ)までこそこそつけてくるので反撃に出てみたのだ。
あの時の私以外の三人の反応はかなり滑稽で、しばらく自分の記憶に残りそうだなと思った。
蒼汰くんは、どうして高校のときのように私に拒絶の言葉を言わないのだろう。
曖昧な態度は命取りになるというのに。
「何に乾杯する?」
昨日の清水くんの言葉を思いだす。
「高校からの強い結びつきに」
詠美が意味ありげなことを言った。
四人で乾杯!とグラスを合わせると、私は心の中で蒼汰くんの未来に加わらせてもらうねと呟いた。
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