第5話  介入してはいけない

「自由にさせすぎじゃないか?」

椎名充(しいなみつき)の友達、杉本詠美(えいみ)に小声でそう言うと、彼女は充に何を言っても耳を貸さないのだと言った。

「三上(みかみ)には気の毒だと思うけど・・・」


なぜ俺が彼女と一緒にいるのかというと、椎名充と二人で会うことになった三上から助けを求められたときに偶然を装って声をかけてくれと頼まれ、同じような立場の杉本詠美に見つかってしまったからだ。

三上と椎名充にはずっと背を向け続けて隠れていたのだが、周囲への注意を怠ってしまった。


「スリル満点ね」

杉本詠美は遠目から二人を見ながらいかにも他人事という様子だ。


「それにしても、君の友達はどうしてあんなにヤツにのめり込んでるんだ?」

「うーん、たしかに高校のときからこれといった取柄もないと思ってたけど、悪いヤツではなさそうよね」


しばらく同じ姿勢で身をかがめていたので足の関節が痛くなってきた。

「いてて。そうだな。わかりやすくいいやつだけど、椎名さんが独り占めしたくなるほどではないと思うよ」


それを聞くと杉本詠美はうなずきながら、もう一つ理由があるのだと言った。

「充には隠された闇の部分があるのよ」


三上を前にして楽しそうに談笑する椎名充を目にしながら、俺は不思議に思った。

「あれは演じてるキャラなのか?」

「いや、基本あのままだけど・・・」

少しの間杉本詠美は言葉を探していたが、結局我々の間には沈黙が訪れた。


「じゃ、忙しいんで私はそろそろ帰ろうかな」

俺は少し驚いて三上と椎名充に何かが起きたらどうするのだと言った。

「私もそう思って今日は様子を見に来たけど、充単純に楽しんでるみたいだから」

彼女がそう言うのならばそうなのかなと思い、俺もそろそろと思ったとき、もはやこれまでと慌てふためいた。


「あれー、詠美?」

杉本詠美が立ち上がったため、椎名充が彼女の背後から笑顔を絶やさないで駆け寄ってくるところだった。

お手上げだと思い、深いため息をつく俺とは対照的に、杉本詠美は意に介さない様子だ。


そして俺はこの後帰るどころか四人で飲みに行くことになってしまう。

三上は始終通夜に参列している人のような顔をしているし、俺もこれほど不味い酒は初めてだと思った。


溌剌としているのは椎名充のみで、お開きになった頃には気分が鬱屈して最悪だった。

俺としたことが、迂闊だった。

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