第4話 believer
背後から両手で目を覆われて、だ~れだと問われている三上を見て苦笑した。
あれが我々の最近話題の人、椎名充(しいなみつき)かと思った。
あからさまに嫌そうな顔をして忙しいからと言っている三上に動ずることなく、彼女はテコでも動くまいという顔をしている。
なんとかして三上から彼女を引き離してやりたいのだが、後々返り血を浴びそうで怖い。
三上の部署の女性社員たちからも反感を買っているようなのに、まるで気にしていない。
そのうち何をしでかすかわからない娘だなと思っていると、三上の方向から助けを乞う視線が投げられてきた。
必死な表情を目にして気の毒に思い、喫煙所にでも誘うかと俺は席を立った。
「バカなことをしたと思ってるよ・・・」
生気を失ったような顔をした三上はつぶやいた。
「まあ学生時代のことだしな」
慰めの言葉があまりみつからない。
「でも好意を持ってる相手に拒否されるっていうのは傷つくよな」
平凡な提案だが、俺は三上に高校性のとき、椎名充に冷たく当たったことを謝罪したらどうかと言った。
叩きのめされたような顔つきの三上は、それでもう彼女と関わらないで済むだろうかとため気息をついた。
「どうだろうな。でも逃げ回るよりかはましなんじゃないか?」
「まあな。仕事にも支障があるし」
三上はそう言うと、覚悟を決めたような顔をして喫煙室の重いドアを開けた。
唐突に充からごきげんなLIMEがきた。
三上から食事に誘われたのだという。
私は三上が充からのストーカーのような行為が悪化するのを未然に防ごうとしているのだろうかと推測した。
私が彼の立場ならばだいぶ精神的に追い詰められてしまうだろうなと思う。
まだ起きていない未来を想像して心配になってきてしまった。
会社の近くのパスタ屋で、一人でワンコインランチを食べていると、充からさらにLIMEがくる。
「チャンスを与えてくれた蒼汰くんに感謝♪」
「そうでもないんじゃないかなぁ」
独り言を言いながら、浮かれすぎだぞと返信した。
「時空を移動して昔の私に教えてあげたい!」
例えば充はかつての自分にどんなことを言うのだろう。
「将来のあなたは冗談では済まないぐらい、蒼汰くんに付き纏ってるよとか・・・」
あの頃の彼女はこんなにも残念な人間だっただろうかと思い返しながら、私はあまりガツガツしないようにねと返した。
「ムリだろうな」
そういえばあの娘には高校生の頃から二面性があるなと思わされた。
人格を疑われるようなことを三上に対してまたしなければいいけれど、と思いがなら私はオフィスに戻ることにした。
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