第3話 えてしてそういうものです。
高校の頃の私は、蒼汰(そうた)くんに話しかける勇気がなくて、まるで暗殺者のように日々遠くから彼のことを観察していた。
そのうち音を立てずに近付けるようになったり、彼の会話が聞き取れないときは唇を読めるようになってきた。
蒼汰くんの友達のグループが学校帰り急に二手に分かれるときも、あまりまかれることはなかった。
「週末は結局何の映画観に行くの?」
返ってきた答案に目を通しながら、詠美(えいみ)は何気なくきいてきた。
彼女はいかにも成績がよさそうな顔つきをしているが、意外とそうでもない。
「うーん、それが三上(みかみ)くん交通費がないからやっぱり行けないって言ってきたの」
「さすが充(みつき)。やつのこと、露ほども疑ってない感じだね」
私は一笑に付すとさすがの自分でもそれはウソだとわかると言った。
「今は気が進まないのかもしれないけど、行ってみたら楽しいかもしれないし、交通費ぐらいなら出すよって言ったの」
「都合がいい女にならないでね」
心配してくれる詠美に感謝すると、改めて夢みたいだなと思った。
「詠美、三上くんて貧乳大丈夫かな」
「比較的そういうの気にしなそうじゃない?」
そう言ったものの、詠美は多くの男が大きい方に目を奪われがちだけどねとぼやいた。
「うん、まあ私まあまあ着やせするタイプだから大丈夫だと思う」
詠美はあんたのそういうポジティブなところ好きよと言うと、この先人生の岐路に立ったときもあまり悩まなさそうだと感心した。
三上くんの次のことわり文句は、映画は長いとお尻が痛くなるからという理由だった。
彼が立て続けに不誠実なことを言ってくるのは、私との約束が周りの友達に祭り上げられたからなのだろうなと推測できた。
三上くんのことを信じたかったけれど、週末のことを心待ちにしていた自分がバカらしく思えてきた。
「もともと行くつもりないよね」
先ほどから同じ姿勢で耳をすましている彼の友達たちは、静まり返った。
「え、いや・・・」
はっきり答えることができず、三上くんは困っている。
「許さない」
三上くんの耳元で、彼にだけ聞こえるようにそうつぶやくと私は自分のクラスに戻った。
三上くんが口をパクパクして、何か不明瞭なことを言っていたなと思うとなんだか面白おかしく思えてきた。
「充さんが一人で笑ってる理由を聞かせてください」
詠美がまるでインタビュアーのようにきいてくる。
「三上くんの反応がね、なんか面白かったの」
あの日、あなたは私を決心させてしまいました。
「手に入るまで望んでやる・・・」
「えっ?」
聞き逃した詠美に週末はやはりキャンセルになってしまったと言った。
「そっか、残念だね」
「うん、また別の機会があるといいな~」
人の心を傷つけた人には、ちゃんと責任を果たしてもらわないといけないと思った。
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