第421話 お悩み相談室の対価はおやつ
賢者の石には天然に出来るものと人工的にできるもの、二パターンあるそうだ。
人工の賢者の石というのは、天然の賢者の石に手を加えたものだから不老不死の効果を持つのであって、天然物には不壊の肉体を与える効果しかないんだって。
今回の破壊神とやらが体内に飲み込んだのは、その天然物の賢者の石だ。
だから元々のドラゴニュートの強さに加え、不壊の肉体、その他取り込んだアイテムなどで強化され、結果「破壊神」と呼ばれるほどの存在に至ったらしい。
「まあそれでもオレらからすりゃ、足の小指動かすくらいで倒せるんだ。なり損ないには違いあるまいよ」
「そうですか」
「実際ドラゴニュートの一族で封印出来たんだ。他の種族には殺せる奴がいたかも知れねぇな」
「他の種族……って、ドラゴニュートの人達は他の種族の人と協力しなかったんですか?」
そう言えば破壊神て言われるほどの敵を倒すのに、なんでドラゴニュートの一族の話しか出てこなかったんだろう?
言われて気が付いたけど、不自然な事だ。
破壊の神に暴れられたら、困るのはドラゴニュートの一族だけじゃない。
不思議なことに唇をアヒルのようにしていると、氷輪様にそれを柔く掴まれる。
『イシュト、教えてやれ』
「ふん」
「?」
氷輪様の言葉にイシュト様に視線を移す。
するとイシュト様は面白くなさそうに、片手にポムスフレを持ったまま言葉を紡がれた。
なんと、ドラゴニュートの一族はイシュト様を主神と仰ぐ一族なんだそうな。
他種族より強い力を与えられたのは、戦の神の庇護を受ける種族だから。
そんな強い種族の訳だから、「自分達は選ばれた種族で、他の種族を治める当然の権利がある」とか勘違いする輩が現れて、当時は相当傍若無人に振舞っていたという。
まあ、嫌われてたんだな。
そして嫌われ過ぎて他種族から総スカンをくらい、窮地に陥っても助けてもらえなかった、と。
「え? や、それでも協力しないと、暴れまわられるじゃないですか?」
「人間やエルフ達には何やら対抗手段があったようだぞ」
「えー、なんですかそれ……?」
その対抗手段が効くかどうか、まずドラゴニュート達とその破壊神を戦わせて様子を見てたんじゃないだろうな?
それで倒せればよし、倒せなくてドラゴニュート一族が滅んでも良し的な。
実際その戦い以降ドラゴニュートは数を減らして、人里から隠れ住むようになったらしいし、それは彼ら以外の種族にとって好都合だったんじゃ?
権謀術数の匂いを感じてうへぇとなっていると、ロスマリウス様がにやにや笑う。
「お前は本当に淀みなく人間の昏い部分に辿り着くな」
「はあ、いや、何ででしょうね?」
『防衛本能だろう。相手が打ちそうな悪辣な手が解れば、その返し技も思いつくのだ。悪い事ではない』
そうなんだろうか?
単に私がそういうことを考える人達と同じくらいに性格がねじ曲がってるだけなんじゃないかな……。
いや、いやいや、自虐は良くない。
いつまでも自分が嫌いなのを引き摺るのは良くない。こんな私でもひよこちゃんは好きだと言ってくれるんだから!
深呼吸して自分を立て直すと、今度はイシュト様がニヤリと口角を上げられる。
「ふむ、それでよい。強者は常に顔を上げているものだ」
どうリアクションすれば良かったのか解んないでいると、イシュト様が「褒めている」とぶっきらぼうに仰った。なのでお礼申し上げると、話が元に戻る。
「まず、体内の賢者の石を壊せ。話はそれからだ」
「ただ賢者の石っていうのは武器や魔術では壊せない。それをどうするかが肝だな」
「武器や魔術では壊せない……。というか、その賢者の石って何処に埋まってるんでしょうか?」
「あ? それはな……」
ひそひそとロスマリウス様に耳打ちされて、目を何度か瞬かせる。
何でまたそんなとこに?
そう言えば「人間も偶にやるじゃねぇか」とクスクス笑われて。
や、たしかにやるけど、やるんだけど埋め込みはしない、かな?
「まあ、どんな趣味してんだよって話だわな」
「はあ……いやぁ……」
最近リアクションが本当に取りにくい話ばっかだな。
だけどそこなら、武器でも魔術でもないもので傷つける事は可能なんじゃないだろうか。
見えて来た光明に頷けば、氷輪様もロスマリウス様もイシュト様も私の頭を撫でて下さった。くすぐったいけど、なんか嬉しい。
破壊神という誰かさんの嗜好は置くとして、次は生ける武器だ。
アレの技術的な事はやっぱりイゴール様に聞いた方が良いと、お三方は仰る。
「あのフェスク・ヴドラと言うものの中に込められているのは、片方は太古の昔に神から堕ちたモノで、もう片方はそれに仕える精霊だった筈だ」
「エラトマの方が堕ちた神だと聞いていますが……」
「名前なぞ、どうでもよいわ」
本当に興味なさそうにイシュト様が吐き捨てる。
神様が堕ちる原理は、火神教団の件で聞いた覚えがあった。エラトマの中の人もそうなんだろうか?
直近の騒動のでの話を思い出していると、氷輪様が首を横に振った。
『アレは人間のせいではない。身の程知らずにも我らに牙を剥いた故、追放した』
「その神様をどうして人間が武器に封じ込めることになったんでしょう?」
「奴が暴れたからだな。たしかアレもイシュトの眷属に倒させたんではなかったか?」
「彼奴を倒したのは余の加護を与えた者だが、封じ込めたものは別だ」
うーん、もしや倒したのは火神教団の歴代宗主の誰かかな?
でも封じたのは別って言うと、他に関与した人がいる訳だ。
「もしかして、武器を作った人間と宝玉にその堕ちた神様を封じた人も別人ですかね?」
「そうだぞ。そっちはイゴールの管轄だから、奴に聞け」
「解りました。じゃあもう一つ、エラトマと対になるアレティの中に入っている、かつてのエラトマの眷属の精霊はどんな感じで?」
『変わったやつでな。堕ちた神を殺さずに封印するのに協力したばかりか、自分がヤツの抑えに回ると自ら封印される事を選んだ』
「ははぁ」
解らん。
上司が死んだら自分もどうにかなるとか、そういう事情でもあったんだろうか?
死ぬよりは閉じ込められる方が良いっていう判断でそうしたとしたら、識さんとノエくんに協力することで解放されるのは万々歳ってことだろうか?
でも、識さんはエラトマの中の人も解放するって言うんだから、そうなるとやっぱりアレティの中の人は恨まれて危険なんでは?
疑問は色々と湧いて来る。
不意に氷輪様の指先が私の眉間に触れた。それで解ったけど、大きなしわが出来てたみたい。
『ひとまず、なり損ないを倒す手がかりは掴めたのだ。今はそれでよかろう』
「だな。武器の中の奴の事は、それこそお前が話してみたらいいだろう。それで解放できそうならすればいいし、無理そうなら放っておけ」
「ドラゴニュートの小僧に関しては、貴様の師に任せるがいい。アレも余の眷属、悪いようにはならぬだろう」
穏やかな氷輪様に、おどけた感じのロスマリウス様、イシュト様は鼻で笑うような感じだけど、それぞれに協力してくださってる。
これはいけるんじゃないかな。
明るいものを感じていると、ロスマリウス様がクッキーの入っていた皿を私に渡す。
「お代わり。ついでに土産にちょっと包んでくれよ」
「余もこのポムスフレとやら、持って帰ってやらぬでもないぞ」
イシュト様からもポムスフレの入っていたお皿を渡されて、ちょっと視線が生温かくなる。
もしかしてこのお二方、ウチのおやつの対価に協力してくださるとかないよね?
いやいや、そんな不敬な事を考えるもんじゃない。
自分を窘めていると、お二方がそっと私から視線を逸らしたのに気付いてしまった。
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