第414話 特殊な武器の特殊さ

 メンダコのめんちゃんは本を探すのが速かっただけでなく、資料の抽出も早かった。

 持ってきた本の中から、生ける武器の核心部について抜き出してくれたのだ。

 結論を言えば、生ける武器というのは内部に精霊等を生きたまま封入して作る物なんだって。

 ただ、方法が実に荒っぽく、精霊等をその意思を無視して専用の宝玉に閉じ込めて、無理矢理記憶や魔術的な技術を押し込むっていう、なんとも非道なものだった。


「え? レクスの杖もそんな感じなんです?」


 資料を掴む手に思わず力が入る。

 うっかり書類を握り潰しそうになったのに気付いて力を抜くと、うさおが「とんでもない!」と珍しく声を上げた。


「レクスの杖の中にいるのは、自主的に入った精霊です。精霊の中には魔術を行使する存在が好きすぎて、勝手にその存在が望む望まざるに関わらず魔術的な支援を行うものがいるんです。レクスの杖に入っているのは、その好意が昂じて色んな種族の魔術師に迷惑をかけていた精霊です」

「んん? 特殊な嗜好の持ち主って事です?」

「人間でいうならそうなりますね」


 ぴこりとめんちゃんとうさおの耳が動く。

 精霊は魔術師が魔術を行使する際出る光が好きな訳なんだけど、その光は魔術師の魂の色をしているそうだ。

 その光見たさに精霊は魔術師の術を魔力を対価に手伝ってくれる訳なんだけど、基本的に魔術師はその力量と魔力量以上の力は奮えない。

 けれど極まれに精霊は気に入った魂の色をした魔術師に、おまけで力を貸してくれることがある。これは精霊の依怙贔屓ってやつなんだけど、これが行き過ぎると技量も魔力量も絶対的に足りてないのに、使えない筈の魔術が使えてしまうっていう現象が起こってしまうのだ。

 これ、めっちゃ怖い。

 仮に私が落ち葉を集めて焚火でもしようと思って魔術で火を着けたら、精霊のお手伝いのお蔭で焚火どころか炎の嵐が発生しました……みたいな話だもん。

 そんな事にならないように魔術師は魔力制御に気を遣う訳なんだけど、それを振り切るほどの好意を貰ってしまうとそういう事が起きる。

 つまりレクスの杖の中にいる精霊はそういう精霊だった、と。

 どうりでやたらと私に「破壊の星アナレタを使いませんか? 今なら魔力使用量を通常の半分に抑えます!」とかダイレクトマーケティングしてくる訳だよ。

 まあ、でも「もう一回封印する?」って聞くと「ちょっとしたお茶目な冗談じゃないですかー!」って返して来るから、本気にはしてなかったんだけど。なんて奴だ。


「うん、精霊にも特殊性へげふん、特殊な嗜好の持ち主がいたのは解ったけど、象牙の塔の方の武器はどうなんだろうね?」


 途中で咳払いして言い換えたシオン殿下に、うさおとめんちゃんがこれまた耳をぴこりと動かす。

 その仕草を視つつ、奏くんが首を傾げた。


「気に入らない持ち主を狂死に追い込むって事は、レクスの杖とはちょっと違うんじゃないか?」

「そうだな。いや、だが、プライドが高くて使用者の力量を測っていて発狂しなければ合格……という事もあり得るか?」


 統理殿下の言葉も何とはなしにあり得る気もする。

 でも単純に無理やり閉じ込められた復讐のために、触れる者皆狂死に追い込んでいるというのもありそうだ。

 それに象牙の斜塔の口伝と食い違う点があるのも気になる。

 口伝によれば封印されていた武器は一つの筈なのに、識さんには二つの武器が寄生しているそうだ。

 なんでそんな大事な所に食い違いが出てるんだろう?

 もしかして口伝が何処かで大きくねじ曲がったんだろうか?

 考えても解らない。

 こういう時はもう聞くしかないだろう。

 そう呻けば先生方がフェーリクスさんに聞いてくれると言うけれど、私はそれに首を横に振った。

 聞くのは大根先生じゃない。いや、口伝の正確さに関しては大根先生や董子さんにも聞かなきゃいけない事はあるけども、武器の真実に関しては他に聞く人がいる。


「ほかにきくひと?」

「うん。識さんに聞くしかないかな」

「どうして、にぃに?」


 レグルスくんと紡くんがそろって首をこてんと横にする。可愛い。

 統理殿下やシオン殿下もちょっと不思議そうな顔をしている。そんななか、奏くんだけがハッと気が付いたようで。


「若さま、もしかして武器と話が出来たりすんの?」

「うん。レクスの杖、よく頭の中に話しかけてくるよ」

「マジか」


 マジなんですよねー。

 最初は何か解んなかったから、タラちゃんとかござる丸の声で、私もようやく魔物使いの才能が開花したのかと思ったんだけど、話を聞いてると「猫の舌っていう拘束魔術があって~」とか「破壊の星っていう魔術は~」とか魔術の事ばっかり。

 それで「あ、これ杖じゃん」って気が付いたんだけど、まあ、煩い。

 そんな話をすると、先生達の顔色ががらっと変わる。


「え? では今もそんな感じなんですか?」

「はい」

「は!? もしかしてレクスの杖もあーたんの体内いるの!?」

「まさか!? 今もいるの!?」

「あ、それは違いますけど、いるのはいます」


 先生達の慌てっぷりにちょっとびっくりする。

 だから上着の裾をちょっとだけめくって、ウエストを見てもらうと、更に先生達の目が点になった。先生達だけじゃなくて皇子殿下方や奏くんと紡くんもだけど。

 そこにはシャランと細い鎖が巻き付いている。


「普段はほら、杖じゃなくてペンデュラムになってるんで。腕に巻き付かれると仕事の邪魔だし、ベルトがわりにすればいいかと思って。本人も杖置きに置かれるよりはいいっていうし」

「……伝説の武器がベルトがわり」


 ロマノフ先生がぽつっと呟く。

 レグルスくんが驚かなかったのは、着替えてる時にこれがふよふよ勝手に巻き付くところを見てたからなんだよね。

 使い手と武器の間には、恐らく何らかの繋がりがある筈だ。じゃないと無理くり宝玉に詰めた精霊から、そこに封じられたの記憶や技術を取り出すなんて真似は出来ないだろう。

 だとしたら識さんもきっと「何でこんなことになったのか?」って、何度も聞いたと思うんだよ。宝玉の中の精霊がそれに応えるかは解らないけど、でも二年ほどは共存してるんだから、何かしら見える事があるかも。

 なので識さんに聞いてみた方が、色々解るんじゃないか。

 つらつら話せば「なるほど」と声が上がる。


「しかし、今、それを聞いて大丈夫なんだろうか?」

「ドラゴニュートの……ノエシス君だったかい? 彼が回復しないと、彼女も動けないだろうし」

「まあ、急ぎはしない案件ですよ。某国の闇カジノやノエくんが受けた被害に関しては、状況や度合い何かをまとめて書類で出してもらうように手配してますし、いずれ何かあった時用の手札としてお国にも提出しますし。真正面から噛みついて来るなら、いつも通り『かくあれかし』です」


 統理殿下やシオン殿下の心配も解る。

 もっとも後ろ暗い事をしている人間が、正攻法で戦う人間に真正面切って噛みつけるはずもないんだけど。

 ここはそろそろそういう事が得意な人間を呼び戻すべきだろうか。あの蛇男を。

 いやー、でもなー……。

 逡巡していると、不意に図書館の扉が開く。

 誰かと思ってそちらを向くと、董子さんが立っていた。


「あの、今大丈夫です?」

「あ、はい。どうしました?」

「ノエシス君が回復したんで、ご挨拶とお礼が言いたいって言ってまして」


 今朝の今で早いな。

 でも元気になってくれたんなら良かった。

 そう思っていると、董子さんが再び口を開く。


「桃のコンポートのすりおろしを食べたあと、ちょっと眠ったら怪我とか全部治っちゃったんですよね。あの桃、凄い魔力籠ってて、薬効成分とか調べたいくらいなんですけど。何処産なんですか?」


 あ。

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