白豚貴族だったどうしようもない私に前世の記憶が生えた件(書籍:白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます)
第282話 我が儘は有能敏腕官僚を花婿にジョブチェンジさせる、たった一つの冴えたやり方
第282話 我が儘は有能敏腕官僚を花婿にジョブチェンジさせる、たった一つの冴えたやり方
ロッテンマイヤーさんをラーラさんやソーニャさん達に任せると、私とひよこちゃんはルイさんを迎えに。
打ち合わせでは、エリックさんがルイさんにラシードさんの相談を持ちかける手筈だ。
ラシードさんはエリックさんに「行政とはなんぞ?」って言うのを学んでて、将来は菊乃井に一族で爪弾きにされてる魔物使い達を引き連れて移住したい話を私にすると「ルイさんに意見を聞いてみたら?」と言われたって感じで。
それで私がラシードさんの勉強に使えそうなものを祖母の書斎から探すから、ルイさんにも意見を聞きたいって言って屋敷に連れてくる。
屋敷に連れ込んだら後は衣装を着てもらうだけ。
着替えの手伝いはエリックさんがしてくれるし、私も手伝う。
ヴィクトルさんにもう一度庭に飛んでもらうと、そこでは神妙な顔のラシードさんと、穏やかなエリックさんが。
奏くんと紡くんが私とレグルスくんを呼ぶ。
「若さま! 良いところに!」
「どうしたの?」
「ほら、ラシード兄ちゃんのことだよ」
首を傾げると、ルイさんが柔らかに頬を緩めた。
私もちょっと笑う。
「ラシードさん、足場を固めたら一回地元に帰って他の魔物使いの人達を連れて、菊乃井に移住したいって」
「先ほど本人から、我が君に『私に意見を聞いてみては?』と言われた、と」
「うん、私は菊乃井生まれの菊乃井育ちだからね。移住するとして必要なものや、彼らを受け入れる法整備とか、彼らの側の準備とか、ちょっとよく分からなかったから」
「なるほど」
ルイさんが少し考えるように顎に触れる。
彼の様子を窺うようしながら、ロマノフ先生に目配せすると、頷いてゆったりと先生が近付いてきた。
「鳳蝶君のお祖母様は、その辺の文献も集めておられたのでは?」
「ああ、そうですね。あったように思いますが、まず子ども向けじゃないんですよね」
これは本当のこと。
私も読み解くの結構苦労してるんだよ。
前の「俺」の記憶があるから福祉なんかは解るんだけど、それ以外は
ラシードさんががっくりと肩を落とす。
「鳳蝶に解んないもん、俺に解る訳ないじゃん……」
「いやいや、私だって解んないものは解んないよ。だから解る人に助けを求めるんでしょ?」
「そうか……そうだよな」
「はい。という訳で、エリックさんとルイさん、手助けをお願いしても?」
話を向けると、二人とも「是」と返してくれた。
だからパーティーはレグルスくんとヴィクトルさんにお任せして、私とラシードさん、ルイさんとエリックさんはロマノフ先生の魔術で祖母の書斎へ。
ルイさんとエリックさんに本を選んでもらっている間に、ラシードさんにも手伝ってもらって婚礼衣裳を準備する。
その間にエリックさんとルイさんは目的の本を探し出してくれたようで。
ずいっと二人から一冊の本を差し出された。
「これはルマーニュでは官吏を目指すものなら一度は読むという教科書のような本です。私もミケルセンも勿論読みましたし、これなら解説も容易いと」
「そうなんですね、ありがとうございます」
受けとると、内容を少しだけラシードさんと読む。
難しくはあるけど、解説付きならなんとかなりそう。
もう一度お礼を言うと、エリックさんやロマノフ先生、ラシードさんと目配せする。
「実はもう一つルイさんにお願いがあって」
「は、なんでしょうか?」
跪いて目線を合わせるルイさんに、私は隠し持っていた婚礼衣裳を差し出した。
「これを着てください」
「これは……?」
「婚礼衣裳です」
「!?」
ルイさんの涼やかな目が、かっと驚きに見開かれた。
珍しく動揺しているルイさんに、こっちが驚く。
「え、その、どうしたの……?」
「いや、その、もしかして、ハイ……ロッテンマイヤーさんにも?」
「はい、勿論。今は着付けとお化粧してますけど……」
今、然り気無く「ハイジ」って呼ぼうとしたな?
いや、夫婦になる間柄なんだから良いけど、なんで言い直したの……?
じっとルイさんを見ていると、仄かに整ったお顔に朱が差す。
「……その、婚礼をしないと二人で決めたものの、それで良かったのかと。領が落ち着かぬ時に浮わついた気持ちを持つのは……まして私はルマーニュの民を見捨てて逃げ出した意気地無しです。しかし、彼女には思い出になるような何かをと考えていたので、それを我が君に見透かされたようで少々気恥ずかしく」
「ああ、なるほど」
って、聞き捨てならない言葉があったぞ?
それに気付いたのは私だけではなく。
「ルマーニュの民を見捨てたなど、とんでもない! 貴方様が菊乃井様のもとでご無事だと知った時、どれだけの人間が希望を持ったことか!」
「ミケルセン……」
「優しい世界を作るために働くことが、やがてルマーニュの民にも手を差し伸べることになる。そう私に仰ったじゃないですか……!」
「そうですよ。菊乃井だけが儲けたり栄えたりしても、世の中は良くならない。帝国全土だけじゃない、いずれ外国にだって
エリックさんの真摯な言葉に私も乗っかる。
ラシードさんがこくこくと激しく頷いているのは、掩護射撃みたいなもんだろう。
ルイさんが目元を震える手で覆うようにして隠すと、黙って成り行きを見守っていたロマノフ先生がニヤリと笑った。
「鳳蝶君、本音は?」
「ロッテンマイヤーさんの晴れ姿見たいし、ルイさんの晴れ姿も見たいから、つべこべ言わずに着てください。何だったら私達は家族みたいなもんなんだなら、私だけじゃなくてルイさんとロッテンマイヤーさんも
「だそうですよ。ここは鳳蝶君のお願いを叶えてあげては?」
私とロマノフ先生のやり取りに、ルイさんだけでなくエリックさんやラシードさんがきょとんとする。
一瞬の間があって、ルイさんが笑った。
「なるほど、主君の望みの一つも叶えられないなど家臣としてあるまじきことですな」
「そうですよ、私は我が儘当主なんですから!」
「お心遣い、恐悦至極に存じます」
手をしっかり伸ばしてルイさんは、私から婚礼衣裳を受け取ってくれた。
いそいそと私とエリックさんラシードさんに手助けされて、ルイさんの準備が整っていく。
刺繍も鮮やかなフロックコートに腕を通して、ラペルピンやタイを整えていると、ロマノフ先生が私を手招いた。
「ハイジの準備が整ったと宇都宮さんが伝えて来ましたよ。先に会っていらっしゃい」
「いいんですか!?」
「ハイジの希望だそうですよ。誰より先に見せたい、と」
「っ! わ、解りました!」
返事をするや否や、私は部屋を飛び出してロッテンマイヤーさんが着替えている部屋まで駆け出す。
すると階段を下りた先のエントランスに、すっきりとしたシルエットが。
「あ……!」
大きな窓から溢れる光に照らされて、真っ白なドレスが輝く。
頭からすっぽりと被ったベールを少しだけ上げた花嫁さんは、私をゆっくりと見上げた。
鮮やかな青の虹彩に、オレンジというか黄色というかな瞳孔──アース・アイという不思議な、それでいて安らぐ瞳。
雪のような白い肌に、うっすらと帯びた優しい微笑みは、春の夢のように美しくて。
「ぎれ″い″でず……!」
「ありがとうございます……っ!」
ロッテンマイヤーさんに抱きついた瞬間、涙腺が壊れた。
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