白豚貴族だったどうしようもない私に前世の記憶が生えた件(書籍:白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます)
やしろ
第1話 前世の記憶が生えました
私の1日は鏡を見て「今日も見事な白豚ですね」と自分の容姿を確認することに始まる。
私こと、『
まず、重苦しい雰囲気の肩まで伸びた黒髪、瞳は紫だけど、ぶよっとした脂肪に囲まれているせいで全く見えない。豚のような丸い鼻、唇なんて脂でてっかてか。唯一誉めるところがあるなら、雪のように白いお肌くらいか。だから白豚なんだけど。
幼児体型なんだからパーツが丸くて太短いのは解るけど、その太さが尋常じゃない。手首の太さが大人のと同じくらいで、腹が出すぎて屈むと苦しいのだ。
典型的デブスってやつです、ありがとうございます。なんの拷問かな?
でもこれでも大分ましになった方。
半年前までは前にせり出た腹のせいで爪先は見えなかったし、背中を自分で掻けないし、何よりトイレでお尻が自分で拭けなかったんだから。
今はトイレは一人で大丈夫。
他のことは兎も角、トイレだけは本当にキツかった。他人に下の世話をされるとか、本当に恥ずかしかったんだよ!
でもまあ、その羞恥プレイのお陰でダイエット頑張れてるんだから、良しとしよう。
……何驚いてるの?
五歳に見えない?
ああ、よく言われるし、実際精神年齢は多分その六倍くらいだし。
実は私には前世の記憶がある。
あ、ちょっと、ひかないで!
気持ちは解るけど、ひかないで!
それが私に生えたのは半年前のこと。
その頃の麒凰きおう帝国は流行り病が猛威を奮っていて、若冠五歳を間近にした私も撃沈。
高熱で魘されること一週間、こりゃダメだなと医者が匙を投げて、葬儀屋を呼ぶ寸前で命を取り止めたそうな。
この辺は小さい頃から世話をしてくれている乳母のロッテンマイヤーさんから聞かされた訳だから私にはよく解らない。
解るのはその高熱で魘されてる間に、にょっきり頭に生えてきた前の『俺』の記憶を貪り食ってどうにか『私』が生き長らえたということだけ。
少しだけ前の『俺』の話をしよう。
バブルの終焉間際に、俺は日本と言う国に生まれた。
趣味は料理に裁縫、DIY、ミュージカル鑑賞、特に菫の園のお嬢さん方の舞台は最高に良い物。お嫁に来て欲しいと言われる、いわゆるフツメンのオトメン。
独身だけど両親との仲は円満、仕事もちょっとブラックだった気はするけど公務員で、小学校からの親友と運良く同僚として肩を並べて勤めていた。
が、今思えばこれがいけなかったんだろう。
小学校からの親友『田中』は、アニメやラノベって奴が大好きで、よく俺にコスプレ衣装やらを作らせてくれた。
アニメの衣装は装飾が多くて、憧れの菫の園の衣装と共通するところがある。それが楽しかったし、材料はほぼ奴のバイト代からだから、俺は趣味を他人の金でやると言う贅沢を享受していた。
その代わりって訳じゃないが、家に来たら飯でもてなしたり、奴の原稿中のメシスタントなんかもしたし、コスプレにおけるメイク係もやった。
まあ、野郎同士気楽な付き合いで、バカばっかりして楽しく暮らしてた訳だ。
そんなある夏の日、コピー本を落とせないとか言う『田中』と、折角取った盆休み一週間のうちの三日間を原稿に費やし、三徹明けの四日目のイベント当日。
その日は朝から三十度を越える猛暑日で。
何とか間に合ったコピーの束を、サークルスペースで製本してる間に、会場はコミケ雲なるものが沸くほどの気温に到達。
徹夜明けのバカみたいなハイテンションで本を売ったり買ったり、コスプレしたり写真とったり。
そんな事をして遊び呆けて帰った後、暑いのに寒いって謎現象に襲われて。
家で風呂に入った後、ばったり倒れた俺は必死で呼び掛ける親の声を聞きながら、意識を失ったのだった。
その後の記憶がない辺り、俺は死んだんだろう。おそらく熱中症で。アホすぎる。
そして『俺』は『私』へと生まれ変わったのだ。
思うに一人称が『俺』じゃなくて『私』なのは、前の『俺』の知識が、上手く今の『私』に融合したからだろう。
『私』は『私』、最早『俺』ではないのだ。
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