第53話 指揮をとるもの
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弱音なんて吐けない
崇高で、何者にも汚されない存在。
人間であって人間でない
だけどたまには、よりかかってもいいよな?
ラメルは単身敵勢に乗り込んでいった。
踊るように軽やかに、怪我をしているとは思えないほど強い。
躊躇せずに切り込んでいく姿に、安全な場所にいるレインは罪悪感を覚える。お守りがわりに渡されたセイバーは、ぬぐってはいたが幾人もの血を吸っていた。
「……あいつはこの廃教会で身を寄せあって暮らしてた。そのあと内乱ではぐれていたところを拾った」
唐突な言葉を、ルフランは聴いた。
壊れた聖母がやるせない表情を見せている。ノイアの苑近くの廃教会は、取り壊しの要望がありながらも、行き場のない者達の受け皿として機能している。
「自分と同じような境遇の人間を作りたくないから。そういって、最初は殺すどころか、人を傷つけることだってできなかった。ただ、やらなきゃやられる。俺は、俺を殺しに来た刺客を自分で殺した」
少し遠くで怒声や罵声。誰かの命が消えていく。過去を完全に清算していない今、レインは誰かの死なくしては生きる事ができない。
「怖いんだ。あいつがこれ以上人を殺すのが。どんどん遠くなっていく。昔みたいには戻れない。あいつは強くなった。人だって殺していく。本当は嫌なのに。いや、それさえももう俺はわからないんだ。距離のとり方もうまくなって、俺の本気も軽々とかわしていく。俺は、あいつに何を望んでいるんだ?」
ルフランはレインのほうを見ずに言った。
「傷ついてほしくないんでしょう?怪我してほしくない、泣いてほしくない、つらい思いをさせたくない。……もちろん死んでほしくない」
「ルフラン――?」
彼は見透かしたような彼女を見やる。
「だってあの子のことを好きだから」
レインは押し黙った。
「……おれは――」
「だから妻を捜していないの。鍛練と言い張りながら寝る時間を削ってまで早朝に剣を、交えたの。どんなにキレイな人を見つけても揺れないように、パーティーにあの子を供として選んだの。――違う?」
「―――」
黙りこむしかなかった。
「私ね」
ルフランはくすりとした。
「下心を持って近づいたけど、あなたのことを好きだったのは本当よ。でももういいわ。だってレインは一人しか見てないんだもの」
「…………そうだな」
レインはルフランを急かし、手はずを頭の中で反芻した。
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