第49話 招かれざる参列者

「汝らは、国を背負うものとしての自覚と責任を持ちながら、共に国を治めてゆくことになる」

 ノイアの苑近く教会で、祭司長が婚礼の祝詞を挙げている。

 その言葉を間近で受けているのは、隣国の王女と次代の王だ。

 長らく待ちわびていた王位継承者の婚礼を、国の有力者達、少し離れて国民、ぽつぽつと点在している騎士たちが見守っている。

――ルフラン・カンタータ、相違ないか。

「はい」

 かけられていたベールが少しずれる。

 祭司長はほんの少し、顔の向きを変えた。

――リフ・レイン=ノイアフィルプ。相違ないか。

「――――」

 王子が口を開こうとした瞬間、アズナヴールが走り寄る。

「殿下!」

 刹那、教会が爆発した。

瓦礫がリフレインのいた場所めがけて降ってくる。

 叫び声、怒号、誰もが走る声。平静なのは、婚姻前の男女だけだ。

「……とんだ芝居ですね、姫」

 土煙の中から現れた人間は、折れた大剣を手にしていた。金の髪は無理に引きちぎられ、体にはあざが目立つ。

「……裏切り者の騎士が何の用なの?」

 ベールがとんだルフランは憎しみの眼を向ける。

「そちらこそ、本性を現したらどうですか?さきの爆発、あなたが仕組んだものでしょうに」

 抜けるような青空が場違いで、それでも太陽の光は隠れない。

「……もうお芝居はやめませんか?そろそろでてきてはどうです?自国の兵士を連れてきているのでしょう?」

 その瞬間、矢が放たれた。ラメルはそれを避けると、折れた剣のかけらを発射地点めがけて投げた。

「ぐ」

 ボウガン片手の男が倒れる。

「婚礼の儀に武器を持つことは禁じられている。……たしかあれはあなたの従者ではありませんでしたか?ルフラン・カンタータ」

「従者が、万が一のために武器を持ち込み、私を守ろうとしたただけよ」

「口封じではなく? 」

 隣国の姫はうつむいていた。

土煙が晴れていく。

重たい静寂が会場を包んだ。

「貴女は王子と近しい事を利用して、意思決定と自我を鈍らせる薬を飲ませた。この状況でも一言も言葉を発しないなんて、王子ではありません。

そして、あなたがきてから王子付きの女官、そして御殿医が城を去っている。護衛の騎士も入れ替わりが激しい。普段の様子を心得て、感づかれるのを恐れたためでしょう。なんなら王女の常備薬を調べてみるといい。基本的に王子は誰もが納得できる理由がない限り、人事はなにも触れられなかった!」

 騎士達が刀を握る音が分かる。

 だが、それでも加勢にはいってはこない。

「は、っ。そんなたわごと、貴方のような下賎な人間が言う事を信じるとでも思って?まして今、私の従者を殺したあなたは犯罪者よ?」

ルフランの従者が斬りかかる。

「話はまだですよ」

キン、と刀を受け止める音が響く。力と力のせめぎあいの中、ラメルは口を開いた。

「私は、確かに従者を殺しました。……では、あのときのことをお話しましょうか」

「――みなのもの、この騎士を始末せよ!庇う者にも容赦するな!!」

 形相は180度変わっていた。その瞬間潜んでいた兵士らが牙をむく。

「っつ!」

 折れた剣で受け立ち、素早く蹴りをいれ喉元を掻き切る。反撃しながらも、ラメルはルフランとレインのもとへと向かっていた。

「こんな、こんなはずでは――!」

 修羅場となった婚礼の場。騎士たちは呆然としている。

アズナヴールは爆発の衝撃から王子をかばい、動かない。

無傷の王子はそこから這い出していて、なんともなしに虚空を見つめている。

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