第41話 あなたのための、プロポーズ2
「騎士を辞めて、モルボルに来て下さい。エルーさんもいます。王家や城のごたごたから離れて、静かに暮らしましょう。家族はエルーさんを迎え入れました。きっとラメルさんのことも歓迎してくれます」
家族、とは。なんて甘美な響きだろうか。
エルーがいて、きっと刀に関わる仕事に少しは関わることができる。
今まで以上に、王家とは離れた生活。
きっと、『日常』。
「ジル・レオン、私はあなたをそのように見ることはできません」
「……形だけで、ほとぼりがさめたら離縁していただいてもいいんです。家柄も釣りあわない、命がかかったこんな条件付きで、ひどいことを言っていると思います。でも俺の気持ちに嘘はありません。ラメルさんのことが好きだし、なにより生きていてほしい」
そう、きっと。ジル・レオンの気持ちは真っ直ぐだ。
アズナヴールも、ジル・レオンも、ラメルを遠ざけようとする。
なにも知らないままに、平穏な世界へ背中を押そうとする。
それはとても幸せなことで、優しさに他ならず、少なくとも大切に思われているということだ。
同時にラメルにとっては消化不良で、今までの人生がざくりと切断されるほどに、急転直下の選択肢。
「だからこそ私は生き延びるためだけにあなたと結婚することはできません。ごめんなさい。でも、あなたの気持ちは嬉しかったです」
しっかりと目を見て答えを告げる。
答えは昔から決まっている。
今さら揺らぐことはない。
ジル・レオンは、分かっていたかのように笑った。
「ラメルさんの心には、一人しかいませんものね」
私はそれに答えずに、ただ黙っていた。
「王室付き騎士、並びに専属騎士特例」
密やかに発せられた文言に、思わず息を飲む。
件の特例は表には出ておらず、知る者はほぼいない。しかし生きている規則だ。
「ラメルさんは、これをやってるんじゃないですか?」
「………………図星ですか」
「………………」
「もうすぐトマさん戻ってきます。俺にできることがあればなんでも言ってください。地獄まで付き合いますよ」
凄絶な瞳にはこれでもかというほどの気迫があった。
「それと、これ差し入れです。とりあえずラメルさんの本棚に突っ込んどきますね。図書館からの払い下げなので、返さなくていいです」
昼の海。
そう書かれた画集とおぼしき本を、ジル・レオンは部屋の棚に乱暴に押し込んだ。
戻ってきたときに、自由な方の手を伸ばす。
バランスを崩した後輩は踏みとどまり、結果耳がラメルの近くへときた。
「……レオン」
「……はい」
「アズナヴールに聞いてください。あのとき朝の海は穏やかではなかったようだがどうだったか、と。そして、絵画の間の青い絵を確認してください。それを見て何を思うかは、あなたの自由です」
つかんでいた服を離し、仏頂面を作る。
「……ありがとうございます」
トマが部屋へ戻ってきた。
「…………変革の騎士、あなたに話すことなどなにもありません」
ジル・レオンは痛みを抑えたように、私の手首にかけられた紐をといた。
手つきはとても丁寧で、しかめ面を崩しそうになるほどに、優しかった。
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