第39話 ソードブレイカー



 いつもの騎士の服ではなく、ラメルにとっての正式な服装で。

ブラウスに、スカート。袖を通すのは初めてだ。

 女性用の制服は、レインが考えて作ってくれたものだった。姿見で最終的に確認をする。見慣れないが、変ではなかった。

 深呼吸。ツヴァイヘンダーに触れ、これからの運命に思いを馳せた。

 私の両手。

 私の一部。

 そして、私の楔。

 部屋から出ると、何人もの騎士に囲まれた。

今さら逃げも隠れもしない。

「剣を」

無言で渡すと、相手はよたつきながらもツヴァイヘンダーを受け取った。

廊下を歩き、玉座の間へと向かっていく。

身軽な身体がどことなく落ち着かない。

 荘厳な扉をくぐると、まず見えるのは王族達だ。王と后と王子と王女。シェルのルフランはレインの婚約者として、ノイアフィルプの一員のように受け入れられている。

 周りに控える高官達。

 その目の前でひざまずく。

「ラ・メール=イスリータ」

 呼びかけるその声音に、任命式の優しさはない。

ヒュース騎士長が、裁きの結果を言い渡すのだろう。

「そなたは騎士としての職務を逸脱し、他国の文官を殺めた。これにより、王室付き騎士から除名する。ならびに、正式な処遇が決まるまで軟禁処分だ」

――ぬるい!

――ヒュースどの。甘いですぞ!

 処分を下した騎士長に、そんな怒号がとんでいる。

 私を快く思っていなかった高官達にとって、これは絶好の機会だろう。声は止む事はない。私が耳をふさぎたいと思ったそのとき。

「静まれ」

 そう言ったのは、かつて私が守っていた人だ。

 たちまち室内は水を打ったように静かになった。

「……私の后となる女性ひとの従者を殺すところまで堕ちたか、イスリータ」

 久しぶりに見たレインは、全てが以前と違っていた。表情や声からはなにも読み取れない。

 ……貴方は。

「所詮このような者に私の背中を預けるべきではなかったということか」

 嘲るような目と、つりあがった唇で私を見る。

 一体、いつから。

「ならばこうするしかない」

 王子はかつて私に託した剣を持つと、自らの手で、

 床に無理な力をかけて


折った。


 破片が飛ぶ。

 何かが壊れる。

 私の分身が、からんという音を立てて放り投げられたことを遅れて理解する。この音を、忘れる事はできないだろう。

 「剣を汚したその罪は重い。温情はないと覚悟せよ」

 彼はそういって出て行った。

 私も引きたれられていった。



 騎士として最大の汚点は、信念を曲げ、剣を捨てたソードダスターだ。

 何らかの理由で降伏、屈服してしまったり、特別な理由もなく騎士をやめてしまったり。

 同情する人もいるが、同業者からはただ冷たい視線しか与えられない。

 なにより自身が許せないため、多くは自死を選ぶ。

 一方、あってはならないことがある。それは剣を捨てた者よりも軽蔑され、忌み嫌われる。

 たとえば背信。あるいは反逆。他にも私怨でも剣の使用。

 彼らの呼び名はソードブレイカー。

 剣を折ったもの。

 自分が忠誠を尽くす主から賜った剣を、当初の誓いとは違うように使った事からついたといわれている。

 

 私は騎士であることをやめたソードダスター。

 同時に、あってはならないことを犯したソードブレイカー。

 

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