第14話 王室付き騎士会議 午後の部
「アズナヴール、ヴァルテルミー、アルノー。この三名が護衛として欠席だが、あとは揃ったな」
従者の間で、王室付き騎士が一同に会する。
専属騎士業務の人員のみ残し、巡回警備も一般騎士に任せてまでの集まりなんて、異例のことだ。
私とジル・レオンは年次の都合上、隅の方に陣取り出席している。私語をしている騎士は一人もいない。
空気を読んではいるものの、落ち着かない様子だ。キャリアが長い騎士は素振りを見せないけれど、目に見えてそわそわしている後輩は目立つかもしれない。
ひそかに小突くと、動きは止まった。
「それでは、先の舞踏会での報告会を始める」
ヒュース騎士長の開会宣言に、空気がきりりと引き締まった。
久しぶりの仕事だ。1日近く任務を外れていただけなのに、二週間くらい休んでいたような錯覚を覚えた。
深呼吸し、神経を集中させる。
「まずは事後処理を担当した者、ご苦労だった」
何名かが頭を垂れる。目元には疲労の色が残っている。
「見習いの腹下しだが、見立てでは食材はシロだ。何者かが腹を下すような異物を食事に混入させた可能性がある」
にわかに視線が錯綜する。
それはそうだ。内部犯と言っているようなものだから。
「それは、城内の薬師が怪しいと?」
「いや、薬師の持ち物及び在庫に過不足はない。腹下しの件に関してはわからないことが多い。今後警戒するように」
腑に落ちない。けれどこれが調査の限界なんだと思う。
「次に、舞踏会の事後処理についてだが、賊の仲間はいないという見解だ。念のため、賊の本拠地と思わしきスラムに近々騎士団で遠征する。メンバーは追って選定し、決まり次第連絡する」
「……賊の侵入経路は、どこが高いですか?警備を強化せねば」
「……城勤め用の通用口だ。これから見習いを常備させる。だが引き続き警戒せよ」
通用口なんて、一般には公にされていない入り口だ。
「賊は孤児なんですよね?スラムにいた」
「そのようだが、我々王室付き騎士は王家の皆様と城内の安全を守る。城内の人間をいたずらに疑うことは騎士として恥ずべき行為である。慎むように」
ラメルが疑われても仕方ないくらいには、内部からの協力があったほうが自然だ。
騎士の家系だが孤児であることを、同僚たちは知っている。
古参騎士達は、ラメルが小さな頃のことも、王子と親しかったことも知っている。
何かしら思われていてもまったく驚かない。
「そして、ルフラン王女はしばらくこの国に留まる」
思考が一瞬途切れた。
隣から視線を感じる。
「これに伴い、リフ・レイン殿下の専属騎士は、本日よりアズナヴールが代行する。ラ・メールはジル・レオンと組んで城の警護、及び見習いの鍛練指導にあたるように。なお、ルフラン王女にはシェルの従者がつくが、巡回の王室付き騎士は気にかけるように。伝達事項は以上、解散」
ばらばらと同僚が散開するなか私は動けずにいた。
「ヒュース騎士長、これはどういうことです!」
末席の王室付き騎士が、恐れ多くも騎士長に直談判している。
「ジル・レオン、これはもう決まったことだ」
「殿下は承知の上ですか」
「そなたに答える必要はない」
「騎士長!」
来るべきときが来たのだと思う。
どちらかといえば、遅すぎるくらいに。
「もうやめなさい、サー・ルセーブル」
後輩の肩に触れると、感情を露にした顔が振り返る。
「ラメルさんは、それでいいんですか?」
「いいもなにも、従うしかないでしょう。巡回、行きますよ」
「ラメルさんがそんなことを言ってしまったら!」
泣き出しそうな揺れる瞳は、昔の自分を見ているようだ。
「……こっちは、なにも言えなくなる」
唇をきゅっと引き結ぶ。
「何も言わなくて結構です、ジル・レオン。ーー大変失礼しました、ヒュース騎士長」
姿勢を正し、深く頭を下げる。後輩の背中を押して同じように下げさせて。
ラメルは従者の間を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます