第7話 守られるもの
いつだって、俺の近くにいる人たちは、俺より先に死んでいく。
父親の理想に従った人間。
敵とはいえ同じ国の人間。
4人の兄。
何人もの護衛。
そして、専属騎士。
‡
舞踏会にはすでに多くの女性の姿があった。会場はごった返している。関係者でも一度席を外すと戻ってくるのに一苦労だ。
宝石の輝きや上質で色鮮やかなドレスがまぶしい。年頃の女性たちはみな見目麗しいときている。
聞こえてくる話の内容は、旅行先や音楽の話だ。
上流階級なら嗜んでいる、雑談にうってつけのテーマでもある。
教養として学んでいたため、レインは人並みに話せる。ただ、そこまで気をひかれるものでもない。
好みに合わないという意見も分からなくはなかった。けれど、そんなことを言っていては会自体が成り立たない。だいたい国の後継者であるからこんなわがままが通るのだ。下位の継承権を持つ王族なら、話を通しただけで一回も会わず婚姻することはよくある話。衝立の奥に控え、女官長から釘をさされているレインは、退屈そうに見えた。
……先が思いやられる。
「壁の花ですか?イスリータ嬢」
こめかみをひきつらせて振り返る。
声の主を間違えるはずもない。巡回に出ているはずの後輩だ。
王子に気を付けながら、その場を少し離れる。
「サー・ルセーブル、怒りますよ?なんのために私が男装していると」
「申し訳ないです、こうでもしないとお話できないと思ったので」
ジル・レオンは微笑んでいるが、警戒をしている。
任務中、意味もない行動をする人間ではない。
「……どうしました」
「現場が混乱してます」
声を落とすと、即答される。
私とジル・レオンの配置が変更になったのは、レインのわがままだ。負担を最小限に抑えるため、他の配置変更はない。
私と組むはずだった騎士は、驚いただろうがラッキーだとも思ったはずだ。代わりに来たのはジル・レオン。軽妙な物言いとからっとした明るさは、多くの人に好かれている。誰の懐にも入っていく彼となら、仕事に影響しないだろう。
「見習いが集団で腹下しました。上級騎士の名前で配置変更が何回も出て情報が錯綜してます。今は王室付き騎士で指揮を取っていますが、手が足りず」
生物でも食べたというのか。いや、見習い騎士には厳しい指導教官がついている。
見習いまで駆り出して、万全の態勢で警備をしているのだ。
他国の王族が暗殺でもされようものなら、ノイアフィルプ末代まで泥はとれない。
衝立の奥に目を向ける。
アイコンタクトに気づいたヒュースと、もう一人が顔を見合せ、立場が下の方の騎士がやってきた。
「……バルテルミー副騎士長に統括いただきましょう」
報告を受けた副騎士長は、苦虫を噛み潰したように頷いた。
それなりの地位を持ち、遊軍的に動ける騎士は他にはいなかった。会場は専属騎士2名のほか、王室付き騎士2名と騎士2名で警戒にあたっている。
「ルセーブル、案内を頼む。イスリータ、会場は任せた。2人借りていくぞ」
「はっ」
音もなく退出する一行が見えなくなったと同時に、衝立の奥で動きがあった。
王子の入場、続いて進行役の大臣が入る。
裏方の忙しなさとは裏腹に、華やかな世界が始まった。
もちろん王子のほかに何人もの高貴な身分の男性がいたが、王子が現れた瞬間、女性の目は彼に注がれた。……当然だ。彼はこの会の主役であり、うまくいけば将来の国王となる人の妻になれるかもしれないのだから。
前口上が終わり、早速何人もの貴婦人からダンスの誘いを受けていたが、彼はことごとく断っていた。私は目立たないよう、王子からつかず離れずの距離にいた。
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