第10-1話 光の魔法少女と灰色一族
「え、りんり の姿をバラした上に、光属性の魔法少女が現れた?」
お昼休みの屋上。燐里は昨日の出来事を静馬に話した。
因みに聖菜は休み。
マイハニーが同一人物だったことに興奮したのか熱が出たようだ。
「これで『分身』の魔法を買わなくて済む(かなり高額)が、聖菜がどう行動するかだな」
針田はツナおにぎりを頬張りながら、別のコンビニ袋を開けてツナのおにぎりを取りだす。
コンビニの食べ比べがマイブームになっているらしい。
おにぎりを口にする前に、ハリネズミの小さな手で器用に500mlサイズのお茶を飲んでから、もう一つの問題を口にした。
「光側の接触か。
魔王族の欠片は、光側も回収阻止しようと動いている。いつ現れても可笑しくはないが…どこの派閥が来たのかが問題だな。
燐里、本当にそいつの名前は聞けなかったのか?」
「無理。聞く前に聖菜の塩反応にショックを受けて逃げちゃったよ」
「フルネームじゃなくても、名前一つでも分かればなぁ。一族のネットワークで調べられるから、上司から追加ボーナス貰えたのに」
「一族のネットワーク?」
「針田は情報収集する専門の一族なの。魔族じゃあないから、光属性も知ってるよ」
燐里はさらりと驚く一言を言った。
「は?え? 針田、魔族じゃないの? でも、燐里の保護者なのに? もしかして光属性?」
「いや、上司が魔王族だから、今は魔族属側になるが…
我が灰色一族は魔族でもあり、光属性にもなる」
「どういう事?」
「両方の属性を持っているって事だ。
人間世界にある『童話』というやつに、獣属性と鳥属性が争った時に、両方のグループに入ったが、最終的には嫌われ者になったコウモリがいる。
我々、灰色一族はそのコウモリといった所だろう」
「コウモリは翼で飛べるのに哺乳類だったっけ」
「両属性を持つから、魔族からも光からも良い目で見られていないが。一つ、その童話と違うとしたら、我々 灰色一族は高い情報収集能力を売り物にして、魔族と光に商売、というより利用しているというわけだ」
「ん、ふっふふ。そして、その灰色一族は集めた情報を素直に提供しなければならないという、ルールがある」
屋上に新たなる声がした。
「だ、誰だ」
静馬はいつの間にか存在していた者に身構えた。
「…昨日の……」
「え、じゃあ、こいつ……が?」
燐里の言葉に静馬は、光の魔法少女に向けるが『?』マークがついてしまった。
プラチナブロンドのくりんくりんの髪に青い目。トイプードルを思わせる容姿は、まさしく百合娘好みだが、身にまとう白いシャツの下はズボン。静馬と同じ制服だった。
「聖菜のやつが塩対応した理由は、このせいか…」
「え、でも、聖菜は初対面みたいだよ」
「百合スキルの高いやつだから、無意識反応だろう」
「何をごちゃごちゃ言っている」
光の魔法少女だった少年は、ビシッと針田に指を指す。
「そこの灰色一族。この魔族女の情報を全て提供してもらう。
我が名はリルディ・タバルサ・カカザン」
「ふん。ハリダ・エギュラメ・ルータス。甘いな
「そんな、魔王族じゃないか、卑怯な」
「えーっと、どういう事?」
2人のやりとりが分からない静馬は隣にいる魔族少女に聞いた。
「まず、針田の灰色一族は、収集した情報を魔族と光、公平に教えなければならない決まりになっているの。
リルディが私の情報を聞き出そうとしたのは、それ。
でも、例外があってね。
針田みたいに上位階級者の専属部下になっている場合、聞き出そうとした者、もしくはその上司が上のレベルなら、話さなくて良いの。
リルディの上司がどの位なのか、知らないけれども。王族クラスではなかったようね」
「名前を言っただけで誰がどの階級の上司か分かるんだ」
「ミドルネームだよ、静馬。
魔族、灰色一族、光側の2番目の名前は仕える上司の名前なの」
「ミドルネームが?人間世界は、宗教的や苗字が少ない海外は個人が分かるように付けているらしいけれども、そうなんだ。じゃあ燐里も?」
「そうだよ、リンリ・ガデバウム」
「?」
静馬は名前が少ない事に気づいた。
「あぁ、私には苗字はないんだ。ミックス魔族だけれども、ガデバウム様の部下になるから、一族の繋がりを断ち切らされたの」
何度か説明しているのか燐里はさらりと言ったが、その表情に寂しさが僅かに含まれていた。
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