第10-2話 語る光の魔法少女

 気まずくなった空気を破ってくれたのは、かんしゃくを起こした光の魔法少女こと少年リルディだった。


「むきーっ。こうなったら、そこの魔族女、バトルだ」

「え、何でそうなるの?」

「そもそも、お前は聖菜様に気に入られているのが、気に入らない。それに魔族だし」

「魔族は後なんだ…」


 静馬の言葉にリルディは、音量を上げて答えた。


「この際、魔族なんて関係ない。聖菜様の愛を独り占めしているなんて許さない」

「いや、聖菜とは友だち」

「友だち? 友だちになれるだけでも気に入らない」

「ただの逆上だろ、それ」

「うるさいよ、そこの灰色」

「そもそも、何で光属性が人間、しかも聖菜にラブラブなんだ?」


 リルディは静馬の疑問にころっと表情を変えた。


「人間、良いことに気づいてくれた。…情報を垂れ流す灰色がいるから本当は話したくないが…そこまで言うのなら仕方ない、教えてやろう」

「そこまでも何も…」

「いや、そんな情報はいらない」


 静馬と針田の遠慮を無視して、リルディは嬉しそうに語り始めた。


「僕は魔王族の欠片回収する魔族を妨害すめために、単身乗り込んできたものの、初めての人間世界に戸惑い、路頭に迷ってしまった」

「異なる世界あるあるだな。特に光側は人界と世界観が違う。光世界の常識で人間世界に来るとギャップに戸惑うだけなら良いが、通報騒ぎを起こして、強制送還される者もいなくはない」

「え…。そんなに違うの?」

「簡単に例えるならば、海外から来た者が土足で日本人の家に入る。そんな所だな」

「何となく分かったような、分からないような…」


 針田がプチ情報を流す間も、リルディの『聖菜様との出会い話』は続いた。

 燐里に至っては、聞く気になれないのか、スマホを取り出している。


「そんな時に手を差し伸べてくれたのが聖菜様だ。

 聖菜様は、まるでジルキューレ様のように慈愛に満ちた眼差しを僕に向け『大丈夫?』と、声をかけてくれた。その笑顔は大光司ミスティアール様のように優しい光、いやもう光そのもの。

 そんな聖菜様のお姿に、どん底から僕を救い出してくれた。


 聖菜様のために力になりたい。


 そう思った僕は、聖菜様の後を付けて、住んでいる所や、身につけていた服装から学校を見つけ出し、学校に乗り込んだ」

「それ、マズくないか?」

「何を言う人間よ。聖菜様のためならば、それは正しい行いになる」

「いや、それは違うと思うんだけど…」


 静馬のツッコミはリルディの耳に入る事はなく、話は進む。


「学校の生徒になりすまして聖菜様に近づこうと思ったのに、そこの魔族が全て持って行った…って、何、スマホいじってんだよ」

「えー、話が長いんだもん」

「むきーっ、バトルだ、僕と戦え。

 その歪んだ精神 叩き直してやる」

「いいよ。でも、私の勝ちだけども、ね」


 燐里は画面をタップすると、スマホから黒い霧のようなものが発生した。霧は雨雲のように膨らみリルディの頭上に移動する。

 それから『トン』と音を立ててリルディの周囲に鉄格子ができあがった。


「バトル終了&勝利。

 魔族魔法アプリにも、檻の魔法があるのよ」

「こんなの卑怯だぞ」

「作戦勝ちだよ。相手に隙を作るのが問題、ね、針田」

「作戦と言えるレベルではないが。まあ、間違いではないな」

「むきーっ、魔族に捕らわれるなんて。僕をどうする気だ? 煮て食うのか?それとも拷問にかける気か?」

「いや、そんな野蛮な事しないよ」


 あきれ顔で否定したが、燐里はにんまり笑み顔を針田に向け、右手の親指と人差し指で輪を作った。


「ここは灰色一族に任せるよ。魔族と光の面倒くさいプライド争いに巻き込まれる気はないし。

 と言うわけで針田、取り引きしない? 見た感じ良いとこ出のお坊ちゃまみたいだから、色々情報収集やら何か交渉できるかも」

「良いだろう。だが、小者だから小遣いレベルだな」

「えー、リルディが小者でもバックは大きいはずだよ」

「小者、小者言うな」

「……」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐ様を見て静馬は、魔族も光も灰色一族も人間と何一つ変わらない事を実感した。


『それと燐里。たくましく生きているんだな…』


 逆境を生きる燐里を静馬は、しばらく見つめていた。



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