第9-2話 いかのおすし

 魔王族の欠片を持つ静馬は、24時間365日狙われている。

 静馬の自宅には強力な結界をかけて万全だが、外に出れば、いつ何者に狙われてもおかしくはない。

 結界の効果があるマジックアイテムを渡しているが、自宅ほど高いレベルはなく、その理由は針田の仕事にあった。


『上司に、静馬を狙おうとする者の情報を集めろと、命令がかかっているからな』


 なので静馬のバイト日は、針田が護衛、残業となる。


 なので…針田の目が届かない所、というより聖菜と一緒なのは保護者として気になるようだ。



『女子高生生活を楽しんでほしいが、相手は要注意人物。十分に気をつけるように』


 燐里のスマホに魔界版会話式メッセージアプリ『ヤイン』に注意事項が送られてきた。


『いいか、いかのおすし だからな。

(聖菜の家に)行かない

(うまい話に)乗らない

(いざという時は)大きな声を出す

(魔法は使えないから)すぐ逃げる

知らせる(帰宅後、報告するように) 』


「………」


 カップケーキ専門店の席に1人で座る燐里は、既読だけしてアプリを終了させた。


『静馬も別れ際に『幼なじみだから言う、あいつには十分に気をつけろ』って言われたし。

 まあ、あの時は確かに恐かったよ。トラウマも全くないわけじゃあない…』


 燐里はちらりと、レジ待ちする聖菜の後ろ姿を見た。オープン初日で混み合うため燐里は席を確保し、聖菜は会計を分担している。


『でも、友達宣言してから聖菜は友達として接してくれたから、大丈夫だと思うんだよなぁ。

 卵焼き、美味しかったし。

 魔界で諦めていた友達ができたからね。静馬と (女友達として)ましず で3人目の友達。なくしたくないという気持ちがあるせいかな…』


「燐里ちゃん、お待たせ」


 会計を済ませた聖菜が戻ってきたので、燐里は思考を止めた。





 放課後に美味しいカップケーキと飲み物が揃えば、気持ちは軽やかになり、要注意人物と言われた聖菜であっても、服やスイーツの話で盛り上がる。



「2人とも心配しすぎだよね」


 トイレに立ち寄った燐里は、鏡でかみチェックしながら男達の不安を払拭した。

 燐里の頭中では、次に何を話そうかの思考だけで、ドアを開けた先も女子高生の放課後が続くと疑いもしなかった。


 店内に戻るドアが先に開くまで。


「あれ、聖菜もトイレ?」

「燐里ちゃん…」


 聖菜はドアを閉めると、燐里に近づき、燐里を抱きしめた。


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