第9-1話 百合娘の友だち作戦
女装がバレなかったのは、聖菜が燐里しか見えていなかったからだろうか?
翌日、登校を終えた静馬は、昨日の聖菜参加のせいで、難易度がアップしたプリクラ ミッションを思い出した。
目を離したスキに何をしでかすかわからない聖菜のせいか、そのお陰で周りの目を気にしなくて済み、後日の変身に勇気がついた。
だが、気になってしまう。幼なじみなのに、聖菜はなぜ気がつかなったのか?
その答えはすぐに判明した。
「りんりちゃーん、私、気づいたの」
聖菜の声がしたかと思うと静馬の隣席にいた燐里に直行する。
静馬に視線を送らない所か、背を向けて。
こいつ、やっぱり燐里しか見えていない。
「お、おはよ、聖菜。登校の時、見当たらなかったから、どこかの部活に手伝いにいってたんだね…」
「ん、まぁ、そうだったの。
それよりも聞いて、気づいたの燐里ちゃん」
聖菜は燐里の手を取り両手で包み込む。
「………」
昨日は見えていないが、今日は見えないようにわざと背を向けていやがる。
そう答えを出した静馬は、見えなくても幼なじみの行動を読み取り、立ち上がると燐里から右側、聖菜の前側に移動し、無言の圧力をかけて軽いセクハラを止めさせた。
聖菜は静馬に不満げな顔をしたが、身構える可愛い子犬を愛おしく見つめる。
「恋人から始めようとするから突っ張りすぎて、空回りになって燐里ちゃんを恐がらせている事に私、気づいたの」
「冷静に見ることが出来たんだな、聖菜」
「ひどーい、静馬君。私だって、恋する女子高生よ、燐里ちゃんの気持ちぐらい読み取れるわ」
「いや、読み取れたら、燐里が怯えるわけないだろ」
「…ぅん。
だから決めたの燐里ちゃんと友達から始めようって」
「え、聖菜と友達だったんじゃなかったの」
… … …
「おっけー燐里ちゃん。最初の壁は突破したのね」
「そこでハグしようとするな、友達と言ったそばから、これだ」
静馬は、両腕を広げて抱きつこうとする聖菜を制してから、燐里に視線を向ける。
「こんな奴を『友達』にできるなんて、ありがとう燐里」
「聖菜の奴、昼めしまで乗り込んできたな」
放課後、教室を出た静馬は少し不満げな顔で燐里に幼なじみの不安を漏らした。
「聖菜から貰った卵焼き、すんごい美味しかったよ」
「あいつ、女子力も高いんだよ。けど燐里、体調に異変はないか?眠くなってきたとか」
「へ? …うん、大丈夫だよ。静馬、聖菜は友達宣言したんだから。心配しすぎ」
「…なら、いいんだけど。
聖菜が居座るようになったから、魔法少女の話がしづらくなってきた。魔法の事で針田に聞きたい事があったのに」
『なんなら、今、聞こうか』と、燐里のスクールバックから針田の声がしてくるはずなのだが、ぬいぐるみは沈黙を守っていた。
そう言う時は高い確率で人の気配を感知した時となる。
「あ、燐里ちゃーんと、静馬君」
階段にさしかかった所で階上から聖菜が降りてきた。距離からして2人の会話は聞こえていないようだ。
「隣のクラスなのに、何で上にいるんだ?」
「やーね、静馬君。ちょっとヤボ用だよ。
それはそうと燐里ちゃん、これから空いてる? 今日オープンしたカップケーキ専門店の半額クーポン貰ったの。一緒に行かない?」
「え、半額?」
半額の言葉に目を輝かせる燐里に対し、静馬は警戒の視線を向けた。
「よりによって俺がバイトの日にか」
「あれぇ。そう言えば、静馬君はバイトだったね。残念」
「元から俺のこと省いているだろ」
「だって燐里ちゃんとガールズトークしたかったんだもん」
聖菜と静馬がやりとりしている間に、燐里のスマホにメッセージの着信音がした。
『針田からだ。
たまには人間女子高生 生活を味わってもいいだろう。
もちろん、何か騒動が起きたら即、動けるようにな』
燐里がスクールバックに視線を向けたが、そこにハリネズミのぬいぐるみはいなかった。
再び燐里のスマホに着信音が鳴る。
『これから護衛と情報収集の仕事があるから、帰宅時間はいつも通りになる。
いつものことだが、帰宅したら鍵と魔と光の結界効果のあるマジックアイテムをかけておくこと。
俺は一族専用の移動魔法を使って直接部屋に戻るから、チャイムが鳴っても絶対にドアを開けるなよ…
って、まったく、いつもいつもつも。子供じゃないんだから』
と、心の中で呟いてから『スマホ』と聖菜に『OK』を告げた。
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