第7-2話 魔法少女と1日風紀委員
「燐里ちゃん。服装検査をしましょうね。スカート短いんじゃないかしら」
にっこり笑いながら聖菜は風紀委員から定規を貰うと、近づいてスカートに触れようとするが、寸前で燐里は後退する。
「買った時のままだから、大丈夫」
「うふふ。違反している子も同じ事を言うわ。さあ、恐がらないでこっちにおいで」
数人の風紀委員たちが前に現れて、燐里を拘束しようとするが、聖菜は静かに制した。
「駄目よ、私の燐里ちゃんに触っちゃ」
鶴というより女神の一声で、近づいてくることはないが、風紀委員たちは取り囲み燐里の逃亡を防ぐ。
「………」
燐里はちらりとスクールバッグに取り付けたハリネズミのぬいぐるみに視線を向けるが、動く気配はなかった。
「うふふふふ」
ゆっくり近づいてくる聖菜に、一風が通り過ぎた。身動きが取れなくなるほどの強い風が
「うわっ何?」
その場に居合わせた者たちは、身構えて風が通り過ぎてくれるのを待つしかなかった。
燐里も例外なく身構えたが、ふわりと体が浮く。
「え? し…まし…」
「しーっ」
魔法少女ましず に変身した静馬が、燐里の目の前にいた。人差し指を口に当てて。
魔法で起こした風に乗って救助に来た ましず は、燐里を抱き抱え、校門から脱出する。
「助かったよ、ましず ありがとう」
人のいない所まで逃げきれた燐里は、黒髪さらさらの魔法少女に礼を言う。
「出来る限りの事は、するって言ったでしょ」
ましず は胸を張りにっこり笑った。最近、女子言葉に磨きがかかっている気がする。
「それに聖菜の事だから、特別教室で身体検査までしでかすかもしれない」
「……」
魔法少女ましず は静馬に戻るため、リコーダーサイズの棒を振り上げようとしたが、何かの気配を感じとると、燐里の前に移動し、ナイトのように棒を剣のように構えた。
「燐里ちゃんの匂いを嗅ぎつけて来たら、この前の妨害娘」
聖菜だった。
「ちょっと待って、ここ体育館の裏側だよ。校門から かなり離れてるよ」
「燐里ちゃんの危機ならば、地球の裏側まで一瞬で駆けつけられるわ」
高速での移動だったのか、下僕の委員達が後から来る様子はなさそうだ。
「危険は、あなたよ」
暴走幼なじみを抑えるための言葉だが、聖菜にとって宣戦布告となった。
「ちょっとあなた、何なの、この前の金髪のマイハニーだけ飽き足らず、今度は燐里ちゃんをかすめ取るなんて」
「聖菜、金髪の方が好みなんだ。だったら…」
そっちに専念してほしい(負担を少しでも減らしたい)と誘導するための発言だったが、聖菜は別の意味として受け取っていた。
「違うの燐里ちゃん。金髪マイハニーも好きだけど、燐里ちゃんも大好きなの。どっちも選べないの。
選べないから、目の前に現れた方を全力で落とすことにしたの」
「堂々と二股をかけるなんて、それが学校の女神様と呼ばれる子の言うこと?」
燐里も魔法少女になった金髪りんり も、同一人物なので聖菜には非はないのだが、ましず は『選べない』という気持ちからの発言となったようだ。
「何ですって、あなただって、2人に手を出して同じじゃないの」
「一緒にしないで。私は燐里たちを変態から守っているだけよ」
「朝からコスプレして、燐里ちゃんをさらうなんて、そっちこそ変質者でしかないわ」
「へ、変質者ですって」
燐里を助けるため魔法少女になっただけなのと、言われたのが幼なじみなのとを合わせて、ましずの怒りは高まる。
『まずいなぁ…』
守られている側の燐里は、これ以上の会話は亀裂を大きくするだけと察した。
『とは言え、聖菜は人間だから、堂々と魔法は使えないし…ん?』
燐里はスクールバッグに取り付けているハリネズミのぬいぐるみが、手を上下に振っているのに気づき、燐里は耳を近づける
「……」
針田から指示を聞いた燐里はうなづき行動に移した。
「待って、聖菜」
燐里は、ましず と聖菜の間に立った。スクールバッグを持つ両手を後ろにまわして。
『針田が ましずに指示してくれる間に、聖菜をひきつけろと言われたけれども…何て言えば……』
「燐里ちゃんはどう思うの」
「へ?」
「だから、私とその変質者どっちが正しい意見だと思う?」
聖菜は、 ましずとのやりとりの延長となる返答を問う。
燐里は針田の指示を聞いていたので、2人の会話内容は知らないが、それを聞き直せる空気ではなかった。
『……この場合、聖菜に賛同した方が良いかも。後で静馬に事情を説明すれば分かってくれる』
そう判断した燐里は『私は聖菜の意見が正しいと思う』と口にした。
それが混乱となる一言だと知らずに
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