第4-4話百合の花が咲く朝、新たな攻防戦が始まる

「…んり。 りんり」


 声に気づき りんり は眠りから覚めた。

 曲げた両膝の裏側と背中。それから左側面に自分以外の、誰かの感触に気づきハッと声の主を見上げる。


「大丈夫か?」


 短い黒髪の少年。変身を解いた静馬だった。


「静馬だ、助かった」


 大蛇のような聖菜から解放された事に りんり は思わず静馬の首に腕を回し、抱きついた。


「そっちはええんかい」


 りんりのスクールバックのぬいぐるみになっているのか姿は見えないが、針田は、なぜか関西弁でツッコミを入れる。

 少年姿でのお姫様抱っこ状態だった事を認識した りんりは赤面して、静馬に降ろしてもらった。


「魔法少女のままで起きなかったから、アパートに運ぶ所だったんだ」

「ありがとう」


 りんり は辺りを見回し、静馬以外の人間がいない事を確認してから、アプリを起動して人間の姿に変えた。


「モンスターは大丈夫だったの?」

「針田の的確な指示で切り抜けたよ」

「案外、りんり よりも動きが良いかもしれないな」

「それは、悪うございましたね」


 静馬から返してもらったスクールバックのぬいぐるみを一睨みしてから、燐里はもう一回、辺りを確認してから聞いた。


「で、聖菜は?」

「家に運んだ。聖菜のおばさんには風邪が完治してなかったらしいと、誤魔化したよ。今日は休んでもらう」

「そうだね」


 ほっとする燐里に、静馬は頭の下げた。


「本当に うちの幼なじみが、すまない。まさか、本当に手を出すとは思わなかった」

「…うん。さすがに危険を感じた」


 聖菜を運んだ理由で堂々と遅刻できるので、2人は校舎が見えるまで、普通速度で登校を再開する。

 とは言え、微妙な空気が漂う。燐里は『やっぱり遅刻は良くない』と理由を付けて会話しなくて済む速度で歩き、この場を切り抜けるべきか、と考えていると、静馬は口を開いた。


「欠片、取り外せるんだよな?」

「方法を捜してさがしてもらっているけれども。必ず、取り出すよ」

「なら、それまでの間、俺、魔法少女になって戦うよ」

「静馬」


 見上げる燐里に、静馬の表情はまだ固いが、自分の発言にうなづいた


「女の子に守られるよりは、自分で戦いたい…と格好良く言いたいけれども。

 聖菜を犯罪者にしたくない」

「…うん。そうだね」

「欠片が取れない間は燐里がいて、聖菜の危険にさらされる。あいつが暴走したら、魔法少女にならないと助けられないかもしれない」

「静馬、モンスターの襲撃も忘れんように」


 ハリネズミのぬいぐるみは軽くツッコミを入れてから、可愛い姿に似合わない低く真面目な声で魔界の情報を伝えた。


「欠片が角だという情報は、一応、機密情報になっている。とは言え簡単に広がる世の中、いつ、凶悪なモンスターを引き連れてくる輩も出てきても、おかしくない。

 静馬とりんり。2人体制でも困難なバトルもあるだろう」

「……。気合い入れていかないとな」


 静馬は右肩に手を当ててから空を見上げたものの、ため息をつく。

 『ため息の理由は、聖菜だろうな』と、燐里は理解できた。


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