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車に戻った。ようやく私の家まで帰ろうという段階になった。
私はそのまま寝てしまいたかったけど、後ろで茅島さんと八頭司が事件のことを話しているのが、妙に気になってしまって、目をつむりながら耳を傾けてしまった。
「こうしてみると……誰でも当てはまるわね。除外条件がないっていうか」
「えーっと、土堀さんはとりあえず外して良いんだっけ?」
八頭司が確かめながら言った。おそらく端末を開きながら、びっしりと保存されたメモ書きを眺めているみたいだった。
「ええ、とりあえずは……。取調べ中に爆破なんて起こせるかしら。他の事件でも現場にはいたけど、単に好奇心と電波妨害が理由だって言ってた。現に、スーパーの事件では、彼女が要因なのか、爆破時刻が確かにズレていた。あれだけピッタリ合わせていた犯人からすると、ちょっとおかしいわよね。このことからわかるのは、爆弾は時限式じゃないってこと。時限式に見せかけたくて、時間を丁度に合わせていたようね」
「ていうことは……現場にいたってことを隠したかったんだ。そうなると、俄然容疑者の中に真犯人がいるって可能性が否定できなくなるね」
「だけどスーパー爆破事件での容疑者と、ホテルでの容疑者が一致しないのもなんでなのかしらね……。どちらかでは、上手いことやって逃げおおせたのかな。でも、それでも全員決め手にかけるっていうか……さっきも言ったけど、誰でも可能っていう所が面倒なのよね。基本的に犯人を犯人たらしめる条件としては、犯人は私のことを知っている、情報屋を利用したことがある、機械化能力及びパーツのメンテナンスに精通している、機械化能力者で機能は電波を飛ばして機器を操作する、警察署に爆弾を仕掛けることが出来る、そんなところかしら。そのうえに情報屋が言うことを信用するなら、犯人には家族がいて早く家に帰らないと行けないみたいだけど、これって信憑性あるのかしら」
「情報屋に金額はそれなりに出したの?」
「男に言われたとおりに、それなりに。もちろん経費で落とす」
「それでも、ダミーって言う可能性も考えられなくはないよね」
「ええ。流せるみたいよ、ダミー情報。五十田先生がテストの偽問題を流してるって。情報屋にお金さえ掴ませれば」
「へえ……じゃあもうどうしようもないじゃん、そんなことされたら」
「そうね……じゃあ順番に、一人一人頭から考えましょうか。土堀さんは除外できるけど、彼女も一応照らし合わせてみましょう」
「そうだね……。土堀って、電波が見えるんだったよね。それで、犯人の予行練習と思われる電波を見かけた場所が、その数日後に爆破されたって。電波妨害しようとしても、犯人はそれ以上に、電波の強度が高かったとも言ってた」
目を開けた。
窓を眺めると、夜景が長いコードを巻くみたいにスライドしていた。
段々気持ちよくなってきた。
「彼女を条件に当てはめると、私のことは名前しか知らないみたい。でも情報屋は利用したことがあって、私のことを調べていないとも言えない。メンテナンスの知識は、学業の成績や、メンテナンス業者への依頼していたことから言うと、無いわ。これは久喜宮刑事からの情報。彼女は自分でメンテナンスできないの。そして、警察署爆破事件の時には、取り調べを受けていたため何も出来ず、家族もいない」
「そうなるとやっぱり犯人じゃないのかな……。メンテナンスやふくみに関する知識が嘘でない限りは」
「……そこはあとで考えましょうよ。なんか、頭壊れそう」
「うん……。次は今さっき会ってきた下方さんが私は気になるんだけど、私、彼女のこと怪しいと思うよ」
「なんでそう思うの?」
「勘」
「そんなもんでわかったら苦労無いわ……」
「まあまあ。でも考えてもみてよ。ふくみのことを知ってて、情報屋を利用したことがあって、人間工学専攻だから機械化に対する知識もあるじゃない? そして警察署はもちろんだけど、家族もいるし、なにより動機があると思わない?」
「動機?」
「ホテルで働くのが嫌になって爆破した」
「そんなバカな……だったらなんでガソリンスタンドやスーパーなんか……」
「カムフラージュだよ。いきなりホテルだけ爆破しても、自分がやったってバレるじゃん。従業員なんて特にさ。無差別大量殺人の不動産バージョンだと思えば納得行くでしょ? 本当に殺したいのは、大量の中のたった一人なんだよ」
「じゃあなんで私を狙ったわけ?」
「ふくみは有名人だから、恨みを持つ人間がいてもおかしくないから、爆死させても動機はそっち方面だと思われるから、だよ」
「なるほどねえ……。そんなことで爆破なんてするものかしらね……いや、人の考えることって、他人には理解できないものだけれど」
「でもほら、彼女の労働環境。あんなに辛い労働から逃げられる方法が、それしか思いつかなかったとしたら、有り得そうな話じゃない?」
「それなら致し方ありませんね」
精密女が、運転をしながら、すこし憂いを帯びた顔を見せて口を挟んだ。
「人は誰だって、機会と手法とそれなりの動機があれば、犯罪だって簡単に起こしてしまいますから」
「…………」
「それはそうと蝙蝠女、さっき警察署でわかったことがあるんですけど、つい言うのを忘れていました」
「なによ」
まっすぐにフロントガラスを見つめたまま、精密女は話す。
「ホームレスの他にも、行方不明になった人が多々いるという事件についてなんですけど、呼び出されたついでに、警察署の近くで聞き込みをしたんですよ。暇だったので。もちろん久喜宮さんの許可は得ていますが。そしたら、知り合いが失踪したまま消えたっていう人がいましてね。こんな偶然あるのかーって、喜んだんですけど」
「へえ……」
「その人の知り合い、いなくなった人ですね。機械化能力者だったらしいですよ」
「……機械化能力者がいなくなった? それって……犯人の仕業?」
もうひとり、機能を使って無理やり協力させられているとしたら、電波以外での偽造も、爆弾設置も爆破も、そもそも全ての犯行が一人の犯行である可能性すらなくなってしまう。協力者がいれば、そのくらい幅は広がった。
「まあ、そうですね。家族かなにか、命でも脅せば、協力させるのは容易ですね。ホテルでは、その場にいなくても爆弾設置だけを頼めば、あとは何処からでも自在に爆破できますし」
「……そのいなくなった知り合いって、どういう人?」
「さあ。私は知りません。名前以外は詳しくは教えてくれませんでした。全く関係ない事件という可能性もありますし、深入りはしないようにしたんですけど。でもその人の名前は、確かに警察が持っている行方不明者リストに存在しました」
「……ありがとう。覚えておくわ」
「そうだ、ふくみ。この話は知ってる?」
八頭司が思い出したように言うと、茅島さんが返事をした。
「なに?」
「爆破前に人が言い争っていたって、見た人が結構いるらしいんだけど。土堀も言っててさ。何か関係あんのかな……」
「あー、ええ。確か……田久さんだったわよね?」
私の方に声が飛んできたので、私は頷いた。田久さんから、そんな話を聞いたことがあったし、私もこの目で見ていた。結局、その理由もよくわかっていない。
「ふくみ、ホテルのときはそんなのなかったの?」
「なかったわよ。いきなり閃光弾が飛んできて、テーブル使って隠れたら、爆発したわ」
「うーん、どういうことだ?」八頭司は腕を組んだ。「茅島さんの巻き込まれた現場と、警察署以外では、そういう目撃があるんだよ。警察署はまあ場所柄から、外から人が殆ど入ってこないってのもあるけど、ホテルはそうじゃないじゃん……」
「なにかしら。犯人の電波で頭をやられて言い争いに発展したとか?」
「……むしろ有り得そうな所が怖いよ」
「撹乱っていうか、爆発物から注意をそらすためにそういう人物を用意したんじゃないかしら。だけどなおさら、私にそういう策を敷いてこなかったことが不思議ね。閃光弾で十分だと思われたのなら、舐められたもんだわ。まあ仮に変な言い争いが起きていようが、逃げ切る自信はあったけれど」
「へえ、カッコいい」
「何言ってんのよ、そのための耳よ」
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