第2話イヤホントラブル
「で、だ。俺の母さんはこう言ったわけだ。
CDなんて買ってなんになるんだ。YouTubeに動画が上がってるのにわざわざそんなもの買う必要無い
ってね」
朝の通学路。俺と松本君(苗字で呼ばれるのに慣れてないそうだから、呼ぶときはリョウ、ヒロということになった。ちなみに俺は名前で呼ばれるのに慣れてないため、若干そわそわする)は、道が同じらしく、今日はたまたま会ったのでとりあえず一緒に行くことになった。
今は、ヒロが春茶のCDを買うために親と繰り広げた論争の話をしている。
「だから俺は言ってやったんだよ
じゃあ、あのカッコ悪い英字プリントのTシャツ買わなくていいから、CDを買ってくれ!
って。そしたら、なんて言ってきたと思う?
何言ってんの、カッコいいでしょうが!
だってよ!骸骨に上からDEADって書いてるシャツがだぜ?感性が中学生の男子なんだよなぁ。うちの母さん」
「あはは、仲良いんだね。親と」
「もう高校生なんだから、英字プリントのTシャツは勘弁して欲しいよな。リョウはないの?そーゆー経験」
「うちはお小遣い制だから、親と話し合ったりしたことはないかな。大抵自分で買う」
「へー、しっかりしてんね」
「いやいや全然。すぐにカツカツになっちゃうんだよ」
そうこうしているうちに、学校に着いた。いつもよりずっと早かったような気がした。
_______________________
大分時間はたって、放課後。俺は駅のスタバで一人宿題をしていた。気取ってるとかでは一切なく、単純に家が落ち着かないからだ。
今日は学校でヒロにいろいろ曲を教えてもらったので、BGMには困らない。
宿題をはじめて数分。イヤホンのノイズキャンセラー越しにもわかるほど、周りは騒がしかった。しかし、俺は歌を聞くのに夢中だったので、さほど気にはならなかった。すると、
「あのー、すみません、イヤホンはずれてますよ?」
「!?」
大慌てでイヤホンを確認する。たしかに、接続部分が外れているようだった。う、嘘だろ?じゃあ、今聞いてた歌ずっと周りに聞かれていたのか?どうりで騒がしかったわけだ。
くすくすと笑い声が聞こえる。
「あは、あんた災難だったね。しかもよりによって、デリヘル呼んだら君が来たなんて聞いてる時にイヤホン繋がってないとか、マジに引きこもり案件」
はっと、その人の顔を見る。ふわりと巻いたポニーテールに、少し吊った二重の目、綺麗な鼻。誰が見ても百発百中で美少女だと言うだろう。その人はなぜか俺の隣に座り、さっきまで店内に歌を垂れ流していたスマホを覗きこむ。
「メガテラいいよねー。ロキのカバーっていろんな人がしてるけど、あたしはこの人のが一番好きかなー」
勝手にペラペラと喋り出すその少女は、勝手にスマホをいじりだしていた。それも、かなりの至近距離で。肩が触れているのに全く気にしていないようだ。
ちょ、ちょっと近すぎる。
フォークダンス以外で女子と触れあったことのない俺は、もう耳が取れそうなほど顔中真っ赤にしているというのに。
しかしどうやら、彼女もこんな感じの歌をよく聞くようだった。
「いやー、君の神様になりたいをはじめて聞いたときは泣いたなー。あ、ところであんたさぁ、めありーって歌い手知ってる?」
聞いたことはあった。
「え、えと、DAYBREAKFRONTRINEだけ聞いたことあるけど・・・」
「えーにわかじゃーん。めっちゃいいから絶対聞くべきだよ?」
ちらっと、上目遣いで覗きこんでくる。まずい、心臓がもうもたない。
「ん?その校章、同じ高校じゃん。もしかして先輩っすか?」
「あいや、一年生です」
「ああ、タメか。なら良かった。あたし暁 茜っていうの。あんた名前は?」
「あ、新井 亮です」
「ふーん、アライね。急に話しかけちゃってごめんね。イヤホン気を付けなよ!じゃ!」
嵐のように去っていく暁さん。
(なんだったんだ・・・)
ほとんど一人でしゃべってたな、あの人。謎の取り残された感で、居心地が悪い。
(とりあえず、宿題は家でするか)
まだ、心臓はドキドキしていた。
歌が好きなだけ 瓦村 @wakahituji
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