歌が好きなだけ
瓦村
第1話ヲタク友達
受け入れられないのはわかっている。
こんなに素晴らしいのに、面白いのに、尊いのに、絶対にわかろうとしない世間。わかろうとしないどころか、周りは自分を気持ちが悪いものとして扱い出す。それでも、心が折れることなく、「好き」を貫き通す気高き者たち。
ヲタク。
これは、そんなヲタクたちの日常を書いた物語である。
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とある日の教室。一限が始まる前は、いつも通りガヤガヤと騒がしい。騒ぐ相手のいない陰キャの鑑こと俺、もとい新井 亮は、いつもに増して上機嫌だった。
というのも、昨日は新たな"推し"を見つけて、生き甲斐が増えたことによりテンションが高まっていたのだ。
(今まで何回か「あなたへのオススメ」に出て来てはいたけど、試しに聞いてみて正解だったな。食わず嫌いってのは、ホントによくないもんだなぁ)
机について授業の準備をしていた俺は思わず、鼻歌を歌い出す。こんだけ騒がしかったら、他のやつには聞こえないだろう。すると、
「ナンセンス文学?」
びくりとして、声のしたひとつ前の席に顔を向ける。
「今歌ってたの、Eveのナンセンス文学だろ?新井って、そういう歌よく聞くの?」
声をかけて来たのはスクールカーストが俺の数段上であろう、言うところの陽キャと呼ばれる人種の松本 宏考という男だった。俺は突然の出来事に動揺してしまい、すっかり思考が混濁してしまっていた。
(いきなり話しかけて来るなんて、こいつはコミュ力の権化か!?い、いやまて、それよりも鼻歌を聞かれてヲタバレしてしまったことのほうがまずい!
あっでも相手も知ってたってことは向こうもヲタクなのか?なら大丈夫・・・って訳でもないのか?
っそれよりも、質問に答えなければ!)
ここまで0,5秒。
「えっとあのー、よく聞くって言うか、昨日はじめてその、Eveさん?を知りまして・・・。そんなに詳しいって訳でもなくて・・・。あ、でも、よく聞く歌だったら所謂ボカロとかよく聞きますけど、ま、松本君はそういう歌聞くの?」
あれ、俺全然言う必要無いこと言ってないか?
普段人と話さないせいか、思考がまとまらない。うわぁ、今の俺、絶対気色悪いしゃべり方してたな。
「ああ、ボカロなら、俺もそこそこよく聞くよ。最近はまってんのは脱法ロックとかかなー。新井の推し曲は?」
「あ、えと、ロストワンの号哭・・・」
「おー、知ってるよそれ。あの人の歌良いよね。どうやったらあんな歌詞が思い付くんだか」
こ、この人、かなり話が合うんじゃないか?もしかしたら、はじめてのヲタク友達なんかができてしまうんじゃ・・・。
キーンコーンカーンコーン
無情にも鳴り響くチャイムの音。そして起立の号令により、会話は途切れさせられてしまった。
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その日の夜。俺はEveの頓珍漢の宴を、それはそれはヘビロテしていた。
(うわー、この眠そうな声凄いいいなぁ。あ、右に曲ガールカバーしてんじゃん。俺得過ぎんか?)
軽く感動していると、
ピロリン♪
ラインの通知が来た。
お、俺にラインが来ただと!?天変地異か!?
ピロリン♪ピロリン♪
およそファンタジーとしか思えない光景に、ただ呆然とすることしか出来ない俺。恐る恐る確認してみると、メッセージを送ってきたのは例の松本君だった。
頭が追い付かないまま、既読をつけ、文字を読む。
クラスラインから追加した。急ですまん
これ聞いてみて
https://youtu.be/Woorod1gJ_w
どうやら、楽曲の歌ってみたの動画らしい。
天月なんてはじめて聞くな。どんなだろ。
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聞き終わると同時に、広告が流れる。その間俺は、心の底から感動していた。
すげぇ・・・これもう、別の曲だな。あ、涙出てくる。
図ったように、ラインの通知がくる。
どうだった?
俺は、感じたままを送った。すぐに既読がついた。
なぜだかすっごい草を生やして来たが、理解してもらえて良かったとのこと。
曰く、歌い手がとても好きなのだか、理解してくれてそうな人が周りにおらず、ずっと隠して来たらしい。
わかるなあ。しかも、松本君は友達も多いだろうから、鼻から喋る相手のいない俺なんかよりずっと大変だったことだろう。
とりま、明日続き話そうな!
その日はそれで終わった。
自分の趣味を他人と共有するのって、存外に楽しいんだなあ。
これまでに無いほど晴れやかな気持ちで、その日は眠ることができた。
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