第89話

「ところで、あさってから夏休みに入るけど、それまでに解決できてよかった。これで大基くんもみんなと同じ夏休みを迎えることができるよな」

 金太は自分のことのように喜んでいる。

「うん、よかった、でも――」

 大基の顔が急に曇る。

「大基くん、心配することないよ。おそらくもうヤツらからの誘いはないよ。もしこれが不発に終わったとしても、まだいくらでも作戦はある。例えば、学校にいって解決してもらうとか、警察に相談するとか、さ」と、金太。

「うん」大基はそれを聞いて少し笑顔が戻った。

「でも毎日のように電話をしてきた不良グループが、ここ数日連絡して来なくなったということは、やはり作戦成功ということになるん違うかな」

 ホットドッグを口に入れたノッポがもごもごさせながら言う。

「確かに柳田くんの言うとおりかもしれない。あいつらは、これまで本当に毎日電話をして来た。そこでオレはあるときから、電話の着信音をべつにした。なぜかと言うと、携帯電話が鳴るたびにドキッとして、心臓が停まりそうになるからだ。これはそういう目に遭ったものでないとわからないだろうな」

 大基の話をみんな黙って聞いている。大基の真実味のある話は説得力があった。

「ああいうのを、精神衛生上よくないって言うんだ。でも、みんなのお陰でそんな悩みから解放された。そこでわかったことは、気持がおおらかになると、イジメをしたいなんて考えなくなるということ」

「なるほど。でもそれがわかったというだけでもすごいじゃないか、なあノッポ」

 金太は賛同を求めるようにノッポの顔を見る。

「ああ。イジメば生きがいのようにしている連中は、みんな精神的な悩みば持っとるんと違うやろうか?」

 ノッポは真剣な顔で大基を見る。

「オレはオレのことしかわからんから、ほかのヤツのことはなんとも言えんけど、おそらくはきみの言ったとおりだと思う」と、大基。

「ぼくもそう思う。大基くんには耳が痛いことかもしれないが、やはりそういうヤツらは心が病気なんだよ」

 金太はもっともらしく言った。

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