第87話

「ぼくは金太のことを親友やと信じとった。でも金太にとっては、ぼくはまだ親友やないんやね」と、ノッポ。

「そんなことない」

 金太は信じられない言葉に困惑しながら返事をする。

「だって、ぼくに言えんことがあるんやもんね」

「べつにそんなことない」

 金太の答えはいつになく歯切れがよくない。べつに自分の気持を正直に話そうと思えば、ノッポになら話せる。でもそれは、ノッポが本当に訊きたがっているならばだ。興味本位で人の気持を覗きたいというのなら話したくはない。

「じゃあなんね? 正直に言ったらよか。ぼくは誰にもしゃべらんバイ。どう、好いとうや?」

「うん」

 金太はやむなく本心を打ち明けた。

「やっぱり、そうなんや。ぼくの勘は当たっとった。で、アイコにはもうコクったト?」

「いや、まだだ」

「なんで?」

「嫌われるのが怖くて、とてもコクる勇気なんかない」

「なんね、いつもの金太らしくなか。これまでみんなの先頭に立って難問を解決してきた金太やなかね」

「それとこれとはまったく次元がべつのもんだ。ノッポが言うほど簡単なものじゃない。そう言うノッポは、女の子を好きになったことがあるのか?」

「いや……なか」

 ノッポは金太の逆襲に勢いを失う。

「ぜんぜん?」

「小6のときにべつのクラスの子を好きになったことがある。でん、それは遠くから見とるだけで、話もしよらんかった。そのうちにトウさんの転勤でこっちに来ることになったト」

「そうなんだ。その子のこと、いまでも好きか?」

「いや……でもちょっとくらい好きかもしれん。なあ、金太、アイコに自分で言えんようやったら、ぼくが代わりに話してもよかよ」

「いいよ。もしそのときは自分で言うから。だから、アイコにはこのことを話したらだめだぞ」

「ああ、わかった。約束ばする」

 気がつくとみんなは教室に入ってしまい、廊下にいるのは金太とノッポだけになっていた。

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