第83話

 金太は愛子に言われて嬉しさを隠せなかった。

「大基くんもいまぼくらと味わったのと同じ気持なんやろね」

「おそらくそうよ」

「でん、金太はスゴか。あんな手に負えんくらいだった大基くんを簡単に手なずけてしまったんやもん」

「そうじゃなくて、みんなクラスの仲間じゃないか。大基くんに関して言うと、自分が彼の立場だったらどういう行動をとるかな、と考えたんだ。カアさんにも言えなくて、相談する人もいない。かといって先生や学校に知られたくない。もし知れるとしたら最後の最後にしたい。おそらく大基くんもそう考えたはずだ。だって学校中に知れ渡ったら、もう学校には来れなくなるだろ。彼は彼でずいぶん悩んだのと違うかなァ。そんな大基くんのちからになってやれるのは、クラスメイトのオレたちしかいないだろ」

「そうね、でも金太のいってることがわからなくはないけど、告発状に関してはちょっと心配だわ」

「正直なところ、ぼくもなんかぞわぞわして落ち着かん」

「いまさらそんなこと言うなよ。ふたりともこの作戦に賛成してくれたじゃないか……」

 金太は頬を膨らませて不満顔を拵えている。

 金太だってふたりと同じように、いやそれ以上に心配している。ここでなにも手を差し伸べずにただ傍観するのは、あまりにも大基がかわいそうだと思ったうえでのことだ。

「違うの、そうじゃないの、誤解しないで。うまく言えないけど、金太と同じように大基くんのことを助けたい。それとこの告発がうまくいけばいいとも思ってるの。それが反対に不安になったということ」

「ぼくもゴメン。言い方がわるかったかもしれんけど、金太のしたことを否定してるわけやなくて、アイコと同じように、大基のことを心配して言ったまでやけん」

「わかってる。きみたちの気持だけじゃなくて、健太くんたちの大基くんを助けたい気持もよくわかってる。でもこれだけははっきりと言わしてもらうけど、まだ作戦が失敗したわけじゃないし、告発状の内容も嘘じゃない。後ろめたいことはなにもないよ。助けようとしているぼくたちが不安がっている以上に、本人の大基くんはもっと不安になってるんじゃないのかァ」

 金太は愛子たちを諭すよりも、自分自身に言い聞かせるかのように意見を述べた。

「確かに金太の言うとおりや。助けようとしているぼくたちがまとまらなければどうにもならん」

「まずはR高の出方を見てからということね」

「爺ちゃんが言ってた、『急がば廻れ』、と」

 金太の顔は、打つべき手は打ったと書いてあるように見えた。

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