第11話

「これって――」

 金太はこの場にあるとは思えないものを見た衝撃でそこまでしか言えなかった。

「そう、飼育小屋で殺されたウサギの耳」

 綾加は、どうしたらいいのかわからないといった表情を見せる。

「なんでここにあるんだ?」

「本当はここに落ちてたんじゃないの。誰かが拾ってきて、柳田くんのペンケースの中に入れたらしいの」

「えッ! 本当か柳田くん」

 金太の問いかけに、ノッポはコクリとうなずいた。

「どうして?」

「わからん。さっき運動場から戻って来て、鉛筆を出そうとしたらこれがあった」

 福岡のときは小学校だったということもあったが、こういった類のことはまったく経験がなかった。

 見知らぬ地に来てまだ地に足が着いてないのに、こんな目に遭わされるなんて思ってもみなかった。

「先生には話したの?」金太は綾加に訊く。

「話したわ。もうすぐここに来るはず」

 関わりたくないと考えているのか、綾加はなぜか投げやりな言い方になっている。


 放課後、地理クラブが休みだった金太は、家に戻るとすぐに秘密基地に出かけた。

 小屋の前まで来ると南京錠はすでに外されていた。扉を細く開けて中をうかがうと、こちらに背中を向けて無心にマンガの本を読んでいるネズミの姿があった。音を立てないように背後に近づき、「ワッ!」と、大きな声で愕かした。

 ところが、びっくりすると思ったのに、ネズミは顔色ひとつ変えることなく、ゆっくりと振り返って「ボラーァ」と結社のあいさつを返した。

「ボラーァ。なあ、なんでびっくりしないんだよォ」

 あまりにも無表情なネズミの顔を見た金太は、あからさまにがっかりした顔を見せる。

「だって、扉が開くのわかったも。ここに来るのは金ちゃんしかいないじゃん」

「そうか。まだまだだな、このオレも。このぶんじゃあ、まだ1人前の諜報部員にはなれないな。なんだネズミはマンガ読んでたのか?」

「うん、いつもここに来てマンガ読んでる」

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