第10話

 結局家に帰っても目の前から惨たらしいウサギの姿が離れることなく、夕食もまともに咽喉を通らなかった。

 ウサギは金太がこの学校に入るずっと前からいた。入学してすぐに担任の安田先生に飼育小屋のことを聞き、興味を持った金太は早速ウサギを見に行った。

 その後毎日のように小屋を覗いているうちに、いつの間にか4羽のウサギが軽く跳ねながら近づいて来るようになった。飼育小屋にはウサギのほかにニワトリやウズラなどもいたが、その中でも金太はそんな白いウサギたちが大好きだった。

「姉ちゃん、学校のウサギのことだけど……」

 気持の優しい金太は、ウサギのことを思い出しながら悄然として言った。目には少し泪が浮かんでいた。

「それがどうかしたの?」

「誰がやったんだろう?」

 金太は姉の増美の顔を見ないまま訊く。

「さあ……。最初みんなは、野犬のしわざだと決めつけたみたいだったけど、耳が切られていたということがわかってからは、異常者がやったに違いないともっぱらのウワサ」

「やっぱりか――ぼくもそうとしか考えられない。だけど、なんであんなことを」

「学校に恨みでもあったんじゃないの」

 増美はあまり興味がないといった顔で返事をすると、テレビの歌番組に夢中になった――。


 明くる日、昼食の時間がすんで午後の授業に入る前、金太が教室に戻ったとき、みんなが1ヶ所に集まって視線を床に落としてまま固まっていた。

「どうかした?」

 金太は人の輪を押し退けながら覗き込んだ。

「これ見てよ」

 綾加がフローリングの床を指差す。

 指差す先に目を向けると、視線の先には3角の白い布切れがあった。一瞬それがどうして大騒ぎになるのかわからなかった。ところがよく見てみると、それは布切れではなく、昨日殺されたウサギの耳だったのだ。

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