8-51話 殺人犯の娘

 ──家族が犯罪者であることは事実だが、過去の出来事大きなトラウマへと発端する。


 刀梟隊の隊長という肩書きを持つ能力者に相応しく、場にいる全てのものを凍てつかせることができる愛弥。世間は本格的な夏を迎えたばかりなのに、愛弥のせいで金田さざなみ公園だけは冬へと逆戻りだ。

 その元凶となったのが任意でオッドアイから両目共に碧眼へと変わるBlue-MODEだ、見ている俺でさえも特別な100秒間を味わえた。自らの意思で覚醒して能力が上昇しただけでなく、究極の技ハンドレッド・スティーリアで奴らを極寒地獄へと追い詰めた。こっちは和俊さんのインク・リフレクトのおかげで害はなかったけどね。


「俺様の体がアツアツからキンキンになってる途中でよ、いきなりこの頭の中からお嬢様隊長が関わる過去話をふと思い出してしまったぜ! それもよぉ、からの盗み聞きではあるが虹髑髏でもほんの一部しか知らない超極秘情報を!」

「坪本、貴方まさかを?」

「おいおい嘘だろ、カマキリ野郎が刀梟隊の中でも秘密にしているあの事件を知っているのか?」


 これで奴らとの戦いに終止符を打ったかと思われたが、冷えきった坪本の頭から虹髑髏に関わる重大な事件について思い出す。上層部には黙って重大案件をばらすとなれば爆弾発言もいいものだが、刀梟隊内でも秘密にしたがる愛弥の過去の話であった。

 怒りに満ちた顔を浮かべた愛弥は再び戦闘に入ろうとするが、Blue-MODEの反動は大きく未だに立ち上がれない。俺達だってこれ以上坪本に減らず口を叩けないようにとどめを刺したいが、まだ万全に動けないのが非常に悔しい。


「検討ついてるみたいだがそのまさかだぜぇ! 今から10年前、虹髑髏がまだ駆け出しの無名組織だった頃に、がイギリス国内で起こした痛ましい事件のことについてだぁ!」

「よしなさいその話は、わたくしのお母様は!」

「やめられねぇなぁ! 散々俺様達を痛みつけやがって」

 

 愛弥はBlue-MODEになる前、たしかに祈りを込めてお母様と言っていた。愛弥が若き正義の使者だから母親も正義感ある人間かと思ったら、イメージが全然違うダーティーな人間なのかよ?

 都合よく重大事件について浮かんでしまった坪本とは対称的に、思い出したくもない過去を突きつけられてしまう愛弥。坪本に向かって母親の名前を叫びながら続きを止めようとするが、坪本は俺達をこんな目にした罰だとあざ笑いながら話を続ける。


「イギリス国籍を持つお嬢様隊長の母ちゃんはかつて、天才外科医としてその名を轟かせたと同時に危険すぎる『力』を所有していた。虹髑髏の名声をあげるために工作員3名をイギリスまで派遣し、虹髑髏のドクターとして迎えようとしたが、


 愛弥の母親はイギリスで優れた医者であると同時に能力者であったみたいだが、当時の虹髑髏でも知るほどの有名と実力を重ね揃えてたのか。目的が誘拐そのものだからか、虹髑髏のやり方には昔から同情できない。

 2代揃って天才と呼んでもおかしくない親子なのに、何故重大事件を起こすような人間になったのだろうか? それは愛弥の母親から眠る『力』があったことに検討はついていた。

 

「だめ……もうこれ以上はおやめください」


 一方で過去の記憶がよみがえりそうな愛弥は、両手で頭を強く抱えながらパニック状態に陥りそうになる。戦闘中は威風堂々たる雰囲気を見せつけて圧倒したが、今の愛弥はとてもじゃないけど刀梟隊の隊長とは思えない臆病な性格だだ。


「やめねぇよばぁか。接触に成功した工作員達は強行突破の誘拐を試みたが、お嬢様隊長の母ちゃんが持つ『力』が思わぬ暴走を引き起こした。その結果工作員3人全員がお嬢様隊長の母ちゃんによって殺害、止めに入ったお嬢様隊長の父ちゃんらAYBSメンバー達も病院送りにさせるほどの残虐な出来事だぁ。さらに、そこにいるお嬢様隊長も現場にいて何かしら被害を受けたようだなぁ、はははよく考えたら今考えたらいい気味だ」

「ああああああああお母様あああああ」


 よみがえてしまった愛弥の悲しき過去と壮絶なトラウマ、今の愛弥は顔を上空にあげて母親の名前を必死に叫びながらうなされてしまう。当時6歳の愛弥が目の前で母親が殺人を犯した事件に遭遇した悲劇のことを、母親のことは思い出せても事件のことは2度と思い出したくもないよな。


「その後、お嬢様隊長の母ちゃんは殺人及び研究所破壊の罪で逮捕されて終身刑とまでは聞いたなー、いつまでもオリの中じゃもう2度と会えねーな!」


 いくら虹髑髏が事件の引き金になっても、事の発端となったのは愛弥の母親。現在はイギリスの刑務所で服役中のようだが、3人殺した上に父親も負傷させたからかなりの凶悪犯として認知されてる。


「ううう……」

「なんかバカみたいにわめいているが、俺様の言ってることはすべて事実なんだから真実を素直に受け止めろよぉな、のお嬢様隊長さんよぉ! 憎むなら母親を憎みなぁ!」


 坪本は体勢を崩している愛弥にさらなる言葉の挑発を仕掛けるが、散々俺達にやられたはずの坪本が愛弥を侮辱しているのは俺も気に食わないな。いわゆる戦いには負けたのにそれ以外で勝った気分か、シャイン死ねだな。

 という言葉を出された愛弥は再び坪本に視線を合わせ、激しく睨みあう。世間的に愛弥の母親が罪人でも、愛弥にとっては生んだ人間であることは間違いないのだから。


「坪本ぉおお! よくもわたくしのお母様の愚弄を!」


 愛弥は今まで二人称は貴方で一貫してたのに、安定できない現状の精神からか坪本に呼ばわりし発狂するが、これが愛弥の本性なのか?。敬語で礼儀正しい口調の愛弥が貴様呼ばわりするなんて、坪本へ相当な怒りを覚えたことに違いない──

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