8-50話 川間和俊

 ──チームに必要なのは毅や愛弥のような攻めるだけの人間だけではなく、和俊さんみたいな守りに特化した人間も不可欠だ。


 Blue-MODE終了が迫る間際にシャドー・グレイを使い、和俊さんが張るインク・リフレクトの中に入り込んで再合流を果たした愛弥。すべてを出しきった愛弥は戦いに満足感を得ながら、左目は元の赤眼へとオッドアイに戻る。

 愛弥本人もBlue-MODEには大きな代償があると言ってたわけだし、倒れ方も大袈裟なものだ。任務は何でも成し遂げる気持ちはわかるが、まだ16歳の少女の身体であることを忘れないでほしい。


「お前にもやっぱりがあったようだな、とりあえず今は休むことを優先しな」

「貴方に言われたくありません毅さん……それと、まだ任務は終わっていないことを忘れていませんか?」


 心配しているのかからかっているのかはさておき、毅は愛弥に向かって休むことを薦める。一方の愛弥は隊長のプライドがあるせいか、毅には生真面目さを見せながら休息にかかる。

 若いのにここまで任務のことばかり考えてることに驚くが、そういえば虹髑髏を許さずに急遽木更津までここに来たんだっけ。行動派であることは認めるが、愛弥本人もことだけは忘れるなよ。


「なあ2人とも、今は言い争うよりも和俊さんに目を合わせたらどうだ?」

「な? お前がそんなこと言うなよ」


 刀梟隊でもないし立場的にも下であるはずの俺が、口論を止めに入るのに抵抗はあるかもしれない。でもさ、元凶となった愛弥のために踏んばっている和俊さんに気をかけたらどうだ? 相変わらず毅は全然素直じゃないな。


「令さんからそんな口が出ますとは……わたくしとしたことが、貴方に対して幼さを見せてしまったようですね」


 さすが隊長というべきか、愛弥は素直に俺の言葉を受け止める。と言いたいところになるが、さっきの愛弥の行動にはごく普通の16歳の少女らしさが浮かべていた。

 刀梟隊はであるわけだし、愛弥だけが動いてるものではないからな。和俊さんや半蔵さんだけでなく、今は別行動の梨理亜さんの5人がいるからこそ成り立っているものだろ? そのことだけはしっかりわかってくれよな。


「ふっ、毅や愛弥隊長より君が1番気にかけるとはな令くん!」

「俺だけじゃありませんよ和俊さん、ここにいる全員があなたを信じてます」

「その言葉は強く受け止めるよ。そろそろ限界が迫っているが、俺も


 両腕共に限界まで達している和俊さんは、顔からは大量の汗が流れている。和俊さんより全然若い毅や愛弥の活躍に刺激も受けているし、今は防衛線としての誇りを持って守っている。

 また、俺からすれば別の視点で和俊さんを見つめる。今日の朝まではクラスメイトの兄として見てなかったものが、その兄は本当は強くてタフなんだぞという気持ちでな。


「さてと、仕上げといこうかね。この墨達も頑張ったが、俺も集大成を見せてやる! 


 今まで和俊さんの両手で大きく広げながらバリアを張ってきたが、ここで両手共にパーからグーに持ち変えながらさらなる一声を上げる。勢い任せとなった和俊さんは左足を1歩強く地面に蹴り上げ、若干姿勢を低くして肩を下ろす。

 ベストポジションとなった和俊さんの元から、今まで支え続けていた周囲の墨達が和俊さんへと集まって行く。この影響で今まで守っていたバリアが消えかかり、ハンドレッド・スティーリアの被害を受けた金田さざなみ公園の景色を再び見れるな。


「おおおおふっ飛べー!」


 今は景色よりも和俊さんの根性の方が優先だ、雄叫びを上げた和俊さんは上空に向けて全ての墨達を発射する。和俊さんの元々の弾力性の強さなのかはわからないが、墨達は曇りの彼方まで飛んでいった。

 ハンドレッド・スティーリアの痛烈なる大量の氷柱達を反射して耐え抜くという、本来のインク・リフレクトとしての十分役割を果たした。大量の墨達を自らの『力』で発射する達成感、和俊さんにとっても爽快なものだろう。


「やったぞ毅……愛弥隊長……令くん……」


 最後にいいところどりをしたのは、愛弥ではなく和俊さんになってしまったな。よく考えると和俊さんがいなかったら、今頃俺達はハンドレッド・スティーリアの巻き添いで凍死していた。


「こ、これは……」

「まさか、わたくしの巻いた氷の種がここまで及ぼすなんて」


 インク・リフレクトが消滅し、俺達は愛弥によって作られた金田さざなみ公園の景色を再び眺めている。再び極寒に逆戻りではあるが、後で炎使いの加藤にどうにかしてもらおう。


「わたくし達は命を取るまではしていませんが、やりすぎた感は否めなません」

「それにしても生きてるのか……あいつらは?」


 奴らも一応心配といえば心配だな、死んでしまったら完全に俺達が悪いことになってしまう。ハンドレッド・スティーリアは愛弥の怒りそのものだが、身柄だけは確保しないといけないしな。


「ハンドレッド・スティーリアを受けた3人だけでない、すでに氷塊されていたユウジや燃え尽きたはずの坪本までも……? 」


 まるで金田さざなみ公園だけ猛吹雪が発生したかのような冷たい気温に覆われているが、奴らの身体は雪に積もるような感じではりつけられていた。ユウジに関してはさらなる追い討ちをかけたが、息はしてるだけ大丈夫だな。

 これ以上放置したら青ざめて死んでしまうが、命を奪わないという制約もあるからどうにかしないとな。こういうときは炎使いの加藤が身動きをとらせるように溶かしてもいいが、加藤はしばらく反省してろと思ってやらないだろうな。


「げへへっ、これで終わったと思ったら大間違いだぞてめぇら……」

  

 坪本の奴は喋る余裕がまだあるのかよ? さっきは加藤に燃え尽きて敗北しただけでなく、ハンドレッド・スティーリアにも被害を受けたはずだぞ。 

 体からは大きな悲鳴がわたってもいいはずなのに、口だけはまだまだ元気なようだな。これこそまさに、小物感丸出しな悪党だぜ。


「負け犬の遠吠えなんて聞きたくねぇぜ坪本! 俺が万全な状態なら、もう1発クレイジー・スターダムでおみまいしたい気分だ」

「よしなさい毅さん。あの者はもう戦えませんし、貴方も無駄な行動は控えなさい」

「愛弥!? ちっ」

 

 まだ万全に動けない毅も再び坪本の口を開けないようにと立ち上がろうとするが、敵に対しても誠実な態度を取る愛弥に止められる。愛弥は坪本が何か虹髑髏の秘密を語ることを悟り、坪本の様子を伺う。


「おっと俺様を喋らせていいのかー? あとようやく思い出したぜお嬢様隊長様が誰だかよ、虹髑髏における重大な事件の噂というのは本当だったことをな!」


 しかし、坪本の言葉こそが愛弥の過去に関わるものであった。Blue-MODEを終えたはずの愛弥は自身のうかつな判断により、さらなる怒りを走らせてしまう──


「そんな……わたくしの……やはり貴方達虹髑髏は許しません!」

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