8-49話 蒼の終焉

 ──こんな簡単に殉職なんかしたら伊達に刀梟隊隊長を名乗れない、能力者の未来を変える存在なのだから。


 愛弥の強い氷の意志から操る100本の氷柱達を、まるで流星群のように放つハンドレッド・スティーリア。Blue-MODEの最後を飾るに相応しい技であること確実だが、問題なのはBlue-MODEの制限時間が過ぎた愛弥の安否だ。

 実戦でハンドレッド・スティーリアを使うのは初めてではないだろうし、危険な技であることは誰よりも把握している。七色2人を逃したからってその部下にここまでするのは、いくら生け捕りに捕まえるのが目的でもオーバーキルの域だ。


「Blue-MODEは俺にとっても有意義な時間でもあったが、無事なら返事をしろよ愛弥!」


 100秒というのは本当に一瞬なものだ、あまりにの集中に瞬きなどしてる暇すらなかった。それだけにBlue-MODEの期待は大きなものだったが、もしここで愛弥が自滅となればもいいとこだ。

 能力者という立場で愛弥に敵わない俺が評価するのに無理はあるが、戦闘面に関しては全くの無駄はなかった。問題点を挙げるなら、愛弥は説明に長く時間を費やしていた。

 そのことを考えたら、今の100秒間は完全に愛弥のだと思った方が適切かもしれない。スーパーエリートの道を歩み続ける愛弥も、菜瑠美ほどの頭脳明晰とまでは持ってないのかもな。


「うろたえるな令くん! 君が今することはただ1つ、愛弥隊長を信じるんだ!」

「和俊さんがいるおかげで今の俺達はどうにかなってますが、犠牲ができたらそれだけで任務失敗じゃないのですか?」


 今の俺達は和俊さんが張った特殊な墨によるバリア、インク・リフレクトによって守られている。よく書道などで使うの墨かと思いがちだが非常に分厚いものであるため、ハンドレッド・スティーリアがいかに強力な技でもなんとか堪えている。

 いくら隊員の和俊さんの言葉とはいえ、刀梟隊ではない俺はなかなか信じない気持ちの方が強かった。バリア外部からは奴らの絶望的な悲鳴は耳にタコができるほど届いているが、汚い声よりも愛弥の美しく気品の高い声を今聞きたい。


「川間の兄ちゃんの言う通りだよ影地、愛弥隊長が自分の技を扱えずに死ぬわけがないだろ?」

「俺も桜井とやらに同感だ令とやら、君はあまりようだな」


 愛弥に憧れを抱く桜井さんは、ここで愛弥が殉職することをのっけから否認する。一応『わだつみ』の後輩であり、今日から能力に目覚めた相手に向けてここまで鋭い渇を入れてくるとはな。

 加藤も同じく無事であることを確信しているが、別問題で恋人がいる俺にとっては加藤の言葉になんか納得できなかった。そりゃ2ヶ月前までは女性と無縁な日々ばかりだったが、菜瑠美と付き合うようになってからは大分目を変えてきてる。


「俺は女の見る目くらいは……」


 いくら加藤と菜瑠美が顔合わせたことないにしても、俺は少し機嫌を悪くした。これは菜瑠美ではなく愛弥としての見る目とはいえ、女の気持ちくらいは菜瑠美と付き合ってから大分変わってきてる。

 個人的にはかなり心に深い傷をうたれた言葉だったため、過去に1度も付き合ったことがなさそうな加藤にもの申す。せっかくいい仲間となれそうなところで、ここまで好感度が落ちるとは思ってもなかった。


「おい、何かがここにやってくるぞ!」

「え? まさか!?」

「間違いない、だ」


 しかしその途中、大和田さんがインク・リフレクトから大きな異変を感じていた。俺達に一声を掛けた直後に目にも止まらないな速さで、1人の影がインク・リフレクトの中に貫通するかのように入り込もうとする。

 毅はさすがの刀梟隊だけあって誰が来るのか確信していたが、そういえばあれがあったことを失念していたな。ったく、俺は重度の心配症なのかもな。


「はぁはぁ……Blue-MODEが解除される前に、シャドー・グレイが使えてよかったです」

「愛弥、無事だったのか?」

「はい……なんとかギリギリでした」

「だから言っただろ影地! 正義の味方というのは窮地にめっぽう強いんだよ」


 インク・リフレクトの中に割り込んだ人影の正体、それはBlue-MODEの時間が過ぎたはずの愛弥だった。刀梟隊の美少女隊長ここにご帰還って言った感じだが、時間が過ぎているはずのBlue-MODEがまだ発動中であった。

 Blue-MODEにはまだ不明な点はあるが、100秒はたしかに過ぎていた。あくまでも100秒というのは目安なものなのか、それとも発動する度に時間が前後するものなのか。


「素晴らしい活躍だった愛弥とやら」

「貴女に褒められるとは思いませんでした加藤さん」


 捨て身のハンドレッド・スティーリアを放った直後に、シャドー・グレイを使って迅速にここまで避難したようだな。俺としたことがシャドー・グレイの存在を忘れていたせいで、加藤の言葉がますます正論となってしまったな。

 それにしても、ハンドレッド・スティーリアは氷柱達を相殺させて猛吹雪の如く奴らを飲み込んだんだろ? 愛弥自体が氷を操るのだから、氷に対する耐性は万全のまま逃げ切ったのかもな。

 

「愛弥様~! よくご無事で!」

「大声を出すのは控えてください半蔵殿、まだ全てが終わったわけではありません」


 無事であることは確信していながらも、愛弥の姿を見ただけでも半蔵さんは感激していた。それとは正反対に愛弥は冷静沈着さを保っており、まだ任務中であるためか喜んでいる様子が見当たらない。 


「そうでしたな愛弥様。ただし、無理は禁物ですぞ」

「貴女に言われなくてもわかっていますが、このわたくしを持っても、無茶しすぎたみたいです……」


 半蔵さんの言葉を聞いたあとに、愛弥はふらつきながら地べたに倒れ混もうとする。それに、愛弥の戦いを見てインク・リフレクトの中にいる全員が休息を許すことは間違いないから、今はゆっくり休んでほしい。


「両目から綺麗に輝いていた碧眼が、元のオッドアイに……」


 左目までも碧眼になることが大きな特徴のBlue-MODEだったが、活動終了の合図か元の赤眼となり本来のオッドアイへと戻っていった。愛弥におけるはどういう意味を現してるかまだわからないが、本当に美しい瞳をしていることは事実だ。

 肝心の任務はまだ終わっていない、愛弥までも戦線から離脱してしまった。あとはインク・リフレクトで俺達を守り続ける和俊さん次第だ──

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