8-43話 イラプション・スラム

 ──これが加藤炎児の本来の『力』……己の感情のみならず、俺達のことをだと思ったなかで戦っている。


 かつての地下格闘界最強である紅蓮の炎の使い手という肩書きに反し、穏やかでやや不思議くんな性格の加藤炎児。だが、自身を狙う虹髑髏に激しい妬みを覚え、かつての己の生きざまが蘇ったかのようにヒートアップする。


「あいつの本気か……ポンコツ共が邪魔さえしなければ俺や令の前で見せてたのかよ。くそっ、すぐにでも戦ってみたいぜ」

「あのさぁ毅、お前が今大口言ってる場合じゃないだろ? まだ万全な状態じゃないし、大人しく加藤さんの戦いを見てろよ」


 金田さざなみ公園に虹髑髏の刺客達が乱入してなければ、今頃俺は毅と共に真の加藤と戦っていたはずだ。毅の言ってることに理解はできるが、奴らが現れたこそ加藤とは短時間でが生まれたんだと俺は思う。


「うぉぉぉおおお!! イラプション・スラムを受けてみろ!!」


 加藤は大きな雄叫びをあげながら、右足を強く地面に叩きつけてから地響きを撃つ。すごい……たった1歩踏んだだけなのに大きく地面が揺れはじめ、反対側にいる俺達の方にも大きく響いている。


「うわっなんだ、地震か?」

「びっくりしたぜ! あの炎野郎がやったのか?」


 炎だけでなく大地も操ることができるのかよ加藤は? 凍結されている坪本を除く第1部隊の4人は地響きによって叩き起こされ、まだ何が起きたか理解してない状況だ。

 地響きといっても人間の持つ特殊な足なためか、災害にならないほどの威力なのが救いではある。とはいえ、敵以外の誰にもいない状況かつ室外でないと使えない技なのは確かだな。


「俺のメインウェポンは地面を操るのではなくこの手に宿るだ、イラプション・スラムはまだ終わっちゃいない!」


 勢いをものにした加藤は動きに一切隙を見せずにイラプション・スラムの第2段階に入り、新たな体勢を整えようとする。大地はあくまでもサブであり、本業の炎で奴らに火焔地獄というおみまいか?


「ひぃぃぃい! レイラ様に再会することなく焼死するのだけは勘弁だぁー」

「お前ら、死ぬ時は4人一緒だぞ!」

「あいにく命までは取りはしない、刀梟隊とやらがお前らを生け捕りにして拘束したいらしいからな。行くぞ!!」


 加藤は右足のスタンスを若干下げてから両手で地面を強く鉄槌し、加藤の背よりも高い大きな火柱が斜め上から飛び出し強く弾け出す。火柱は地を這う流れの如く奴らに向かいはじめ、4人まとめて一斉に排除させる。

 爆発音も唸る火柱が放たれる瞬間、今まで冷静だった加藤の顔から若干微笑みを浮かべていた。地下格闘界で活躍してた頃を思いだし、戦うことが自身最大の喜びであることを現しているのか?


「こんな炎……あつっ! いくら俺達が防火万全のジャケットと頑丈ヘルメットを着用しても耐えられん」

「せっかく組織が開発した極秘の改造品だったのに、とにかくすぐ脱ぎ捨てるぞ!」


 決め手となる火柱で死なない程度の加減で4人まとめて命中し、奴らは瞬時にジャケットやヘルメットを脱ぎ捨てて素顔を晒し出す。なんだよ、加藤が炎の能力者だとわかっていたから防火対策して作戦を遂行してたのかよ。

 奴らが着けていた防火用のジャケットとヘルメットは虹髑髏が開発した違法物らしいが、加藤の怒りの火柱でせっかくの特製品が台無しとなったようだな。ただ、虹髑髏は能力者の勧誘や拉致のみならず、工作員達を強化させる違法品の製造も行っていることも知ることができた。


「やるじゃねぇかよ加藤、やはりお前は強いな」

「まあな毅とやら。もし今のが《《ゲームの世界》だったら、あいつらは今頃焼死状態だ。ただ、これは現実だし愛弥とやらが身柄を確保したいんだろ?」


 本人の口からも焼死してもおかしくない水準だと言ってるし、仮に加藤がより本気状態かつ奴らが軽装だったら遺骨すらなくなっていたかもな。そうなれば、本気状態は大量な人間だけでなく自然や森林さえも一気に焼き消すほどの可能性が秘めてそうだ。

 加藤の強さに偽りなく、俺や菜瑠美同様に虹髑髏が欲しがるほどの『力』を所有している。追われ身の人間同士である以上、加藤の感情もわかったかもしれない。


「レイラ様……またここに戻ってくれ……がはっ」

「情けない奴らだな、ここで逃げた上司の名前を口にするとはな。2度と再会できないよう、お前らまとめてこの縛りつけてやる」


 俺の4つの輝く技達、加藤のイラプション・スラム、スグルのみであるが愛弥の幸せ投げともう奴らの体は限界に等しいなか、加藤は倒れてる奴らに向けて再び鎖を手に取り出す。ここでアングリー・チェイン縛られたら、生かしてるとはいえどオーバーキルに等しい。


「でもいいのかよ……こんなに公園を燃やしちゃってよ、お前は予想以上に場の空気の読めない奴だな」

「なっ?」

「周りをよく見ろ加藤、がまた動き始めたぞ」

「くっ……しまった」


 自らの炎で金田さざなみ公園を焼き尽くしたのはいいが、しばらく凍結していた坪本が加藤のイラプション・スラムの飛び火によって溶けてしまったのだ。これじゃ毅と愛弥の功績が水の泡じゃないかよ、加藤は責任を取れるのか?


「てめぇなかなかいい奴じゃねぇかよ、この俺様を助けてくれるとはな! 俺様を氷漬けにした汚いわんころも始末したいが、助けてくれたお礼として先にてめぇから殺してやるぜ加藤炎児!」


 加藤は場の状況を理解できずに燃え尽きたせいで、体ごと冷やしても改心しようと思わない坪本を実質的に助けてしまう。それだけでない、凍らせた毅よりも加藤から先に標的の対象となる。


「本当に呆れた奴だ、お前ごときでは俺を八つ裂きなんてできやしない」

「うざってぇ! てめぇは今じっとしたままじゃねぇか! 俺様のクレッセント・スラッシュで死にやがれ!」


 坪本が復活のクレッセント・スラッシュで加藤を切り裂こうとするが、あまりにもワンパターンすぎて鼻で笑う加藤。しかし、態度とは裏腹に加藤は一歩も動こうとしないまま坪本を睨み続ける。


「本当に脳のない奴だ坪本とやらは。毅とやらや愛弥とやらに申し訳ないが、イラプション・スラムはお前を氷結地獄から解放するためにやったんだよ!」

「は!? ふざけんなてめぇ!」

「絶好の機会だ、俺の12


 何もかも燃やしつくす紅蓮の炎と強靭な大地を揺るがす両足だけでなく、まだ3を所有しているのかよ? しかも、わざわざ坪本を自由の身にさせてからとどめを刺すのはよく考えたものだ。

 トリプルホルダーであることが発覚した加藤の逆鱗はまだこれからだ──

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