8-42話 予測不能な行動と未知数の強さ

 ──本人にとって辛かった空白の1年間、それを全て怒りにぶつける憎き炎なのか。


 影地令ここにありとはこういうことだ! 憎たらしい第1部隊の4人を俺が持つ4つの技と100%以上のポテンシャルを発揮し、自身としても納得いく戦いができたと実感する。

 これで、平成の最後から続いた第1部隊との因縁も残すは逃げられたレイラのみとなった。今の俺としては体力の余裕はないが、レイラも再起不能したい気分はあったためこれは次の機会にお預けだな。


「いくら君達の任務といっても、全ての責任は俺にある。最後はこのでやらせてほしい」


 俺が奴らとの戦いで全て出しきってからの疲れを見せたからか、突如体力に余裕のある加藤から交代してほしいと告げる。俺自身としてはまだやれないというわけではないが、少し戸惑いを感じた。


「俺も君達の戦いを見て昔の自分のことを思い出してしまい、非常に感触を受けた。あいつらを焼死とまではいかないが、怒らせたを与えないとならない」

「そう言うのなら、お任せしてもよさそうです」


 ひょっとして、かつての地下格闘界王者としてのプライドが甦ったのか? ま、奴らの行ったことは到底許されないし、本来の標的であった加藤にも完全に飛び火がついたわけか。


「令とやら、君の戦いは素晴らしいものだった」


 再び戦闘に入る加藤は俺を褒めながら顔を合わせながら俺とすれ違い、俺は全てを加藤に託しながら愛弥達の元へ向かう。なんかこの気分、俺にとっても特別な意味を味わった。


「嬉しい言葉ではありますが、まだ喜んでる場合じゃない」

「そうだったな……君達は本当に


 地下格闘界最強の能力者と言われている加藤から称賛されたことは満足だが、喜ぶのは任務完了の時だ。逆に言い返せば、俺や毅だって加藤の未知なる強さに興味津々だよ。

 ついでに言えば、加藤とは坪本が乱入して以降は一時休戦という扱いでもあったな。俺の本音としては、奴らを拘束させたあとに愛弥達が見てるなかでの続きをやりたいのだが、俺や毅ももう体力の限界まで尽きていたな。


「大丈夫か影地?」

「まあなんとか……はぁはぁ」


 他人から見てもやはり疲れだけは隠しきれないか、こういうのに目がよくいく桜井さんが真っ先に駆けつけた。仕方ない、ここはため息つけて心を休めるか。


「なかなかやるじゃねぇか令! ただ、ここでじっくり休んでる場合か?」

「うるさいぞ毅、今のお前が言うセリフじゃないだろ?」

「影地くんの言うとおりだぞ毅! 改めて、当初君のことは絵美のクラスメイトであると優先して見てたが、君はかなりのやり手だ」


 なんだよ毅の奴、未だ和俊さんの元でおんぶされているくせにこんなときに俺を能力者だけの視点で見やがって。俺の強さがわかっただけ満足かもしれないが、体だけでなく心もやられてるんじゃないのか?

 一方の和俊さんはで俺を見てくれていた、毅と大違いだ。俺だって和俊さんのことはクラスメイトの外見父親みたいな兄としか見てなかったし、妹には内緒の裏の関係となってるからな今もこれからも。


「へへっ、やはりお前とはいつか戦わなくてはならないと俺の持つこの星から聞こえてくるぜ」

「今はそんなこと言うより自らの疲労と加藤さんの戦いを気にしたらどうだ毅? ま、褒めてくれるだけありがたいがな」

「毅さん……貴方という人は」


 毅と戦うときが来るとなれば、それはそれで全てをぶつけるがな。たださ、この任務でお前が1番迷惑かけたことを忘れるんじゃないぞ? 隣にいる愛弥も少しは呆れ果ててるし、さっきは死の危機まで陥ってただろ。


「改めまして影地令さん……貴方の戦いは非常に興味が溢れました、いつかわたくしとも1戦お手合わせしたいものです」

「まさか、刀梟隊の隊長である愛弥までも俺と戦いたいとは……少し人気者になっちゃったな。でも、俺からすればまだあんたには及ばない」


 毅のことはわりとどうでもいいが、このなかで1番目を見るべきなのは愛弥だな。刀梟隊でもない俺に対しても敬礼をしながら見つめるが、俺はまだ任務の功労者ではないし英雄には程遠いと思っている。

 なにせ、愛弥は常に厳しい任務を遂行しているなかで大勢の犯罪者達をまとめて捕らえている。こんな日々を送ってる愛弥を前に、任務が初めてである俺としてはまだまださ。


「それよりも君達、加藤炎児のいる方へと見たらどうだ」


 たしかに、今は大和田さんの言う通りだ。仲間達と話し合うことよりも、奴らに近づく加藤がどう料理するかの方が重要だ。自ら名乗り出たわけだし、クライマックスに相応しいことをしてくれることは間違いなさそうだ。

 加藤が先頭に立った途端、金田さざなみ公園の体温が少しづつ上昇してきている。さっきまでは毅と愛弥のおかげで冷えきっていたものが、今度は大地を揺るがすほどの熱さに変わる。


「おい毅!?」


 本領発揮をする加藤に見せられたのか、さっきまで和俊さんにおんぶされていた毅が突然降り始めた。ったく世話のかける奴だ、今度は戦闘外で無理するのかよ毅は。


「悪いな和俊、またちょっとだけ無理させてもらう。令の戦いはよく見れなかったが、なんかあいつのマジをよーく見たいんだ。令も愛弥も心配してすまないな」

「毅、お前の体か問題ないなら見た方が収穫になるだろうな」

「貴方という人は……これで体調が崩れたらわたくしは知りませんよ」


 たしかに、加藤の戦いを毅の目で見たい気持ちはわかるが、どうせなら俺が戦ってるときも見てくれたら評価は上がってたのに。

 何故だか知らないが、愛弥は立ち上がった毅を見て少し照れはじめたな。さっきはキスまでやったわけだし、毅のことは刀梟隊以上に特別な存在……なのかもな。


「毅とやらもじっくり見てるか……これは都合がいい、俺の最大級の技を使うか」


 加藤は両手に所持していた炎の鎖を一旦しまい、地べたの方をじっくりながめていた。なんだよ、アングリー・チェインで4人まとめて縛ると思ったら、加藤が言う最大級の技で仕留めようというのか?


「1年分の思いを込めて俺の究極奥義を虹髑髏共に見せてやる、イラプション・スラム!」


 おいおい、技名のイラプションは噴火って意味じゃないか? ここには火山は存在しないが、加藤そのものが今の火山の起点かもな。

 間違いなくこの男は絶対敵に回してはいけない、そんな存在になることは明確だ。今まで追われ身になっていた分、きっちり奴らに自分は拉致される身分ではないことを存分に味わってくれ──

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