8-41話 100%以上のもの

 ──残り30%……いやそれ以上だ、100%


 もはや敵味方さえ止めることができない虹髑髏1血の気が激しいユウジは、タクヤの仇を討つべく片手にサバイバルナイフを持ち走り俺を襲撃する。

 一方の俺は沈着さを保ちながら、天性の身体能力を活かしてユウジを惑わせる。そして、タクヤの仇をとりたいのであるなら、タクヤ同様に雷光ライトニング回転スピンを決めてユウジとの戦いに勝利する。


「本気のユウジは殺意だけは本物だったがまだだ……あと2人いる」


 こんなときにゲーム感覚を味わうのもあれな気もするが、2人を倒したからって残るスグルとテツオも倒して4人抜きをしない限りクリアというの名の任務完了は終わらない。奴らが今まで犯した暴挙を許そうと思わないし、休んでる暇なんて全くない。


「おいスグル! 坪本やタクヤ、さらにユウジまではガキ共にやられてしまった! もうお前と俺しかいない」

「ちくしょう、今は恐れ知らずのまま影地令の首だけを献上してやる。もう地獄を見るのはご免だ」

「首を戴くか……面白い」


 言っておくが俺の首は高価なものだぜ、奴らなんかに渡されるものか。現実世界では無理な話だが、もしもここが戦場やRPGの世界ならこっちが首を戴かせてやる。

 そういえばスグルは愛弥の幸せ投げで1度は天国と地獄の気分を味わっていたな、俺はそんな技は恥ずかしくて使えないし男にやられてもいいことはない。その代わりに、この手に宿る強靭な光でまたスグルを天国と地獄に遇わせてやるか。


「俺は誰よりも体力自慢な男なはずだ、女隊長や影地令のようなガキ共に負けてる身分ではない」

「同感だなスグル。俺だって虹髑髏の未来を担う逸材と言われているし、した影地令なんかに敗れたら恥ずかしくてたまらない」


 奴らはまだエリート意識を重視しちゃってるし、これをレイラ達が聞いたら呆れちゃうぞ。俺からしてもおめでたい奴らとして認知してるし、とても上から可愛がられる存在だとも思えない。

 あいにく、俺は才能よりもの人間なんでね。俺はたしかに菜瑠美のキスによって『光の力』が与えられたが、虹髑髏を潰すには日頃の努力を積み重ねないと強くもなれないしな。


「おっと、俺の動きに怯みはないぜ!」

「な、いつの間に?」

 

 ピンチの中でも奴らがこそこそ喋ってるあいだに、俺は奴らに急接近しかける。なんか何度もガキ扱いされるのもイラつくし、ここは16にやられる無様な姿を見させるか。

 言っておくが俺が悪いのではなく、俺の逆鱗に触れたスグルとテツオが悪いんだぜ。本当ならさっきまでいた七色の2人やRARUの分までも倒したい気分だが、お前らだけでもいいから俺の魂の怒りを全部出しきってやる! 


「今の俺にとってはお前らが何人いても負けねぇぜ!」

「ひ、ひぃぃぃ! やっぱ逃げようよテツオ!」

「お前ら逃がすかぁあ!」


 スグルがまだ戦闘態勢に整う前に、鬼人と化した俺を見てさらに怯えはじめる。逆に戦う気溢れるテツオも連れてここから逃げようとするが、この俺から逃げられると思うなよ腰抜け共。


「これでもくらいやがれ! 雷光ライトニング十字クロス!!」


 ここはまだ使用していない雷光十字で決めてやるか、ちょうど2人まとめて始末できる技でもあるからな。いつも通り『光の力』を宿りながら、交差した腕を開いてスグルには左手を、テツオには右手を手刀で強く輝く叩きつけてやる。

 俺は雷光十字を常に特訓していることもあって、光の幅も以前と比べて伸びている。肝心となる威力もかなり増している上に自身の機敏さも増しているし、もうこの両刃は逃さない。


「ぐはぁ……! バカな!」

「うぅっ……本来ならまだ逃げ回れる体力はあるはずなのにたった一撃で……ぐふっ」


 まさしく、渾身の一撃という名にふさわしいものだ。さらなる磨きがかかった新生雷光十字によって、スグルとテツオは同時にうつ伏せになって倒れるがそのまま大人しくしてな。

 これはいい成果が出たようだ、自称でも体力自慢は事実であるスグルを一発で仕留めたのはかなり大きい。もう1人のテツオも虹髑髏の新鋭とうたっていたわりには、期待はずれな強さだったな。


「ふんっ、俺とお前らとで


 仮にも雷光十字は俺にとってもお気に入りの技だし、ここぞというときに重宝するな。いつも以上に気合いを込めて雷光十字も出したおかげで、さっきまで70%だったものをしっかり100%は出すことができた。

 いや、もしかしたらそれ以上出したかもな……戦いというものは100%出すことではなく、101%。これは今後も同じ理屈で戦うし、毎回これが1番の戦いだと思うようにしなくては。


「ここで全部の技を使うとはな」


 まさか、1分間で俺の持つ4つの技を一気に使うとは思わなかった、これはマイ・カルテットと言ってもいいかもしれない。本当だったら俺の技の連続を菜瑠美にも見せたかったが、また一気に使う機会はあるだろう。

 そんなことより、刀梟隊や加藤も見て感心していただけでも十分な出来だ。今は和俊さんにおんぶされてるが見ているか毅、これが影地令の戦いだ。

 

「あとはこいつら5人の始末だがどうするかだ、それよりも俺の体力が……はぁはぁ」


 これで俺が第1部隊の4人を撃退し、再び金田さざなみ公園に舞い戻った坪本も毅によって絶賛氷漬けな状態だ。まだ俺のみが戦う場面ではあるが、全体攻撃を及ぼしたり相手を拘束させたりできる技を取得していないからどうしたらいい?

 それより、4人を相手したこともあってか体力も尽きてきたな。今さっき懲らしめたスグル並に体力はあるつもりなのに、思った以上に体が動かない。


「選手交代だ、最後は俺に任せろ令とやら!」

「加藤……さん!?」


 このままとどめを刺せないまま終わりを迎えるかと思った瞬間、加藤が突如戦闘を変わってほしいと名乗り出る。真意はまだわからないが、さっきは俺を意思を継いだと言ってたのに何故このタイミングで?


「さっきは俺だけでいいって言ったじゃないですか?」

「いや、これは俺自身の問題でもあるからやらせてほしい。令とやらの戦いを見てじっとしてる間も俺は熱くなってしまったからな」


 俺達が木更津まで来なければ加藤は今日ここで狙われてることを知らず、そのまま奴らの仲間になっていた可能性もあったしな。俺は加藤を信じるか、燃え盛る炎の鎖でこの任務が終わることを──

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