8-40話 Back to basics

 ──俺を光の能力者だけで侮ったら大間違いだ、身体能力抜群なんだよ俺は。


 未知数であった第1部隊の合体技を俺の雷光幻影で阻止し、うちの1人であるタクヤを今度は雷光回転で気絶させて俺は軌道に乗る。自慢の技だと言っておきながら、使う前に俺の技でやられるようでは大した技じゃなかったかもな。


「このまま突っ立ってていいのか影地令、刃は近づいてるんだぞ?」


 だが、今度はユウジが突如としてジャケットに隠し持っていた大型サバイバルナイフを手に持ち、合体技を諦めて自らの意志だけで俺に歯を向ける。これも災難につぐ災難かもしれないが、ただ単に狂ったユウジを倒せば済む話だ。

 他の工作員同様にただのふざけた小悪党だと思ってたのに、同僚のタクヤの仇を取りたいからってむきになりすぎじゃないのか? 


「やってみろよが、レイラと再会する前にここで終わりだ」


 突進してくるユウジを前にしても、俺は右手で人差し指を向けながら来やがれと挑発をかます。本当はかっこつける場面ではないが、加藤や刀梟隊に俺の凄さをアピールするにはこうしとかないとな。菜瑠美の前にはさすがにやらないけど。

 いくらお前が荒々しく血の気が激しくても、俺からすれば先月の牛島の件で馴れてるんでな。虹髑髏は《《頭のおかしい奴らが入る》場所だからな。


「おちこぼれだとてめぇ! 口のみならず2度と天須菜瑠美に会わせないようバラバラにしてやる!」


 一方のユウジはもう1段階過激さが増し、本当に俺を八つ裂きにしたがっている。なんか、ヘルメットの中身がどれ程キレた顔なのかは少し興味が出てきたな。

 それとさ、お前みたいなむかついたらキレるしか脳のない奴が菜瑠美の名前を口に出すなよ。下品な奴が無駄に上品な恋人の名を出されたからには、余計に俺の心のエンジンがかかりはじめた。


「死ねぇ!!」

「本当頭のおかしい奴だな! 俺は光だけの人間じゃねぇんだよ!!」


 さっきまで能力が使えないときにも、元々存在したポテンシャルで戦うつもりだったからこうするしか方法はなかった。ユウジのサバイバルナイフが俺の腹に近づく瞬間、絶対にここでバラバラ死体にならないことを確信してから攻めてくるユウジに向けて高く飛び上がる。


「はぁ!? てめぇいつの間に!?」


 飛び上がった俺を見てユウジが戸惑ってる隙に、急降下してユウジの両肩を俺の両手でしっかり掴む。そして、後ろを向いてから後方宙返りすしてユウジの背後に回って着地してから、ユウジに正面を向けてから再び戦闘体勢に入る。


「バカな!? 奴はたしかに動けると聞いたが、ここまで人間離れしてるとは思ってなかったぞ」

「あまり褒められたくないんでな悪人ごときに、これも愛弥に刺激を受けたものでな」


 虹髑髏は俺が高い身体能力を持っているくらい、最初に遭遇したファルとデーバのときからあると思っていた。ユウジには伝わっていなかったのかはさておき、今の跳躍は俺でさえ高く飛んだと実感してるから少しは満足だ。

 過去に俺は器械体操やパルクールを体得していたし、少し初心に振り返った気分だな。ユウジは俺を殺すしか眼中になかったし、冷静さを失ってるようではここにいる誰も殺すことなんてできないよ。


「これが令さんの身体能力……わたくしの想像を越す身軽な動き、事前に目をつけて正解でしたわ」


 後方に待機している愛弥も俺の身体能力の高さを認めているが、あいにく俺にとっては愛弥には叶わないよ。男女で比べられるのもあれだが、ハイヒール履いたまま連続バク転できる時点で明らかに俺より上だ。


「くそっ、お前のお遊びなんかに……な?」

「今のお前はがら空きなんだよ! くらいな、閃光フラッシュ球体スフィア!」


 奴はまだサバイバルナイフを片手に所持しているが、俺の迅速な動きにかなり困惑している。完全に隙だらけだし、ここは閃光球体でユウジに投げつけてから素顔を直撃するほどの強烈な輝きを受けさせてやるか。


「うわああああ眩しい」

「ついでにお前にもこいつを受けさせてやる! 雷光ライトニング回転スピン!」


 閃光球体をヘルメット越しに受けたユウジは目を抱えながら膝から先に倒れこむが、これで終わったわけじゃないぞ。俺はユウジを正気に戻るべく、タクヤに続いて雷光回転でとどめを与える。


「この俺がガキ相手に……ぐふっ」


 結局は『光の力』頼りだったかもしれないが、俺がかなり動けることも愛弥達にわかってくれたし満足な戦いをした。ひとまず、ユウジは俺が放った2つの技の輝きで正気に戻るんだな、むやみにキレればいいってものじゃないんだぜ。

 ただ、ヘルメットに当てるというのも随分と無茶しちゃったな。おかげで右足に痛みを覚えているし、奴らが被っているヘルメットが頑丈なものであることが伺えたな。


「怒りをエネルギーに変えるのは恐ろしいな」


 それにしたって殺意だけは本物だったし、坪本以上の凶悪な人間だったのは事実だ。もしも俺がバック宙でかわす余裕がなければ、今ごろ刺されて2度と菜瑠美に会えなかったかもしれない。

 これは本人が元々の性格なのか、それとも副作用によって新たな性格が生まれたのか。虹髑髏はまだまだ不明な点は多いが、工作員でも残忍な奴が数名いるのは明らかとなったな。


「タクヤに続いてユウジまで!? くそっ!」

「次はお前らだぞ! スグルにテツオ!」

「ひぃっ!」


 奴らに対する怒りはおさまっちゃいないし、仲間がやられた現状でこの2人が万が一『ごめんなさい許してください』と言っても許しはしない。どうせ菜瑠美達にも何か嫌らしいことしただろうし、こっちにも刀梟隊という協力な後ろ盾もあるんだよ。

 俺としても70%程しか出しきってないし、残りの30%も存分に使い果たすか。とくと味わってもらうぜスグルとテツオ、これが影地令なんだよ──


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る