8-39話 殺意のユウジ

 ──この俺がであることを敵味方問わずわからせて、俺の中での木更津で大きな爪痕を残す。


 今まで菜瑠美のいないなかで俺はこの大きな『力』を使って戦ったことはないが、これが木更津での大きな試練であると右手に輝いているこの光が告げている。なんか変なことかもしれないが、俺がそう思うからそれでいい。


「夜にはカズキとの約束もあるからな、早めに片付けるか」


 本来の予定であるなら、今日の夜に同級生にして旧友でもあるカズキとの誕生日の約束があった。今回の刀梟隊との合同任務も、『わだつみ』のメンバーで唯一木更津行きを断るつもりで初めはいたからな。

 その分、新たな出会いができたのも大きな収穫だ。本来の接触相手である加藤も俺達のことを認めているし、当初は嫌な奴だと思っていた毅を始めとした刀梟隊との関係も良好だしな。


「ここが正念場だな、今の しゃっ!」


 戦う前に小さな雄叫びを上げとくか、この雄叫びが何かを変えるかもしれないし。加藤や刀梟隊も俺の戦いを見ているわけだし、自ら名乗り出て不甲斐ない戦いだけはしたくない。

 それに、俺はソードツインズの一件以降はさらなる高度な特訓を敢行したからな。今回はあの2人は現れなかったが、次遭遇したときは藤野だけでも取り戻したい気持ちはあるからな。


「ふっ……」

「毅……俺はやるときはやる男なのを証明する」


 戦う前に一瞬だけ毅の方を見るか、実際ならそんな余裕はないけどな。なんだあいつ……俺の顔を合わせたら微かな笑いをしてきやがったし、まだまだ元気じゃねぇかよ。

 ま、俺を見てる余裕があるのならばしっかり見物してるんだな。強い俺の勇姿を見ていれば、一層俺と戦う気が湧くだろうしな。


「愛弥様、令くんだけであの者達と戦わせていいのですか? 愛弥様や加藤炎児と共に加勢した方がよろしいのではないかと」

「その心配はありません幸谷殿、令さん本人が仰っていたことですので問題はないでしょう。令さんの光は前々からわたくしもを持っていましたので、拝見するには絶好の機会でしょう」


 半蔵さんは俺の単独行動に疑問を感じていたが、一旦氷の剣を下げながら後方に回った愛弥は俺1人で戦えることをフォローする。刀梟隊の隊長であるからか、他人を見る目も鋭いだろうな。

 いくら俺の光には興味を持っていても惚れたりするなよ、俺には恋人菜瑠美がいるのだから。そういえば、愛弥はさっき毅に励みのディープキスをしていたしその可能性は低いか。


「さてと、行きましょうかね」


 考え事はこの辺にしておいて、合体技を阻止するために奴らの元へ向かう。特訓の成果を見せてやりたいところだし、第1部隊の悪意しか感じられない挑発を見てさらにうざいと思ってたからな。


「おい、影地令だけがこっちに出たぞ」

「気にするな、まずは因縁ある影地令を仕留めるぞ」


 奴らも俺だけ攻めてくるのに随分と歓迎してるじゃねぇか、俺もかなり舐められたものだ。その大口を叩けるのと無駄なポーズを取る、この行為が命取りであることをわからせてやる! 


「行くぜ! 俺達のナンバー……」

「動作が遅いぜ! 雷光ライトニング幻影ファントム!」


 合体技の名前を最後まで言う前に俺は雷光幻影の構えに入り、毎日磨いてきた両足を揃えはじめる。この技なら4人まとめて視界に入る技だし、奴らを撹乱するにはちょうどいいな。

 雷光幻影は俺の持つ4つの技でもっとも強化に励んだ技でもあるし、牛島との対決以上に大きな自信があった。今回の出来にしては良好だが、戦いはまだこれからだ。


「ぐわっ、あの野郎ロケットのように突っ込んできたぞ!」

「お前! ちっとは俺達の技を見やがれよ」

「悪いがそんな暇なんてないな、まずはお前からだ!」


 雷光幻影で奴らへの奇襲は成功したし、ここは今現在俺の近くにいたタクヤから攻撃するか。どうやら、奴らの合体技は本当に4人が近辺にいることしか使えないようだな。

 ついでに言うと、俺は合体技なんて興味すら出てこないし、友達に合う約束の時間もあるから見ている暇なんて全くないんだよ。ったく、相変わらず奴らの精神年齢は子供そのものでしかないな。


「おいおい、俺はあいつらと違って悪いことは……」


 標的にされたタクヤは他の奴らより悪事を働いていないと言い訳して両手を広げているが、そんなの俺達が信じるとでも思ってるのか! 小物悪党ってこんなのばかりの上に反省する気もなさそうだから、もっと俺から制裁する必要があるな。


「無駄口を叩くんじゃねぇ! 雷光ライトニング回転スピン!」


 まだまだ俺のは暴れ足りないし、ここは引き続き俺の足技の先輩である雷光回転でタクヤを仕留める。言っておくが、この足から放たれる輝きはタクヤを逃しはしないぜ。

 せっかくだからいつも以上に回転させて威力を増すか、自分の目まで回らない限度にな。そういえば、1回この技でお前の上司レイラにも使ったんだっけな。


「うわぁ、タクヤ!?」

「嘘だろ、あの野郎以前より強くなってやがる!?」

「どうしたんだ、こいつの仇を討つ度胸すらないのか!?」


 あっけなく倒れたタクヤを見て怯えている他の第1部隊に対して、俺は強きの態度を取る。俺はまだまだ強くなったとは思っていないし、むしろじゃないのか?

 本当に情けないにも程があるし、レイラでさえも呆れるぞ。いくらふざけた言動が目立っても本当にレイラが認めた精鋭であるなら、正直もっと骨のある奴らだと思っていた。


「ふざけるな! もう合体技は諦めた、俺1人でだけ相手して影地令を殺してやる!」

「おいユウジ!?」


 雷光回転で気絶したタクヤの仇をとりたいため、今までおちゃらけてたユウジが一転して俺に凄まじい殺意を向ける。ったく威勢だけは一丁前だが、それだけではこの俺を倒すことなんてできない。


「へへへっ影地令……本当は出したくなかったが、てめぇはこれでぶっ刺されてジ・エンドだぜ!」


 おいおいユウジの奴、着ていたジャケットに隠し持っていた大型サバイバルナイフを左手に持ちやがった。殺意に満ちたユウジは奥の手として用意したようだし、俺としても油断はできなくなったな。


「逃げろ影地! あんたそのままだと死ぬぞ?」


 遠くで見つめる桜井さんが刺されそうになる俺に大声を掛けて心配するが、ここは桜井さんや刀梟隊達にはまだ見せたことないを使ってみるか。

 

「死ねぇぇーー影地令!」

「ユウジ……なんでもいいから影地令を殺してしまえ」

「不安ではあるがあいつのあの状態なら誰も止められない」


 もはや仲間のスグルやテツオでさえも手に負えなくなったユウジは、俺の腹部に刺しかかろうと急接近する。いくら本性を現したかもしれないが、俺からすれば今のユウジの方が戦いやすいんだよ──

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