8-38話 光の決意
──ここは俺から先頭に立つべきだ、毅のためにも。
元地下格闘界最強の炎使い・加藤炎児、若干16歳の少女ながらも刀梟隊隊長にして氷の剣姫・二木愛弥。この圧倒的な強さを持つ2人と共に戦う俺はまだまだ未熟……いや場違いかもしれないが、毅が果たした大きな役目を引き継ぐ使命は俺にもある。
「へへっ、あとは任せたぜ……お前らならあの工作員共を始末できるとな」
愛弥隊長の持つ『氷の力』に捧げられた結果、毅は今のポテンシャル全てを使い果たしたからな。究極派生技のクレイジー・スターダム・
毅は坪本に競り合って勝利しただけで満足そうな顔をしているが、今の毅は右手にお腹を抱えているし歩くことが精一杯だ。毅はそのまま戦闘から離脱し、後ろにいる半蔵さん達のいる方へと移動する。
「毅! 例え愛弥様の心が許したからといって、生死に関わることをするもんじゃない!」
「すまないな半蔵。愛弥や令だけでなく標的の加藤に惨めなとこ見られた分、刀梟隊としての本当の俺を見せたかったんだ……あとはあいつらがなんとかしてくれるさ」
さすがの半蔵さんも毅の行為に酷評するが、刀梟隊の仲間だけでなく義父みたいな間柄でもある。毅だって坪本との因縁に終止符を打ちたい気持ちで戦っていたわけだし、少しは多目に見てくれと俺は思うが任務である以上酷評されるのも無理はないか。
「おっと危ないぞ毅、俺が令くんや我ら隊長のことを考えるな。俺がお前を支えてやるから、俺達刀梟隊は1つの家族みたいなものだからな」
「ありがとな和俊……あんちゃん」
先に尻からついた毅は地べたに倒れかかるが、和俊さんがすぐに駆けつけて毅をおんぶする。和俊さんに励まされた毅は微かに笑いながら、少し距離が離れた俺達の最後の戦いを見つめる。
実際に妹がいる和俊さんだが、今はその妹以上に毅を大事な存在にしている……そんなこと当の妹に言ったら殴り飛ばされるか。毅だけでなく刀梟隊全員に対しても家族だと思ってるだけで、和俊さんの人柄が伺える。
「そういえば俺、いきなり令に失礼なことしちゃったな……他にもこの任務が終わったら令と戦うとかほざいてたが、今思えばバカなオーダーだ」
「おい毅、お前は休むことに専念しろよ。話は終わってから何度も聞いてやる」
初対面で俺に喧嘩を売るという第一印象最悪だった毅だが、今日だけで3度の窮地に陥ったこともあって、改めて1度出た言葉の重大性がわかったか。
今日で11年間探していた母親殺しの真犯人も、今は故人とはいえど誰だかわかったしな。新たな野望もできたことだし、やり手の能力者にいきなり挑発行為をするのは俺で最後にしとけよ。
「そうだったな……あとは頼んだぜ……」
毅は休息に入ったことだし、毅が繋いだバトンを俺達がどうにかしましょうかね。第1部隊はまだまだ数はいるし、全員捕まえるまでは任務完了にならない。
「このままだと俺達も坪本と同じ氷漬けにされるぞ、戦う前にまず坪本を助けなくては」
「そんなことやってる場合か、坪本を助ける前に奴らが一気に攻めてくるだろ」
「仕方ないか、坪本は一旦無視して俺達だけでやるぞ!」
坪本が凍結中のなかで怯えはじめる第1部隊達は、俺達に最後の抵抗を見せるか坪本を助けるかで迷っていた。こんなときに覚悟ができないようでは、作戦で逃げた
毅が戦線離脱しても、こっちにはまだ愛弥隊長の本当の氷で奴らを凍結できるな。もしくは俺の強烈な輝きと加藤の燃え盛る炎で焼き尽くすかだな、俺からすれば3食フルコースが理想なんだけどね。
「おいスグル、今すぐ起きろ!」
そういえばすっかり忘れてた、愛弥隊長の幸せ投げで鼻血出したままずっと気絶していたスグルのことを。タクヤが緊急事態だと言わんばかりに、睡眠状態のスグルを起こそうとする。
「ふぇ……どうしたんだ俺?」
ま、スグルを起こして人数的に有利になるかもしれないが、奴らが4人になっても俺達は負ける気はしないよ。奴らと俺達とで、背負ってるものと所持している『力』が激しく違うんだよ。
「いつまでもお前だけのんきに女隊長のパンティー拝んで気絶してる場合じゃないぞ、あれを見ろ」
「あれってなん……うわぁぁあ! いつのまにかあいつらの数が増えてるし、RARUが封じた能力が戻ってるー? おまけに坪本がなんて醜態をー」
悪いなスグル、お前が起きた先は完全に手遅れな状態だぜ。お前だけはいい夢を見たかもしれないが、これからは総攻撃という悪夢を見せてやる。
「俺達はもう無理に決まってるよー。逮捕されるのはごめんだし、坪本は諦めて俺達だけで逃げようよみんな」
「バカ言うなよ、お前は虹髑髏の体力自慢で男の中の男じゃなかったのか? こんな弱虫だとは思わなかったぞ」
「それにさ、俺達が今逃げたら虹髑髏での名声が下がってしまうし。例えここでうまく巻いても、後でレイラ様にお叱りになるだけだ」
おいおいどうしちゃったんだスグル、愛弥隊長の幸せ投げで脳天叩きつけられて頭のネジがおかしくなったのか? いくら弱音を吐こうが3対4になろうが、俺達はお前ら第1部隊を許すつもりなんて一切ない。
「お前ら何言ってるんだ? こういうときこそ俺達には奴らの仲間の女達を苦しめた合体技があるんじゃないのか?」
「そうだったな、俺達にはまだ希望があるんだ。お前ら覚悟しな!」
相変わらずふざけたポーズと人を見下す言葉をしてきてるが、奴らの合体技か。たしかにそんなこと言ってたかもされないが、菜瑠美ら女性陣を苦しめたことが本当ならば油断はできない。
「何が覚悟しなだよふざけんな! 加藤さん、愛弥隊長、まずは俺だけで奴らと戦わせてくれ!」
「令さん……?」
「令とやら?」
「毅の意思を継ぐのは俺しかいないんだ! お願いします!」
奴らの口車を見逃すわけにはいかず、俺の堪忍袋の緒が切れる。3人で戦うのが理想なのはわかっているが、あえてハイリスクを選んで1人で戦うことを加藤と愛弥隊長に告げる。
それと、俺はまだ木更津に来て満足に戦っていないんだ。『光の力』も失われていたし、復帰戦にしては絶好の機会であるのも理由の1つだ。
「君の熱い意思は受け取った、まずは君にたくそう令とやら」
「ありがとうございます加藤さん」
どうやら、加藤は俺の頼みを素直に受け入れたようだ。第一印象ではただ熱くて勝つためには手段を選ばない人間かと思ったら、素直で心優しい一面もあるんだな。
「今この場で言うことではないかもしれませんが、わたくしのことは普通に愛弥と呼んでもいいですしタメ口でも構いません。お願いしますよ、『わだつみ』の頼れるエースさん」
「あなたが言うのであればこれからそうさせてもらうよ、愛弥」
まさか、愛弥隊長……いや愛弥の方から呼び捨て兼タメ口OKが出るとは思わなかった、俺からすれば明らかに身分が上な人間なはずなのに。ただ、刀梟隊隊長である誇りは忘れておらず、俺に向けて敬礼をしてから戦いを見守る。
それは置いといて、毅と梨理亜さん以外の刀梟隊の前で俺の『光の力』を見せる瞬間が訪れた。今の俺の気分的には、4人まとめて相手しても負ける気はしねぇよ──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます