8-37話 生還
──無理をすることだけは天才的な男だ。
毅の究極奥義であるクレイジー・スターダムに愛弥隊長の氷の異能も加わった派生技、クレイジー・スターダム・
これで坪本を撃退したかと思ったが、クレイジー・スターダム・Fから放たれた水色のオーラから白い霧の中に包まれる。毅と坪本はまともなダメージを受けているだろうし、白い霧の中で消息が絶たれるのか?
「毅さん……貴方まさか……」
地べたにつまずいていた愛弥隊長も即座に起き上がったが、毅の安否が途絶えているためか首を振る。隊員の死をAYBS本部に渡ったら、愛弥隊長にも大いなる責任が問われることになる。
「あいつ、たしかに俺のリボンで能力が戻ったのに早々からやりすぎたと違うか? 自業自得もいいとこだよ」
今は非戦闘要員の桜井さんだって、多少の愚痴は出たが気持ちだけは俺達と変わりない。むしろ、桜井さんのリボンがあったから毅はクレイジー・スターダムを使うことができ、愛弥隊長の援護でFにまで発展した。
「お主は時たま無茶なことをするが、今回とばかりはやりすぎたようだな毅よ」
「毅……お前が死んだら刀梟隊がどうなるかわかってるのかよ」
同じ刀梟隊である半蔵さんや和俊さんも毅のことを絶句したが、生きてほしいと願うことだけは変わりない。今ここにはいない梨理亜さんも含めて、刀梟隊は家族そのものな関係かもな。
「小金毅くんか……強いことはわかったが残念だよ」
絡みこそ少なかったが共に同じ車でここまで来た大和田さんだって、毅を強者と見ているような感じで自分事のように悔しがる。『わだつみ』と刀梟隊が一丸となるのは、毅の存在も必要だしな。
「邪魔者さえいなければ既に毅とやらとの決着が済んでいたはずだが、こんなことになってしまうとは……」
坪本が現れる前は本来なら任務の最大の目的であった加藤も、坪本を怨むかのように白い霧を睨みながら見つめる。坪本やジャイスとの戦いで友情が芽生えたが、ほんの一瞬の出来事だ。
「毅ぃぃい! お前といずれ戦ってみたかったわけだし、ここで死ぬなバカが!」
本当に最期なのかもしれない、俺は毅に対する気持ちを思いっきり叫んだ。毅は最初に会ったときから俺と戦いたいほどの好戦的だったし、ここで死んだら俺にとっても満足がいくものじゃない。
初めからクレイジー・スターダム・Fを出す前にカッコつけたこと言わなければよかったのに、静かにしていたら完璧と言った感じだな。要するに今まで俺が知り合った人間の中でも、1番の大バカ者なのは事実極まりない。
「誰がバカだって? あぁ!?」
「!? 毅?」
その声は毅……なのか? 毅の声が聞こえた瞬間に俺達は一気にどよめくもの、まだ本人かどうか断定できない。
すると、未だに消えない白い霧の中から毅らしき人影が姿を見せ、右手から勝利のポーズと呼べる人差し指を俺達に向ける。
「毅! お前無事だったのか?」
「令……この俺様が本当に死ぬとでも思ったのか? この人でなしが」
何言ってるんだよ毅は、無事だったから調子乗るんじゃないよ。俺だけでなく愛弥隊長をはじめとした他の刀梟達や加藤にもえらい迷惑をかけたんだ、そこのところは自覚しろよな?
「毅さん……貴方の無茶はもうこれっきりにしてもらいたいです」
「へへっ、お前の氷はとんでもなかったぜ……やっぱり、他人の異能を借りるよりも
俺は星屑だけで十分そうだな」
愛弥隊長は嬉しそうに毅の元へ駆けつけ、任務途中であることを忘れてるようなな気分だ。それはともかく愛弥隊長、毅を見て微笑んでいるし少しは年頃の少女らしい表情をしてるな。
「そういえば、坪本はどうしたんだ?」
「ああ坪本か、奴がどうなったのか知りたいか?」
毅が無事であることにひと安心したが、問題なのは坪本の方だ。さすがに殺したら大問題になるが、未だ姿を見せないということは本当にクレイジー・スターダム・Fをもろに受けたのか?
「くそこのわんころー、俺様を解放しやがれー」
なんか、白い霧の中から坪本のわめき声がするな。それはともかく、そろそろクレイジー・スターダム・Fのついでに巻いた白い霧が金田さざなみ公園から消えかかり、坪本の姿も確認しようとする。
「へっ、しばらくお前はそこで体全体冷やすんだな」
「っておい、色々やりすぎじゃないのか?」
肝心の坪本はというと、上半身はそのままではあるが両足は氷塊に閉じ込められていた。両手も隣にある氷柱によって拘束された状態だし、銅像というよりマリオネットに近い姿をしてんな。
これを見た限りだと坪本はしばらく氷漬いて動けそうにないし、このままわめくことしかできないまま刑務所送りになるのは間違いなさそうだ。毅の言ってる通り、まずは今までのしてきた悪事を反省して全て冷やすべきだな。
「ああああああ、坪本がカッチンカッチンになっちゃった……」
「だから言っただろ! 先に奴らの仲間を始末しようって」
第1部隊の奴らも氷塊に閉じ込められている坪本を見て怖じけついてるが、戦う気ではいるようだ。まだこっちには凍結できる手段に本来の氷の使い手である愛弥隊長もいるし、このままあいつらも凍結してから拘束だな。
ま、それだと俺と加藤の出番がないまま刀梟隊だけが活躍した扱いになるな。俺も虹髑髏を潰すためここに来たんだから、それはそれで面白く感じないな個人的には。
「ここで冗談を言うつもりではないが、俺のこの炎で溶かして助けるのを手伝うか……そもそも、俺達を苦しめた悪党にそんなつもりはさらさらないが」
今日までずっと虹髑髏に狙われていた加藤も、凍結された坪本を見て呆れている。助けようとしないのも当然な判断だろうし、逆に焼死する勢いまでなりそうだ。
「悪いが、俺はしばらく動けそうにない……俺としても上出来な活躍はしたし、後は愛弥達に託すか」
しかし、2度もクレイジー・スターダムを使った反動は大きく、毅の体はかなりふらついているし着ている服もボロボロだ。これ以上無理なことはしたくないが、今の毅は休憩が必要だろう。
なによりも、毅はたったの1日だけで3度も自身の限界を越えた。これが刀梟隊の中でも大きな収穫になったのは間違いないし、母親の仇の予兆としては完璧だ。
「もう仕方ない、俺達が坪本の分まで奴らを殺してやる!」
「そうだな、俺達はレイラ様が認めた精鋭達だしこんな奴らに捕まるわけにはいかない」
エリート意識の高さとレイラへの崇拝っぷりだけは認めてやるが、お前らはここまでだ。毅が活躍しているのをただ目のあたりにしてたわけじゃないし、『光の力』が使えなかったこともあって俺はとてもウズウズしてたんだよ。
「毅さんがいい場面を作りましたが、わたくし達も続きましょう」
「こいつらを燃やし続けてから、あなたとはじっくり話したいな、隊長とやら」
「俺も奴らに怒りしか沸かないし、復活した光で懲らしめてやる」
今日の俺としてはまだまだ不本意な成果だし、復活した『光の力』で大暴れしたい。俺は奴らを拘束させる技はないけど、それは加藤と愛弥隊長に任せよう。
「貴方達もたった今氷漬けにした者と同じ運命になってもらいます」
「俺は虹髑髏とやらが大嫌いだ、お前らなんかに俺を渡してたまるか」
「
毅の強大なる星屑は体力の限界のために欠けてしまったものの、こっちにはまだ炎と氷と光の3大勢力が一丸となっているし誰にもとめられない。
能力者として失われた時間と毅が繋いでくれたバトンも兼ねて、第1部隊に全てをぶつけて任務完了といきますかね──
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