8-36話 クレイジー・スターダム・F

 ──毅の辞書に限界という文字はない、本人もそれを意識ながら再び大技を決める。


 クレイジー・スターダム……それは、刀梟隊所属で不死身の精神と『星の力』を所有する優れた能力者。ついでに俺をライバル視する男、小金毅が自ら危険すぎる技であると認める究極奥義だ。

 普通だったら、1日1回使用するだけでも自らの体力が消耗するほど大きなリスクがかかる。それでも、自称・令和の切り裂きジャックこと坪本との最終決着をつけるため使うことを決心する。


「てめぇはジャイスと違って母親絡みの仇ではないが、逢った時からすごくうざってぇんだ。逃げたジャイスの分までぶつけて、ここで終わらせてやる!」


 俺が今まで見てきた虹髑髏の中でも悪知恵が特に優れ、毅の母親の真実を知っているジャイスはもう金田さざなみ公園にはいない。母親の仇も毅にとっては重要ではあるが、まずは金田さざなみ公園に戻ってきた坪本をどうにかしないとな。

 これが数分前まで戦意喪失に陥ったのかと疑いたくなるほど、毅の闘志と坪本に対する怒りが半端ない。だが、その闘志が溢れすぎて自滅してしまうのかと不安に感じてしまう。


「毅さん、わたくしの『氷の力』も受け取ってください! 今の貴方になものですし、接吻だけでは物足りないでしょう」

「へっ、愛弥が俺に助太刀してくれるならもう1回くらいなら体は持てそうだ。あまりにも助かる」


 氷の剣を再び使えることに微かな喜びを感じる愛弥隊長も、毅のうかつな行為を見抜いたためか攻撃側からサポート側へと切り替わる。クレイジー・スターダムを一層強化するため、両手を大きく広げて毅に氷の結晶ごと受け渡っている。

 

「坪本迅馬を捕まえるのは貴方しかいません、わたくし達の分までお願いします」

「わかってるよ愛弥、奴の顔なんて2度と見たくねぇしな。では早速、お前の自慢の氷を使わせてもらうか!」


 愛弥隊長も年上部下の毅を信頼してなければ、キスしたり『力』を渡すことなんてしないよな。強い心を秘めた愛弥隊長は、クレイジー・スターダムを出す前まで最大限に両手を大きく広げて毅を静かに見守る。


「うぉぉぉぉお! いくぜ坪本!」


 毅の両手からは、本来なら愛弥隊長が扱うような凍てつく冷たい手をしている。いくら一時的に氷が扱えるようになったと思うが、元々は愛弥隊長のものであるためかなりのエネルギーを感じる。


「離せわんころ!? 最強の暗殺者である俺様がてめぇごときに殺されてたまるか!」


 今まで威勢のよかった坪本も、大幅進化を遂げた毅に掴まれてじたばたした状態だ。なんだよ坪本は、毅のこと散々軽蔑したり煽ってたくせに今は随分と弱音を吐き続けてしかいない、令和の切り裂きジャックという通り名が泣くもんだ。


「安心しな、組織の掟もあるし命までは奪わねぇよ。しかし、てめぇの行き先はだ!」


 ジャイスのときと同様に体を包み込むほどの星の大群が現れるが、愛弥隊長の氷も手に入れたこともあって星の大群が黄色から水色に変化している。輝きと寒さが増しており、どこまで氷を制御できるかは誰にもわからない。

 ただ、クレイジー・スターダムを使う前に毅が気になった発言をした。坪本を生かしたまま始末するのは当たり前ではあるが、『力』の中に閉じ込めるとはどういう意味なんだ?


「お願いします……毅さん」

「ああ」


 毅は一瞬ながら愛弥隊長の顔を見てからクレイジー・スターダムを放とうとするが、こんな状況だというのによくそんな余裕も持つようになったな。ま、毅と愛弥隊長が刀梟隊での信頼関係がどれほどのものなのかわかったがな。


「一時的ではあるが、愛弥から譲り受けた『力』を存分に見せつけてやる! クレイジー・スターダム・Fフリーズ!」


 新たにフリーズという追加名の通り、凍えた星の大群が坪本を凍らせる勢いで追い詰める。

ジャイスに放ったときは黄色いオーラが漂っていたが、今回は愛弥隊長が混じり合った氷も入ってるため、星の大群同様水色のオーラとなっている。


「まだまだだ……愛弥の氷がこんなやべぇもんだとは思ってもなかったぜ」

「毅! 寒くなったわけだし、無理すんな!」


 毅は焦りを見せるものの元々は他人の物なんて簡単に扱えるわけがないし、それができたら天性の才能としか思えないな。俺だって菜瑠美からのキスで譲り受けたこの光も、最初は全然だったし初陣は敗北だった。

 毅がクレイジー・スターダム・Fを使ってから、急激な勢いで金田さざなみ公園は冷えきっているな。少しの辛抱かもしれないが、寒さをこらえて毅を信じるしかない。


「これでお前はしばらく動けないだろうな、はぁぁぁあ!」


 寒さをこらえながらも、毅は最後の一押しを見せて坪本にとどめを放つ。顔こそ見えないものの、今日見てきた中では1ぞ毅。


「ぐはぁぁ! てめぇみたいなわんころにぃぃい!」


 どうやら、坪本を倒したことには間違いはなさそうだが、クレイジー・スターダム・Fの勢いは金田さざなみ公園に大きく影響を与えてしまう。あくまでも種を巻いたのは毅になるが、毅と坪本が戦った場所には大きな白い霧が包まれることとなる。


「きゃっ……わたくしも少しは無理してしまいました」


 毅の本来の戦闘能力が高い反動もあるかもしれないが、愛弥隊長は最後まで両手を広げた後に体全体がよろける。先にハイヒールから足にひっかかり、思わず尻をついてしまう。

 愛弥隊長も連日任務続きの上に急遽ここまで来たんだから、疲れることに無理はない。ただ、ミニのタイトスカートというあまりに無防備な格好をしてることだけは忘れないでほしい。


「それよりも毅とやらはどうなったんだ?」

「そうだったな」


 愛弥隊長のスカートの中はけど、今はそれどころではない。毅が元凶である白い霧は一向として消えようとしないし、最悪の場合はになったかもな。

 やっぱ毅はバカな奴だったな……無理したあまりに18歳の若さでこの世を去るのかよ──

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