8-35話 白い銀河
──秘めた潜在能力を持つ桜井さんのリボン、これによって俺達の武器となる『力』が戻るとは誰が予想したことか。
金田さざなみ公園は今、誰もが見たことない謎の現象が起こっている。桜井さんの舞ったリボンから、突如として綺麗に輝く白い銀河のようなものが出現したのだった。
桜井さんだってプライドは高いし努力家だ、自慢のリボンで第1部隊と戦いたい気持ちはある。毅の方針上拒まれたことに納得できずに、リボンが勝手に持った意思で動いたものなのか?
「待ってくれ、銀河から雪まで降ってきたよ」
「この雪……わたくし達に? これが瑞雪であるならありがたいですが」
白い銀河が出現して間もないが、銀河の中から散りばめた細雪がふわりふわりと降り続く。その細雪は、俺を含めた4人に目掛けて降ろうとしている。
これがまさに愛弥隊長が言っている瑞雪なのか、それとも悪運をもたらす雪なのか。どっちに転ぶかまだわからないが、ただの細雪でないことは明らかだ。
「これは……俺の光? 嘘だろ……あの細雪で異能が戻ったのか?」
細雪に触れた瞬間、俺の右手が突然と鮮明に輝きはじめる。彩度から見ても普段通りの輝きを示しているし、完全に取り戻したと思っていいのか?
この光は菜瑠美のキスで譲渡された大切なものだし、2度と使えないとなったら俺自身も非常に困っていた。これが戦闘前でよかったな、今の俺は驚くことしかリアクションをとれない。
「ふっ、驚愕してるのはお前だけじゃないぞ令。俺の煌めく星の大群も戻っている」
「皆様だけではありません、わたくしの宝物グレイシャル・ブイもです」
「炎使いの俺が雪に触れて取り戻すとはな、世の中面白いことだらけだな」
「信じられない……桜井さんが放った白い銀河でRARUのキャパシティ・ロストから解放されたのか?」
あの細雪が能力封印を持つRARUのキャパシティ・ロストを打ち消すとは思わなかった、今の俺としては『光の力』が手元に戻っただけで大分違う。
俺の光は当然のことだが、愛弥隊長の氷の剣、加藤の炎の鎖鎌、そして毅の星の大群が戻ったのはあまりにも俺達が優位すぎる。炎・氷・光・星が一気に集結することは滅多にないし、この戦いを締めくくるには相応しい展開だな。
「星が使えるのは都合がよすぎるぜ、助かったよあんた」
「別にどうってことないさ。とにかく、俺が今言えるのは志野田ざまぁとだけかな」
さっきまでは桜井さんに悪態を取っていた毅だが、能力が戻ったのは桜井さんのおかげであるためか刀梟隊らしく礼を込める。ついでに、妙な笑いをとりながら『星の力』が戻っているのを喜んでいる。
一方の桜井さんも、虹髑髏のアジトへと逃げたRARUのことを嫌気さしてざまぁと言う。桜井さんだけでない、満場一致でざまぁと思ってるよ。
「このリボンはな、元々新体操の現役時代に競技用として使ってきたものだ……それがどうしてこんなことに?」
今の桜井さんの頭は色々パニックに陥ってかもしれないが、ただ単に回転しただけでこんなことが起きるのは偶然とはとても言いがたい。まるで、リボンにも桜井さんと同じ魂と意思を共用してるものだと感じた。
「ミナミさん……わたくしが言える立場ではないかもしれませんが、1つあるとなれば貴女の持つリボンはRARUの隠れた能力を読み取ったかもしれません」
「は? このリボンが!?」
俺はRARUと桜井さんの戦いは見てないからなんとも言えないけど、愛弥隊長の言ってることに一理あるな。このことが理解できてるということは、さすが刀梟隊の隊長だな。
おそらく、RARUは桜井さんに自慢のサイレント・ショックを使ったはずだ。その反動によって本来RARUが隠し持っていたキャパシティ・ロストの対となる白い銀河が、桜井さんのリボンに吹き込まれてしまったのか?
「やはり、桜井さんは『わだつみ』の大事な戦力だ」
実際どうなのかはまだ誰にもわからないが、桜井さんに新たな『力』を得たのは事実極まりないことだ。俺からすれば、RARUのあるキャパシティ・ロストから対抗かつ相殺できる人物がいるだけでありがたい。
裏を返すと、長きに渡る桜井さんとRARUの因縁は今後も激化することは間違いない。今後RARUと出くわしたときには大きく左右するのは間違いないし、リボンに隠れた白い銀河が大きな要となるだろう。
「銀河が消えた……なんか俺が幸運の女神様になっちゃったみたいだな。俺もあいつらが嫌だけど、やっぱり俺は小金に従うよ」
俺達の『力』が戻ったからか、白い銀河が細雪ごと消えかかる。桜井さんのリボン様様のおかげでキャパシティ・ロストの封印が解かれたからか、桜井さんは自ら女神様と名乗ってしまう。
「余計なことしてんじゃねーぞクソアマがよぉー、服装だけでなくリボン丸々切り裂いてやろうかぁ?」
それも束の間、女神様にはすぐさまピンチが訪れる。舞い上がったリボンが桜井さんの手の元へ戻る瞬間、坪本が突如として桜井さんに襲いかかってきた。
「なんかさ、梨理亜の姉ちゃんが噂したやべー奴が俺の元へ向かってくるぞ」
あのしつこいカマキリ、さっきは俺と毅を始末できなかったからより凶悪化している。しかし、今のターゲットは俺達のピンチを救ってくれた桜井だ、桜井さんを切り裂いて奴の大好物の血を見たがる気満々だ。
「俺様達からすりゃ加藤以外を全員抹殺すりゃいいんだよ! リボンですげぇもんだしたこのクソアマも例外じゃないぜ!」
「くそっ、志野田に続いてやべー奴にまた殺されかけるとか今日の俺は厄日すぎるな……」
駄目だ、桜井さんは坪本の動きに困惑したあまりで逃げられない。さらに、桜井さんはリボンで坪本に反撃してこない……こんな状況で毅の言葉を信じてどうするんだよ。
「へっへっへクソアマ、俺様のクレッセント・スラッシュを受けやがれ!」
「うっ……」
いくら俺達の異能が戻ったとはいえ、一気に総攻撃したら桜井さんにも被害が与えるかもしれない。せっかくの功労者が、こんな形で離脱するわけにはなるものか。
これは同じ『わだつみ』である俺が真っ先に動くべきだが、桜井さんや坪本と距離が離れている。他人任せしてはいけないし、桜井さんを助けにいかないと。
「待てよ坪本、てめぇの相手は俺じゃなかったのかよ!」
「わんころ!? てめぇいつの間に!?」
俺が一歩踏み出そうとするあいだに、今度こそ完全決着ををつけるべく毅が坪本に近づく。毅の奴、愛弥隊長にキスされた影響で格段と闘志が増しているな。
要するに愛弥隊長のキスが菜瑠美のキス同様何かの『力』を与えるものであるなら、毅の戦闘能力は格段に上がってると思っていいのか? まずはキスされて生まれ変わった毅のお手並み拝見といこう。
「おいおい、あのわんころさっきと比べて素早しっこいぞ?」
「へっ、愛弥のおかげたな。お前にもこれをくらわせてやる!」
毅はすぐさま坪本の反対側へ移動し、両肩をしっかり掴みはじめた。あの体勢は嘘だろ……本人公認の危険技クレイジー・スターダムをまた使うのか?
「おい毅、クレイジー・スターダムは自らの体力も消耗するはずじゃないのか? 今度こそお前は死ぬぞ?」
「死なねぇよ令、今の俺は自信しかなくてな、坪本なんてまずは飛ばしてから拘束してやる」
おいおい……毅のその言葉、死亡フラグ立ちっぱなしじゃねぇか。本人が死なないと言うなら信じるしかないが、本当に死んだらバカみたいだぞ。
「毅さんなんて無茶を……こうなれば、わたくしが最大限サポートします」
「へっ、少しは助かるぜ愛弥」
愛弥隊長は氷の剣を一旦消し、毅の方へ向けて両手を大きく広げる。愛弥隊長、氷の剣や格闘だけではなく他人を念力でサポートできる能力まで併せ持ってるのか?
「本日2度目だ、てめぇにもジャイスと同じくこいつを受けてやる! クレイジー・スターダム!」
危機が迫るなかで次々と限界を打ち破る毅は、最大の博打を更に更新して坪本との因縁を果たそうとする。今回は愛弥隊長の援護もあるが、また命に関わることだけはするなよ──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます