8-26話 クレイジー・スターダム

 ──毅の精神面と体力は尋常じゃない。死に関わる攻撃を受けてきた上に、死に関わる大技まで使いやがった。


 今日だけで数度も技を受けていながらも、俺や加藤の協力を得ずに1人だけでジャイスを捕らえようとする毅。これは任務であること、加藤と一時的な協力であることなんて関係ない、己のプライドだけで悪あがきを見せる。

 毅の顔には数ヵ所血のついたかすり傷があり、下手したら生命の危機ほど限界に等しい。ただ、毅の気持ちに関しては共に木更津まで来た他の刀梟隊の隊員達や『わだつみ』のメンバーでも止めることができないものだと俺は感じる。


「まだやるのかこがねつよしよ? しにたいみたいだし、われもさいごまであいてをすることにしよう」


 しかし、問題なのはジャイスの方だ。上空からの奇襲攻撃と飛び道具を併せ持つため、2択に持ち込まれることもある。さらには、盾を使った守備的な技まで所持している。

 あと注目する点は、骸骨の仮面を被っているからジャイスの表情と疲労が全くわからない。体力はまだ全然余裕がある相手だと思えよ、毅。


「おまえをころすまえに、われもひとつやることをするか。つぼもとにかわるわれらのなかまをここまでこさせるとしよう」


 毅との決戦を前にしながらも、ジャイスはマントに隠し持っていたスマホを突如触り出す。自分が宙に浮いてるのもあるが、明らかに余裕こきすぎだ。

 どうやら、他の虹髑髏達を金田さざなみ言葉に呼び集める気か? これで、坪本だけでは荷が重かったことがわかったみたいだな。


「とくにレイラとラルがきてくれたらせんきょくもおおきくかわるし、かとうえんじもわれらにじどくろのものになる」

「ふざけるな……毅とやらが俺に変わって燃やすから、そっちも覚悟するべきだな」


 レイラとRARUの悪女2人に関しては来ただけでも不利な立場になることは違いないし、彼女らが来る前に毅がジャイスを倒して人質にとらせるか。

 加藤も毅に託したとはいえ、本当は自らの炎でジャイスを燃やしたいと思ってるな。加藤のバーニング・ブロウならばジャイスまで届くはずだが、毅を信じる目で見つめている。


「おいジャイス、てめぇ余裕こいてスマホいじってんじゃねぇよ! もう1度地上に戻ってきやがれ!」

「さきにわれにかんしゃするべきだろこがねつよし、わずかながらいきのびるじかんをあたえているのだから」


 一方の毅はより血の気の激しさが増しており、左手の拳を上げながらジャイスに挑発する。おいおい、こんなときに心踊らせれてる場合じゃないぞ、少しは落ち着くのも大事だ。


「俺からしたら問題はそっちじゃなくて恋人が無事であるかだ」


 それよりも、レイラ率いる第1部隊に狙われている菜瑠美達が心配だ。ジャイスとの決着が着かずにレイラ達がこちらに合流したら、菜瑠美達もこちらに来て俺達を援護するだろう。

 そもそも俺が言うのもあれだが『わだつみ』も刀梟隊もだ、そう簡単に虹髑髏なんかにやられる柔じゃない。


「さてと、こちらもやることはやったしそろそろころしにかかろう」


 レイラ達の召集を終えたジャイスは、スマホをフードの中に隠してから再度戦闘モードに戻る。声のトーンも上がっているし、ジャイスも本気で毅を殺しにかかろうとする。


「殺しにかかるか……こんな状況で言いたくねぇがまだ死にたくねぇな」


 本人のプライドが一切許せず、最後の反抗を見せるため一歩右足を踏み入れる毅。しかし、その一歩が大きな命取りに変わる。


「ぬるすぎるわこがねつよし、ダイブボマー・ダウン!」


 毅が右足を出した瞬間に、ジャイスのダイブボマー・ダウンは先程出した以上の回転速度で毅に目掛ける。観察力の高いジャイスの目には参ったが、1歩歩いただけでも毅は完全に隙だらけだ。


「われらなないろとかかわったのがわざわいでしかなかったな、いよいよもってしぬがよい!」


 先程とは異なり、今度は左足を先に伸ばしてから毅を襲う。ジャイスとの距離もすでに迫っているし、毅は上にすら向いてない。


「俺の一歩が……だとしたら?」 

「なっ、きさまいつのまに!?」


 ダイムボマー・ダウンを仕掛ける直前、毅は即座にジャイスの後方へと移動してなんとか回避する。少しニヤけてるけどさ、どこにそんな余裕と気力があるんだよ……仰天もんだ。


「今この技をすることは危険であることはわかってるが、ここでお前の素顔を明かしてやるぜジャイス!」

「は……はなせー」


 後方に回り込むことに成功した毅は、ジャイスの両肩をしっかり掴みはじめて最後の抵抗を見せる。まさかあいつ、危険な技と言ってるから捨て身の一撃でジャイスに決着をつけるのか?


「見てな令、加藤。これが小金毅様の真骨頂だ!」


 毅が自信持って言ってるなら、俺はしっかり見つめるしかないな。でもこれだけは願ってる、


「星よ暴れろ! クレイジー・スターダム!」

「な、なんだ!?」


 自我を失いかけそうになっている毅は、ジャイスを仕留める大技を仕掛ける。毅の周囲からは体を包み込むほどの星の大群が現れ、大群丸ごとジャイスを襲う。


「さっきまで俺達に見せた強気な態度はどうしちゃったんだよジャイスさんよぉ!? ここでてめぇは再起不能だ!」

「うわぁぁあ! やめてくれぇぇえ!」


 今まで威勢のよかったジャイスが弱音を吐き続けながらも、毅の技の勢いはとまらない。ジャイスは完全に毅を怒らせたのが、敗因になる1つであることが刑務所に行ってからわかるだろう。

 毅は全ての『星の力』と自らのを込め、最後の最後までクレイジー・スターダムをジャイスに放電する感じで攻める。


「毅!」

「毅とやら!」


 毅が撒いた星屑はまだ散らばっているが、俺と加藤は毅を心配する以外やることはない。すると、全てを出しきった毅は俺と加藤の方へ目を向ける。


「へへっ、俺は無事だが……任務はまだ終わってない」


 ジャイスにとっておきの一撃を見せた毅だが、疲れだけは隠すことはできなかった。右手を左胸に抱えた上に大きな息を何度もしながら、クレイジー・スターダムを受けたジャイスの方へと向かおうとする。

 普通なら地べたに倒れてもいいほどなんだし、無理はせずに俺達が代わりにジャイスを拘束してもいい。ま、そんなことしたら毅のプライドが許さないか。


「来いよ令、加藤、こいつがどんな面してるか見てみたいだろ」

「あ、ああそうだな」


 クレイジー・スターダムをもろに受けたジャイスは仰向けになって倒れており、変器付きの骸骨の仮面がとれていた。ただ、被っていたフードに関しては体ごと被ったままだ。

 今は倒れていてうかれるなよ毅、不気味なジャイスのことだから生身の体でも何か仕掛けるかもしれない。


「さてとジャイス! てめぇの面をしっかり拝んでやるぜ、あん!?」


 毅は寝そべっていたジャイスの両肩を再び掴んだあと、正面を見せる感じでジャイスの素顔を拝む。おいおい、毅は挑発モードに逆戻りじゃないか。

 だが、フードに隠れていたジャイスのその姿は、俺達が想像してた人物とはイメージが大分異なっていた。


「み、見るなー! 下級国民の癖に我の素顔を見ようとするんじゃない」

「は? お前がジャイス……?」

「こんな少年が俺を確保しようとしてたのか……」

「嘘だろ……この俺様を苦しめた奴がだったとは」


 なんと、常に俺達を見下していた七色の1人・ジャイスの正体はまだ身長150cmに満たしておらず、素顔も黒色の眼鏡をかけた坊主頭の少年だった──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る