8-25話 穹の襲撃者

 ──上から奇襲する敵にはよく見て行動する、毅も頭いいことやるじゃないか。


 怪しげな見た目と雰囲気を持つことから、毅が勝手にミステリークズ野郎と命名したジャイス。血の気が強い毅は先制攻撃を仕掛けるが、ジャイスの能力によって避けられてしまう。

 奴が操る『STYLEすたいる-Bびー』は、人間では不可能だと思われた舞空術の能力を所持しており、外見だけでは判断できないようなトリッキーな動きや技を使ってきそうだ。


「宙を浮いて戦うとわかった以上、どう相手にしたらいいんだ?」


 本人曰く、5mほどの高さ程度なら宙に浮くことができるようで、今の俺からしたら5mでも全然高い距離だ。空中戦は絶対な自信を持つとジャイスは思っていそうだが、対空技を習得してないだけで俺は手詰まりになってしまう。

 ま、今は俺や加藤との団体戦ではなく毅とのタイマンになるだろうし、俺がいざジャイスと戦うとなれば苦労する相手であることは間違いない。現在での雷光十字や雷光幻影の磨きではジャイスにことすらできない。


「まだまだあそびははじまったばかりだぞくずどもが、うえからきさまらをみたらむしけらのごとくちいさくみえるわ」

「ふざけるなよ、俺からすればてめぇみたいなマジシャン気取りももれっきとしただ」

 

 なんだよ、毅もジャイスを挑発するポーズしかとらないじゃないか。少し冷静さもあると思ったら、数時間前に初対面で俺に行った態度と何も変わらない。


「さてと、おのぞみどおりにこがねつよしをころしにかかりますかね」


 宙に浮いてるジャイスは斜め下にいる毅に目掛けて両足を伸ばしながら突進しはじめ、急降下しながら回転して毅を貫こうとしている。


「われのきしゅうをうけるがいい、ダイブボマー・ダウン!」


 今は両足を揃えて襲ってくるが、毅は両足で攻めてくるかと察した。毅の奴、ギリギリになって避ける気か?


「ぐっ……あいつ、両足で来るんじゃなかったのか?」


 ただ、その的中は見事に外れてしまう。ジャイスは先に右足を伸ばしはじめ、右足で毅の顔面に命中させる。


「ふっ、いっぱつだけだとおもったか?」

「なにっ? がっ!」


 ジャイスは即座に足を切り替え、今度は左足で毅の顔面に命中させてきた。これで毅の顔面は、ジャイスから両足2発を浴びてしまう。


「ちくしょう、なんてスピードとテクニックだよジャイスの奴……」

「ふっふっふ、われにかとうなんてにひゃくねんはやいわ」


 まともに2発顔面にくらったら毅もかなりのダメージを受けているのは違いないが、なんとか堪えるのが精一杯だ。それと、加藤と戦ったときのダメージだってあるし、次まともに技を受けたら死ぬぞ?


「くたばるのははやすぎないか、こがねつよしよ」

「てめぇに言われたくねぇな、俺はまだ戦える!」


 ただジャイスの奴、さっきから毅のことを見下してることしかしていない。ジャイスは毅の顔を見つめながら、再び上空へと浮いていく。


「無理はするなよ毅」

「そんなこと言う前に、令と加藤は自分の心配をしな。坪本が後ろから来ているぞ」


 俺は毅の心配を第一に考えたが、その間に俺と加藤の背後から恐るべき刃が襲おうとする。そういえば、坪本の後始末をすっかり忘れてたな。


「げへへっ、あのわんころの言う通りだぜ貴様らぁー! ホームレス炎野郎は生かすべきだから、先に影地令を殺してして俺様の最後の意地を見せてやるぜ!」


 坪本も懲りない奴だぜ、俺としてもなんだか後始末するのも面倒になっちまったな。坪本が悪あがきをみせるのなら、こっちも痛みつけてから加藤の鎖鎌で縛ってもらうか。


「クレッセント……」

「おいつぼもとじんまよ! われのはなしをきけ!」


 クレッセント・スラッシュが放たれる前に、ジャイスの一言によって坪本は止まりながらジャイスの方へと顔を向ける。これは攻めのチャンスかもしれないが、今攻めたらジャイスが俺にダイブボマー・ダウンを仕掛けそうだ。


「ん? なんだなんだジャイスさんよぉ、ちょうどいい場面だっのにさぁ」

「はんこうしたいきもちはわからなくもないが、いまはここからたいさんしろ。おまえがつかまったら、にじどくろのせんりょくもていかになる」


 ジャイスは坪本を金田さざなみ公園から出るように従い始める。悪いが、虹髑髏共には散々逃げられてるし、ここで坪本を捕らえないといつもと同じ不甲斐ないことしか残らない。


「ちっ……今はジャイスさんの従うかよ! くらいな、この俺様のだ!」

「あっ、待て!」


 坪本はジャケットの後ろポケットに隠し持っていたナイフ2本を俺と加藤にそれぞれ投げつけ、その隙に金田さざなみ公園から逃げようとする。


「こんなのが当たると思うか」

「虹髑髏とやらは危険なことを平気でしやがるな、追うぞ令とやら」


 ったく、最後の最後まで無駄な抵抗をしやがって。こんな使い捨ての凶器がプレゼントなんて嬉しくもなんともないが、坪本か使ったという証拠がないんだよな。

 ここで坪本を逃してしまったら後悔しか実感しない、これまで虹髑髏に何度も逃げられたから今回も同じことだけは避けたい。


「そうはさせるかにひきども、ダイアグナル・オーロラ」

「なっ?」


 ジャイスの奴、今度は宙に浮きながら左手から虹色に輝く怪しいオーロラのような飛び道具を斜め下に向けて、俺と加藤に勢いよく放つ。


「くそっ、目がチカチカする……」


 目が痛む上になんだか眩しいぞこの技……直接的な攻撃ではなく、菜瑠美が持つ闇のダークボルテックスのような精神に依存する技か。頭の中がクラクラする中でも、俺は必死に耐えるしかない。


「げへへっ! 今日は始末できなかったが、今度てめぇらと会ったときは切り刻んでやるからな! あばよ!」


  ダイアグナル・オーロラで惑わされているうちに、坪本は両手で中指を立てながら逃げ出す。逃げ足だけは高い奴だな。


「くっ……坪本の野郎」


 くそったれ! 坪本を捕まえたかったのに、ジャイスによって邪魔されてしまう。なんでだよ……いつもあと一歩のところでよ、それだけ俺がまだ未熟である証だな。


「毅、お前も限界に近いから俺もジャイスと戦う」

「そうだ毅とやら、親玉だけは捕らえよう」


 何かの宿命か、俺と加藤もジャイスと戦うことになりそうだが、戦うこと自体は俺にとっては好都合だ。

 しかし、毅は俺と加藤に向けて待てという感じで両手を広げた。おいおい、この状態でまだ戦おうというのかよ?


「言ったはずだぜ……ここでジャイスを拘束するのはこの俺様だって。まだ邪魔はするなよ令、加藤」

「われをつかまえる、くずがよくいうわ」


 体も顔も限界まで訪れてるというのに、なんで戦うときのプライドだけは3人前くらいはあるんだよ。毅、お前が死んだら刀梟隊の名が泣くぞ──


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