8-21話 ナンバーワン・アルティメット・フォース ※たかこ視点

 ──あいつらがどんな立場の人間だったことに、1つだけ念をいれてない部分があったわ。


 逃げに逃げ回る愛宕の工作員共を追い続ける私達4人は、通りすがりの駐車場付近でヤンキー座りして余裕こいて待機している工作員共を目撃した。

 あいつらの挑発と口車に耐えられなかった私は、普通だったら逆らえない芳江姉さんの声を無視して単騎で攻撃しようとする。あいつらに実力の差を見せつけるため、私の技で急接近することを決めた。


「こんな奴ら、私のウォーター・ラッシングで片付けてやる! あんた達覚悟はできてるの!?」


 1人づつ戦うよりも4人まとめて片付ける、またここは駐車場だけあって車が何台も止まっている。周囲を巻き込むブルーダスト・ハリケーンよりも、私のスピードを活かしたウォーター・ラッシングの方が無難だわ。  


「へへっ、やっぱり突っ込んできたぜ。バカなおばさんでも高校の教師にはなれるんだな!」

「何よあんた達その構えは、教師をバカにする気?」


 工作員の体力担当・スグルが私に中指を向けてくるが、このバカの仕方はすごく腹立つわ。そもそも、私は昔から学業の成績はよかったし、まともに勉強せずに今は悪事に手を染めるあんた達より全然かしこいわよ。


「どうやら、俺達のにはまったようだな!」

「は? 童顔おばさんって……あんた達ただ立ってるだけでしょ、どうしてもやられたいというなら私の波におぼれなさい」


 今度はタクヤが童顔おばさんとかいう非常にありがたくない呼び名をしてきたわ、もう我慢の限界としてフルパワーでやってあげるわ。

 あんた達の策なんてたいしたものではなさそうだし、ケリをつけて愛宕を誘き出す。今の私の怒りのエネルギーは芳江姉さんとりりっちと天須さんの分も入ってるから、私としてはこれで4対4だと思ってるわ。


「俺達がレイラ様の部下ということは、どういうことかわかってるんだろうな? 天下無敵のスグル様を甘く見るな」


 それがなんだっていうの、無駄なポーズを取りながら自ら天下無敵なんていうのアホくさいわね。それと、愛宕は未成年でありながら犯罪行為多数の最底辺の女だから、あんた達も心を持たない落ちこぼれでしょ?


「ユウジ様達第1部隊はな、レイラ様に認められたエリートの揃いだ。最大限の『力』をお見舞いする」

「散々いじりやがって、タクヤ様の渾身の意地を見せてやる」

「この俺テツオは最近部隊に配属されたばかりだが、ここにいてよかったことをそこのおばさんにぶつけてからレイラ様に誉められたい」


 他の3人も同じようなことしてるけど、そんなこと言ってるあいだに自分の心配をしたらどうかしら? 私のウォーター・ラッシングは絶対にあんた達を逃さないわ!


「言いたいことはそれでおしまい? 本気でいくわよ!」


 しかし、あいつらの無駄なポーズは、ただ単に挑発として使ったものではなかった。やがて、その無駄だと思っていた自慢のポーズが、4つのへと変貌することを。


「いくぞおばさん! 俺達のナンバーワン・アルティメット・フォースを受けてみやがれ!」

「なによ、そのやたらにかっこいい名前の技は……え!?」


 あいつらは満足そうな決めのポーズをしたあと、4人がかりの若干名前の長い技を使おうとする。始めはただのかっこつけかと戸惑い、大したことない技かと思ったらそれは大間違いだった。

 

「嘘でしょ、あいつらが愛宕と同等の能力を? きゃっ、なにこの砂嵐は!?」

「ううっ……たかこ先輩」


 すると、あいつらの両手から愛宕と同じような砂を操る異能で私を惑わせる。しかも、1人だけでなく4人分を併せ持ってるため、激しい砂嵐が駐車場に吹き散らしていた。

 以前影地くんから聞いた話だと、愛宕は右目の眼帯から隠し持つサンド・ライトという大技があると言ってたわ。それで耕ちゃんの玄関から脱出したらしいけど、複数人とはいえ疑似技をあいつらも使えるということね。


「驚いたかおばさん? 俺達だって『STYLE-R』の一部は使えるんだぜ?」

「散々俺様達をバカにするからだ、これで見方が変わったに違いないな」


 今まではプラモデルのマシンガンや煙幕といった小汚ない武器を使っていたけど、あいつらにも能力者としての素質もあったというわけね。さっきも煙幕なんかより、本当はこんなことができたことを少しは褒めてやりたいわ。

 それでも、あいつらを舐めきった私も油断したわね……私達4人の前にはあいつらが放った強い砂嵐が吹き散らしている。さっきの煙幕よりも全然視界が見えないし、どう突破したらいいかわからないわ。


「さてと、おばさん達が戸惑ってるうちに俺達は撤退するぞ!」

「これで無事にレイラ様と合流できそうだ」

「えっ、ちょっと待ちなさいよ!」


 なによなによ! あいつらが砂嵐を吹かせたのは私と戦うのではなく、しか考えてないじゃないのよ。結局のところはあいつらはただのだったことことに、私からしたら変わりのない事実だわ。


「腹立ったのは事実だけどどうしたら……」


 その前に視界が全く見えないせいで、後ろにいるりりっち達もどこにいるかわからない状況だわ。砂嵐がおさまるまでじっとしてるわけにはいかないし、あいつらを取り逃がすことだけは絶対にしたくない。

 さっきの煙幕は芳江姉さんのワールプール・シャワーでどうにかなったけど、年齢の故に短時間で何度も出せる技ではない。ここは私がやらなくてはと思うけど、私には砂嵐を振り払うような技を所持していない。


「柳先生……宜しいですか?」

「その声は天須さん? 近くにいるの?」

「はい……砂嵐のせいで見えないかもしれませんが、傍にはきています。私には……柳先生の気を感じることができますので」


 ここで苦しんではいけないなかで、天須さんが私に話しかけてきた。私だって天須さんの持つ闇の気はわかるし、視界が見えない中でできるだけ天須さんに近づこうとする。


「天須さん、あなたがあいつらの置き土産を振り払えるの?」

「はい……砂嵐対策はレイラと初めて会った以降、日々を重ねるたびにつかさと共に特訓をしてきましたので問題はありません。そして、悪しき砂は私が消してみせます」

「これはとても頼りにしてるわ天須さん……いや海神中央高校の秀才さん」


 さっきの芳江姉さんに続いて、今度は天須さんの進化した闇とやらでダーティーな砂嵐をどうにかしましょうかね。完全に今の私は他人任せになってしまうけど、これが『わだつみ』のなのよ──

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