8-14話 30歳の小娘 ※たかこ視点

 ──禁句を言う人にはお仕置きをしないとね、が。


 自分から言うのもあれだけどな私達女性陣の前に、愛宕率いる第1部隊の工作員達が襲ってきた。天須さんが気付いたおかげで、未遂に終わったけどね。

 この前は大和田親子の玄関をやりたい放題してたけど、今度は加藤炎児の作戦の妨害工作ときたわ。今まで私が教えてきた生徒達でも、こんなしつこい人はいなかったわ。


「わざわざ尾行してきたのだから、あなた達こそ覚悟はできてるのかしら?」

「なんだと? 俺達の本気を見せつけてやるぞ!」


 あらあらテツオとやら、私のことを小娘と呼んだあたりは褒めてあげるわ。悪いけどあなたは悪事を働く罪人だから、私の技でお返ししてあげようじゃないの。

 でも、全体から見ても愛宕の足元に及ばないでしょうし、私達がまとめて懲らしてから影地くんや小金くんと合流しましょうかね。余計な道草なんて食っていられないし、どう対抗しましょうかね?


「おいテツオ……レイラ様から戴いたデータによるとあの女、30らしいぞ」

「本当かそれは? 見た目からしてまだかと思ったら俺より年上……しかもじゃねぇか!?」

「なっ……ババア!?」


 大声でばらしたのはたしかスグルだっけ……昔からいた3人の中で1番目立っていた体力だけが取り柄の奴は。ついでに、独身という余計なことまで言いやがったわ。


「うわー、女性の年齢を平気でばらすとか最低だなあいつら」

「あなた達……絶対許さないわ! 私を怒らせるなんて、命はないと思いなさい!」


 察しのいい天須さんは既に私が30歳であることは知ってそうだけど、桜井さんにこんな形で知れ渡るなんて想定外だわ。

 とにかく、あいつらを私の奥義であるブルーダスト・ハリケーンで、木更津を洪水にさせる程の勢いで痛い目に合わせないと。そんな気分で、私は両手を大きく広げて技の構えに入ろうとする。


「待ちなさいあんた達、たかこ先輩の悪口を言う人は私が許さないわ!」

「りりっち?」


 私の怒りが収まらない中で、りりっちが先頭に入ってきた。りりっちったら、まるで自分にもおばさんだと言われたような感じで手を出そうとしてるわ。


「ごめんなさいたかこ先輩……最初は私にやらせて」

「いいわよ、まずはあなたに任せたわ!」


 これはちょうどいい機会ね、まずはりりっちの今の強さを拝見しようかしら。20代で警部まで迫るほど有能な刑事であったことを、私にも納得させて。


「なんだ? 先にお前から死にたいのであればこいつをくらいな!」


 テツオは自信満々な顔をして、俊敏な動きでりりっち目掛けて左アッパーを仕掛けようとする。あのいかれた顔、この5人の誰でもいいからとにかく自らの渾身の拳で殺そうとしてるわ。


「たかこ先輩達の手柄を取ってしまうかもしれないけど、テツオにはこれを受けてもらうわ。えいっ!」


 りりっちは両手で粉をまとった手刀を水平に振り、襲ってくるテツオに当てようとする。どうやら、昔からの得意技で攻めてから様子を伺おうとしてるのね。


「なに!? なんだこの香りは?」


 周囲からは激しい香りが周囲から吹き散らしており、テツオは困惑していた。それだけではなく、後ろにいる工作員全員も咳が出るほどあいつらには感じたことのない香りでしょうね。


「どう? 私の持つ『香の力』は? あんた達の防具が完璧でも、この独自の香りは貫通するわ」

「ぐっ、刀梟隊の女め。思った以上にやりやがる」


 いくらあいつらがヘルメットを被ったり防弾チョッキを着ていても、りりっちの香りが効いているみたいね。愛宕の亀達は相変わらず威勢だけみたいだし、これはりりっちの敵ではないみたいだね。


「なんか、が甦ったわね。あんた達、もし私が刑事を続けていたらまとめて現行犯逮捕してたわよ!」


 りりっちも余計戦闘のスイッチがオンになったわね、刑事だったこと関係なくあいつらを檻送りすることはわかってるけど。

 私だって8年振りにりりっちと共闘したい気分でしかないけど、もう少しりりっちの成長ぶりを伺いましょうかね。最後にお姉さんの本気を見せて、ここでオネンネしてまた愛宕に泣きベソかいてなさい。


「ははは……俺達が逮捕だと? 今は刑事でもないくせに、偉そうなこというな」

「では、遊びは終わりにしようか」

「は? あんた達が明らかに不利な立場でしょ」


 りりっちのフレグランス・ウェーブを受けたのにあんな余裕があるなんて、血に滲む修行をしたというのは本当なのかしら?


「俺達のプラン変更だ、これでもくらいな」

「きゃ……これは」


 少し余裕こいたせいで油断したわ。工作員4人は一斉に右手からガチャポンのカプセルを投げつけてきたけど、中身は軍事部隊さながらの煙幕だった。

 私とりりっちはまだ戦うつもりでいたのに、本当は強い私達を恐れて逃げるなんて呆れたものね。まずはこの煙幕をどうにかしないと、あいつらは愛宕と合流する気で再び私達に襲ってくるわ。


「げふっげふっ……たかこ先輩、本当にあいつら汚なすぎる」

「あらあら、こういう時は私の出番ですかね?」

「姉さん? この状況どうにかできるの?」


 愛宕の飼い亀共に逃げられそうになるのに、あらあらなんていってる場合じゃないでしょ芳江姉さん。相変わらずマイペースにも程があるけど、に備えての芳江姉さんよ。


「私も今あの方達を許さないつもりだったの……たかこがおばさんなら私もおばさんでしょ?」

「ま……理屈的にはそうなるわね」


 今の言葉を聞いて、芳江姉さんの顔つきがガラリと変わりキレ目をしているわ。妹の私だって芳江姉さんが怒ったらどうなるかわかってるし、あいつらが赤っ恥かかすにはちょうどいいわ。


「まず菜瑠美ちゃん、短いスカートを押さえた方がいいわよ」

「は……はい」


 ちょっと芳江姉さん……今度は制服姿のと言ってるの? 私が知らない間にどんな欲に目覚めたっていうのよ……今はそんな変態なことを考えてる暇なんてないわ。

 すると、芳江姉さんは儀式をするような構えをしてから両手を大きく広げ、その構えは崩すことなく上空へと手を上げた。まだあいつらは遠くへ行ってないし、芳江姉さんの技でずぶ濡れになりそうね。


「虹髑髏の皆さん、お覚悟宜しいかしら?」


 芳江姉さんはたしかに、冗談を言うことも上手い。けれど、見かけによらず私より全然強いのよ!──



──────────


 次回もたかこ視点です。芳江姉さんの技とある人物に大きなターニングポイントがあります。

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