8-15話 大事なリボン ※たかこ視点

 ──次第に現れる敵対者、今度は桜井さんが我慢の限界を越えた。


 りりっちは私の自慢の後輩だわ。彼女の持つ幻覚の異能による技、フレグランス・ウェーブによって、強烈な香りで愛宕の工作員達を苦しめる。相変わらず、強くもないのに口先だけが達者の下級工作員達だわ。

 それでも、余裕の表情を見せる工作員達だったが、反撃ではなく煙幕を使ってこの場から逃げようとする。あいつら、結局のところは弱虫じゃないの。


「かわいい妹やその後輩の梨理亜ちゃん、菜瑠美ちゃんやミナミちゃんのためにも、このもじゃもじゃした嫌らしい煙幕を消しましょうかね」


 一刻も早くこの閉じ込められた煙幕を消したいけど、芳江姉さんの持つ私とは違う『海の力』で振り払ってくれる。あいつら、芳江姉さんをだと思ったら大間違いよ!


「たかこの前に技を披露するも久しぶりなものね、ワールプール・トルネード!」


 芳江姉さんの両手から、渦潮のようなものが飛び出し、激しい渦で煙幕をかき消そうとしている。芳江姉さんったら相変わらず、年齢を感じさせない圧倒的な『力』だわ。


「す……素晴らしい」 


 ただ、さっきの芳江姉さんの冗談まみれなことを信じて、私は渦潮内の強風でわずかながら。極めつけに、高校1年生ながら純白な薔薇模様のレース付きなんて、かなりはいてるわね。


「柳先生……どうしましたか?」

「いいえ、なんでもないわよ」


 あー駄目よ駄目よ、現役の女教師が勤めてる高校の生徒の下着に見いるなんて、。おまけに、普段と違ってパンスト履いてないから一層に注目しちゃう。


「その行動……予測してた」

「お前達が俺達の煙幕を振り払うことなどお見通しなんだよ」

「声が聞こえるということは、そなた達はまだいるのですか?」


 工作員の顔こそ見えてないものの、まだまだ裕な口調をかましている。私達の行動がわかっていたのなら、わざわざ逃げる姿勢する必要なくない? やられたいんだったら、はじめからそう言えばいいのに。

 そろそろワールプール・トルネードであいつらが放った煙幕が消えるわ、消えたうちに2度と大口を叩けないように私達で一斉攻撃よ! 


「今度のお前達の相手は第1部隊の精鋭の俺達ではなく、だ」


 あいつらが煙幕を出した短時間の間に、増援を呼んだわけね。やっぱり4人だけじゃ少なかったことがわかったのかしら自称精鋭さん?

 こいつと言っているから、組織関係の上司である愛宕ではないことは確定ね。私からしたら下っ端でも七色でも虹髑髏なら誰だって構わないわ、どんな奴が来ても私達は負けないわ。


「そんな?」

「何故あなたがここに……?」


 煙幕が完全にかき消され、私達は再びあいつらの顔を見ることができた。しかし、そこにあいつらと共にいたのは私達と共に任務遂行のために木更津へと来た青年だった。


「あなたは小金くん! 君は影地くんと一緒では?」

「さぁ……令とははぐれちゃったな」

「毅、あなた虹髑髏に魂を売ったの? そんな人間じゃなかったでしょ!」


 ちょっと待ってよ、小金くんは影地くんと共にに金田さざなみ公園で加藤と接触してるはずでしょ。こんな時に影地くんを裏切って敵として遭遇、意味がわからない。


「柳先生、梨理亜の姉ちゃん! 

「おいっ、なんだてめぇ? いきなり割り込んでくるなよ! 俺が毅じゃないって証拠あんのか? ああ!」


 小金くんが本当は裏切り者だと私とりりっちは思い込んだ瞬間、一方の小金くんが偽者であることを断言した。たしかに、大和田親子の寺で会った時と比べて言葉使いは乱暴だし、桜井さんに対しては睨み付けるような顔をしてるから本当に別人……なのかしら?


「桜井さんの言う通りです……そちらの人は小金さんではありません。それと、今は桜井さんに戦わせてください」

「菜瑠美さん……あなたまで言うなら仕方ないわね。桜井さん、選手交代しましょう」


 りりっちもいさぎよく交代を認め、後方へとまわった。天須さんも小金くんが偽者であることを見破っているし、天須さんの言葉は説得力高いわ。


「ありがとな天須。柳先生と梨理亜の姉ちゃんすまない、からあの卑怯者は俺にやらせてください!」


 桜井さんが背負っているポーチから、紫色のリボンのようなものを取り出した。そして、そのリボンを大きく広げてまるで鞭の構えをしながら小金くんに目を向けた。


「桜井さん……それは?」

「俺が2年前まで本気で取り組んでいた新体操で使用した大事なリボンです。もう2度と使わないと思ってたのに、『わだつみ』に加入してからまた相棒的存在となるとはね。むしろ、2年分の空白をここで取り戻せる自体嬉しいよ」


 たしかに、桜井さんは新体操を昔やっていたことを運河先生から聞いたことあるわ、かなり有望な選手だったことを。それでも、自慢の身体能力とリボンだけで立ち向かおうとするわけ?


「今度は毅に扮して俺達を騙すなんて腐った度胸してるじゃねぇか! いつまでもきたねぇ真似しねぇで素顔を見せたらどうだ!」


 このまま桜井さんはリボンを左手に持ち変えて、小金くんの顔を目掛けて狙おうとする。本来なら顔に当てていいものではないが、リボンも許さないと言ってるかのように小金くんの化けの皮を剥そうとする。


「共に行動していた仲間に化けて俺達の前に現れるなんて腐った根性してるな! 志野田來璃RARUよぉ!」

「ちっ」


 小金くんは左手で顔を剥がし、私達にも正体を明かしたが相手はまだ少女だった。志野田……あの娘がソードツインズをもてあそんだRARUなの? 随分と生意気そうじゃない。


「これはこれは桜井ミナミさん、お久しぶりね。あなたに私の変装を見抜かれるなんて、私もまだまだねぇ」

「黙れよ! 本当なら2度とてめぇ顔見たくないんだよ!」


 初めて素顔を見たけど、いかにも素行が悪く更正しがいのあるわね。RARUが今までしてきた行為も考えて、女の顔を当てられても文句は一切ないわ。


「RARUさんすいません……こんな女共に手こずって……」

「いいのよ、私はあのゴミ女を殺すつもりでレイラ様に申し出て来たのだから。あなた達はレイラ様と合流しなさい」

 

 しまった、今度こそ工作員達が逃げるわ。ただ……能力者ではない桜井さんを1人だけにするわけにはいかないわ。RARUは変装の達人に加えて、衝撃波を使えるという情報もあるわ。


「柳先生……芳江の姉ちゃん……梨理亜の姉ちゃん……そして天須……お願いがあります。あの部下達は柳先生達が追ってください。俺はここに残ってこいつとの因縁をつけます!」

「桜井さん……わかったわ。RARUはあなたに任せるわ」


 怒りに満ちた桜井さんを見て、戦いに反対する理由なんてどこにもないわ。RARUがどんなに汚い女でも今の桜井さんなら勝てる、私達はそう信じているわ。


「わざわざ私に殺されたいなら、事前に言ってくれない?」

「やってみろよイカれ女! お前はこのリボンで木更津の海に沈めてやる!」


 私達は腰抜け工作員を追うから残念ながら見れないけど、桜井さんは

 あなたが『わだつみ』に加入してから私達はたくさん見てきたわ、打倒RARUのための激しいトレーニングをしてきた努力家であることを。今までの努力の成果を全て憎き人間にぶつけなさい──



──────────


 次回は桜井視点になります。当初は五章限りで出番を終わらせるキャラが、語りキャラになるまで大出世しました。

 因縁の相手との過去の関係も描きます。

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