8-7話B 木更津へ向かって(女性陣) ※たかこ視点

 ──正義とは本当に何なの? これから私達がすることも正義なのかどうかも微妙だわ?


 かつて、地下格闘界で無敵の強さを誇ったという炎の能力者・加藤炎児の接触と、彼を狙う虹髑髏の魔の手から逃れること。それが、今日の『わだつみ』と刀梟隊の合同任務よ。

 虹髑髏で密偵を行っている者からの情報によると、加藤という子は木更津に今住みついてるらしいの。私達は虹髑髏より先に加藤を探すべく、船橋なら遠く離れた木更津まで向かっているわ。


「どうしたのりりっち? 天須さんが気になるの?」


 影地くんら男性陣は和俊くんがりりっちの車を運転しているけど、女性陣は私の車で木更津まで向かっているわ。ただりりっちったら、助手席にいるのに後ろで座っている天須さんのことを何度も見続けているわ。


「ええ……たかこ先輩が今年受け持つ生徒に、私より大きい娘がいるなんて驚いたわ」

「ま、天須さんと桜井さんは私の担任ではなく、体育の授業での担任なんだけどね」


 そりゃ、を生で見て驚かないわけないわね。校内の男子達と同じくらい感心してるから、天須さんの胸は凶器そのものだわ。

 私だって今までりりっち以上に巨乳の女性なんて見たことないのに、天須さんのバストサイズはいくつあるのよ……貧乳の私でさえ考えるわよ天須さんの巨乳っぷりは。



 気づいたら私は51わね。芳江姉さんと桜井さんとはそれほど変わりはないからいいけど、天須さんとりりっちの胸が私にも欲しいわよ。


「菜瑠美さん、あなたの持つ『闇の力』……とても興味深いわ」

「そ、そうですか……私も元町さんのことを考えていました」


 今度は天須の持つ闇について申したけど、学校にいる時とは違う態度で応対してるわね。同性でもあるし、私の後輩だから天須さんも信頼してるかもね。

 あの闇は天須さん本人でさえも、まだ未知な能力を秘めている。1ヶ月前の襲撃事件に習得した覚醒は今でも私の中では覚えてるわ、今日の任務に影響を及ぼすのかしら。


「うふふ……菜瑠美ちゃんはね、梨理亜さんも驚くようなセクシーな服を着て戦うこともあるのよ」

「よ、芳江さん……そのことは」


 まさか、芳江姉さんが天須さんの戦闘服について口出すなんて。今のりりっちの服だって結構露出度のあるドレス着てるけど、あの戦闘服は比でもないくらい激しいわ……私だって羨ましいわよ。


「俺も先週天須達と特訓した時に例のレオタード姿見たけど、あんなんうちの学校の生徒達に見せたらたまったもんじゃないと思うよ」

「ミナミさんまで仰るなら、余計その服が気になりますわね」

「はぁ……そんなに気になりますか」


 天須さんは少しため息をついており、今までにない顔を私達の前で見せた。今は可憐な制服姿だけど、ひょっとしたら鞄の中に戦闘服を持ってきてるかもしれないわね。

 私の中では、天須さんは海神中央高校の生徒の中で1番の美少女にして超巨乳の持ち主。影地くんよりも彼女と会えたことが、私にとって奇跡……かもしれない。



◆◇



 耕ちゃんの家から出てもうすぐ1時間が経過する。男性陣はそのまま木更津へ向かっているけど、私達女性陣は昼飯も兼ねて市原のサービスエリアに寄り道をしていた。


「たかこ先輩と2人きりだなんて、何年振りかしらね」

「そうね……またりりっちといるなんて夢のようだわ」

 

 芳江姉さんと天須さんと桜井さんは、別行動で昼食をとっている。そのため、私はりりっちと共にフードコートで昼食に入っていた。

 2人で顔を合わせてしっかり話すのも、私が大学を卒業して以来だわ。こんなこというのも変だけど、ここで涙が出そうだわ。


「本当にたかこ先輩は羨ましいですよ、教師としては順調みたいですし」


 たしかに、ここ7年は教師として順調な道を進んでいたわ。ただ、8年目となる今年は影地くんとの出会いをきっかけに、能力者として帰ってきた。


「ところでりりっち、あなたは警察官になってからエリート街道のまっしぐらで若くして警部間近まで来てたのに、どうして刑事を辞めてしまったの?」


 私がりりっちに対して1番気になったのは、刑事を辞めて今の刀梟隊に所属していること。刑事であることの方がステータスは高いはずなのに、秘密組織に属するようになったのかしら?


「これはたかこ先輩にもう隠せないわね」


 りりっちは少し暗い表情にはなったけど、テーブルに両手を組んでから私の顔を向けて話そうとする。


「3年前、当時大きなニュースとなったスーパーマーケットの立てこもり事件がありました。犯人を捕らえるべく、私は当時の上司と同僚と共に勇敢に立ち向かったのですが……」


 そういえばあったわねそのような事件……詳しいことは忘れちゃったけど、りりっちはこの事件に急行してたのね。


「犯人である男は、確保寸前に所持していたライフルを乱射。私自身は『力』によって殉職は免れましたが、上司と同僚の2人は

「りりっち……もしかしたら、今ここであなたと会えてなかったかもしれないね」

「そうなりますね……犯人はそのまま私の手錠で逮捕し、一般の被害者は出ませんでした。しかし、2人の警察官の死には私にとって大きな影響を与えてしまったわ」


 明るい性格なりりっちにも、こんな暗い過去があったなんて。犯人はりりっちの手で逮捕されても、1人だけ生き残ったら複雑な気持ちになるよね。

 これだけで考えたら、りりっちは優秀な刑事であったことが伺えるわ。元々度胸は一人前だっけ。


なんてとても考えられない。事件の功績で私は警部昇進の連絡が決まった日に、責任をもって退職を決めました。それに、能力者が刑事なんてやっていいのかと疑問を感じた時期でもあったので強く決断しました」


 出世よりも仲間を優先して刑事を辞めたのね。しばらく連絡がなかったから、ヘマかましてクビになったかと思ったわ。


「辞表を出した日に、当時の署長から能力者達の集いである秘密組織・AYBSの存在を知ることとなりました」

「え? それって署長さんはりりっちのことを能力者だとわかっていたの?」

「そうかもしれません……刑事を辞める中で、私の今の居場所がここしかないと当時は確信しました」


 りりっちがAYBSに所属するきっかけとなったのが、署長の薦めであることに意外だわ。まさかその署長も実は能力者……とふと思ってしまったわ。


「しばらくしたある日、AYBSの日本支部・刀梟隊が発足するという情報が入り、私は真っ先に志願しました。また日本で任務ができると聞いて、当時は心踊らせたわ」


 世界的組織なんでしょAYBSは、日本支部ができたらそりゃりりっちは名乗り出るわね。でも、りりっちなら世界でも成功しそうな気はするけどね。


「私は刑事を辞めてしまったため、手錠や拳銃はもうない。今は私の中にある『力』だけで戦うわ。そして、たかこ先輩とまた共闘できること自体が楽しみだったんでね」

「私だって……海の一族の『力』を封印して7年。『わだつみ』達がいたから、今ここで能力者として戻ってこれたのだから」


 下手をしたら、この場で再会することのない2人が任務で顔を会わせることとなった。私としては、これからもりりっちと先輩後輩の絆を強く深めたいと思っている。

 

「なんだか私も刀梟隊に限らず、元刑事としてのプライドも甦りそうな気がしますわ」

「その気持ちよりりっち」


 話を聞いたら、りりっちにもりりっちなりのプライドはある。刀梟隊にいることが、今のりりっちにとってのかもしれない。

 そう言ってる私も、『わだつみ』にいることが今のだと思っている。正義の味方には、年齢も性別も関係ないのだから。



◇◆



「今度こそ木更津に向かうわよ」

「あららたかこ……随分とはりきってるわね」


 私は車のエンジンを動かし、市原サービスエリアを後にした。男性陣はもうすぐ木更津に着きそうだと影地くんから連絡があったけど、すぐにでも追い付きたいわね。

 芳江姉さんからはりきってると言われたが、この任務でここにいる4人から能力者として高い評価が得たいのよ。


「木更津には志野田RARUがいる……あいつがいるなら、中学時代の因縁を晴らす」

「加藤さんは……私がなんとしても説得させます」


 天須さんも桜井さんも、刀梟隊との初めて任務にも関わらず気を引き締めてるわね。若い『力』というのは、非常に恐ろしいものでもあるしね。


「たかこ先輩、加藤炎児を味方にして今回の任務を遂行させましょう」

「ええ、私はりりっち達に要請されてここまで来たのだから」


 りりっちは私に敬礼をして、今回の任務の成功を切願した。もちろん、これは私の体育教師として以外の別仕事であることはわかってる。

 それと、過去のりりっちの事情を知ったからには、私も能力者としての気持ちがより高まったわ。虹髑髏の思い通りにならないためにも、加藤をこちら側の人間にしてもらわないと──



──────────


 次回は令視点に戻ります、木更津編が始まります。

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