8-7話A 木更津へ向かって(男性陣)
──毅が事前に俺を目につけて自らが最強になりたい理由、理解できないことではない。
かつて、地下格闘界で無敵の強さを誇ったという炎の能力者・加藤炎児の接触と、虹髑髏の魔の手から逃れること。それが、今日の『わだつみ』と刀梟隊の合同任務だ。
虹髑髏で密偵を行っている者からの情報によると、加藤は木更津に今住みついてるようだ。俺達は虹髑髏より先に加藤を探すべく、船橋なら遠く離れた木更津まで向かっている。
「後ろからの殺気が気になってたまらない」
男性陣5人は元々は梨理亜さんが所有する車を今は和俊さんが運転しており、俺は助手席に座っている。移動中も菜瑠美と一緒にいたかったのに、梨理亜さんと大和田さんが決めたのだから仕方ない。
『わだつみ』と刀梟隊。2組の交流を深めること自体は賛成だが、何よりも毅がうざったい。真ん中についてあるバックミラーでバレバレだぞ、睨みつける目でいちいち俺を眺めるな。
「おい令、助手席で寝ている暇なんてあんのか? 和俊のあんちゃんが事故ったらどう責任取るんだよ」
「は? 寝てはいないし、夜にある大事な予定のことについて考えてただけだ。いちいち首突っ込むな」
「ふっ、予定か……お前にもそういうものがあるんだな。任務を終えた後の俺との戦いに逃げると思ってたぜ」
夜にカズキとの約束に間に合うかどうか考えてるのに、毅のせいで気が散ってしまう。あいつは一匹狼な香りがするし、あの性格を考えて今まで友達とかいなさそうだ。
『わだつみ』が任務に協力することをふまえるのなら、10人乗りのワゴン車とかで来ればよかったじゃないか……というのは欲がいいすぎるか。刀梟隊は秘密組織だし、車を支給できる余裕はなさそうだ。
「令くんに対抗意識を取ることに文句は言わないが、くれぐれも母親殺しと同じような扱いだけはするんじゃないぞ」
「んなことはわかってるさ半蔵」
「母親殺し……どういうことですか半蔵さん?」
毅は40歳近く年齢が離れている半蔵さんにもタメ口扱いなのかよ、またしても呆れてしまった。
ただ、母親殺しについてがとてもピンときてしまった。やはり、毅にも能力者として壮絶な過去があるのだろうか?
「俺の方から言わせてくれないか半蔵……少し気が変わった」
すると、さっきまで俺にたいして挑発的な態度を取り続けた毅が、自ら話をしたいと言い出す。元々の態度の悪さは刀梟隊の隊員達はわかってるみたいだし、俺も毅が態度の悪い男であることを受け入れるか。
「これだけは最初に言っておくぞ令、俺は生まれた時から能力者だ。俺と同じ異能を持ち、AYBSのフランス支部に所属していたシングルマザーの日本人の母親によって育てられた」
毅は生まれた頃から母親の遺伝によって異能を継いでおり、AYBSの隊員でもあったようだ。父親がいなく異国で過ごしていたことが、すでに複雑な過去だな。
「だが、俺が7歳の時に母親は任務中に謎の能力者によって殺された上に、母親の持つその『力』まで奪われた」
「あの時のお前さん、令くんの初対面の態度とは違って嘘のように号泣してたな」
毅は両腕を強く握りしめながら、母親が能力者によって殺されたことを悔しそうに告白した。そう聞くと、AYBSには過酷な任務があることを実感した。
「その後、俺は母親の友人だった半蔵によって引き取られ、11年間毎日のように母親を殺した最低野郎への復讐をすべく修行に励んだ。そして、自ら志願して去年から学生生活も兼ねて刀梟隊に入った。結果的には母親と同じ組織に所属したわけよ」
母親に仇討ちを取るため、半蔵さんの元でAYBSを経由して刀梟隊に入ったことはとても理解できる。第一印象はただの嫌な奴かと思ったら、かなり重い宿命を背負ってるんだな。
そう考えたら、生まれて半年に母親と別れて親父だけとの生活だった俺が軽く感じてしまう。そもそも、俺は生まれつきの能力者ではなかったな。
「俺は母親を殺した奴が憎くてたまらないよ、AYBSの凄腕スパイですらまだ有力な手がかりが掴めていないからな」
「俺達刀梟隊も常に毅の母を殺した奴の情報を探っているが、未だ何もなしだ」
世界的組織のAYBSでさえも11年間有力な情報がないなんて、どんだけ犯人は謎めいた人間なんだよ。敵に回してる人数も多いのに、悪人ながら大したものだ。
「それで俺は決心した。あらゆる能力者と戦い続ければ俺は最強の存在となり、両親を殺した犯人も俺の噂を聞きつけて俺の命を奪いにいくはずだ」
なるほどな、自ら強い能力者と戦い続けて有名になって仇討ちを狙うと。なかなかの知恵を持ってるじゃないか。
仮な話、毅の母親殺しが虹髑髏にいるかもしれないしな。初対面の俺にいきなり悪態取ったのもなんとなく納得した。
「毅くん……君自身の過去を令くんに打ち明けたんだから、令くんを悪い目で見るのをやめたらどうだ?」
「今は協力することがわかっただろ毅?」
「……仕方ない」
俺はバックミラーを確認し、毅の方に首を向けて顔を会わせる。大和田さんや和俊さんも言っているし、少し気持ちも緩むよな。
「でも勘違いはするな令、お前とはいずれ戦うと決めている。その時は逃げるんじゃねぇぞ」
「わかってるさ毅、明日以降ならいつでも相手してやる」
毅とライバル関係になることなら大歓迎だが、今は利害が一致しているから協力すべき存在だ。ま、俺の方も毅の力量を知りたいしな、本当に口だけの男でなければいいのだが。
◇◆◇
「もうそろそろ木更津に着くぞ。半蔵さんは俺達のサポートをするとして、他の3人は加藤と万が一戦う準備はできてるか?」
毅の悲惨な過去と共闘宣言をしたうちに、気がついたら目的地の木更津までもうすぐとなっていた。
心配していた高速道路の混み具合だが、運よく非常に空いていた。夜にカズキとの大事な予定がある俺としても好都合であり、木更津にも長くいられる。
「加藤と対峙した時は、俺の『力』ですぐにカタをつけてやる」
「炎の能力者など、『海の力』の前では無力だな」
大和田さんと毅は、加藤と戦うことを優先に考えているな。地下格闘会最強の能力者と謳われてるから、自分の実力を試したいわけね。
「刀梟隊の面々……加藤炎児……いったいどんな能力を秘めてるのだろうか?」
俺としては初めての刀梟隊との合同任務だ、足手纏いにはならないようにするのが第一だ。虹髑髏も現れるのなら、俺としては加藤との戦いは今は避けると見ている。
最強の炎の使い手・加藤炎児、果たして加藤は俺達の仲間になることを応じてくれるのか──
──────────
次回はたかこ視点となります。たかこが運転している車の中に梨理亜、菜瑠美、桜井、芳江が乗っています。
たかこと梨理亜の関係と梨理亜の過去について描きます。
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