8-6話 炎の能力者の噂

 ──夜に大事な約束もあるというのに、厄介なことに巻き込まれそうだ。


 柳先輩の後輩の元刑事がいたり、クラスメイトの兄貴にして寿司職人がいたりと、本業や年齢がバラバラといってもいい刀梟隊。これでも、世界的な秘密組織の日本支部だ。


「ただ、俺にとっては邪魔者と呼んでいい人間もいる」


 しかし、中には初対面でいきなり俺に喧嘩を売る態度を取った大学1年生、小金毅という新たなライバル候補がでてしまった。俺より3歳上だが、毅側からため口で構わないというから上の立場だとは思おうとしない。

 それに、通路に歩いていた時はずっと毅がいちゃもんを付けていた、こいつが刀梟隊でなければガン無視してたのにな。



◇◆◇



「あらあら……お久しぶりですね、令くんと菜瑠美ちゃん」

「はい……お久しぶりです、芳江さん」


 俺達8人は大和田さんの寺の中に入り、芳江さんとも久しぶりに再会した。この場に10人の男女が混ざり合うとは随分賑やかにはなりそうだが、重要な話があるんだよな。


「初めましてな方も数名いらっしゃいますが、殿9

「相変わらず美人ですねぇ、芳江さん」


 芳江さんは1年間だけAYBSの本拠地であるイギリス支部に所属していたようで、幸谷さんとは面識があった。といっても9年前のことであるため、刀梟隊の存在についてはつい最近大和田さんから知ったようだ。


「では本題に移りましょう。『わだつみ』の皆さん……大変恐縮かと思いますが、

「任務? 協力することに私は構わないけど、今日は私達と手合わせの予定だったんじゃないのりりっち?」


 柳先生曰く、『わだつみ』と刀梟隊の合同特訓と聞かされていた。任務ということは、また能力者の犯罪が千葉県で発生しているのか?


「たしかにそのつもりでしたわたかこ先輩。てすが、昨日の夜に虹髑髏の元へスパイに行ってる者から有力の手掛かりが入りました。そのため、予定を急遽変更する形となります」

「『わだつみ』の一員や俺の妹も通学している海神中央高校は、5月に2件も虹髑髏が絡んだ事件が発生した。牛島剣が起こした事件後に、虹髑髏壊滅を目的に行ってるんだよ」


 おいおいすごいな、刀梟隊に虹髑髏までスパイしに行ってる隊員がいるのかよ。さすがに、世界的秘密組織の日本支部だけある。


「幸谷殿、大事なデータを『わだつみ』に見せてください」

「わかりました」


 幸谷さんが手に持つパソコンから、人相の悪いボサボサな赤色の髪をした男のデータが掲載されていた。それを俺達に見せてきたが、いったい刀梟隊となんの関係を持つのだろうか?


「彼の名前は加藤かとう炎児えんじ、21歳。炎を扱う能力者にして、地下格闘界で圧倒的な強さを持っていた男よ。加藤の接触及び私達の仲間にすることが、今日の私達の任務です」


 炎の能力者であることはわかったが、また荒くれ者と知り合うのかよ。まだ炎使いとは遭遇してないから、どのような能力や技を使うのかが気になるな。


「なんかこの人、俺の同級生と雰囲気が似ているな」


 桜井さんも指摘してる通り、聞いた話や経歴からして塚田に似ているな。その加藤って人も年齢は離れてるが、菜瑠美に一目惚れしそうだし塚田と同類と見ておこう。


「加藤はここ1年間、何故か地下格闘界の舞台から姿を消しました。しかし、我々のスパイによると、虹髑髏第5部隊が本日木更津に向かって加藤を工作員にさせるという情報を手にいれました」

「用は俺達も木更津まで行って、その加藤とやらを探せと言いたいんですね。是非協力させてもらう」

「さすがたかこ先輩の甥、飲み込みが早いものね。さて、他の皆さんは?」

「今から木更津?」


 任務に協力するということに興味こそ沸いたが、ここから木更津はいくらなんでも遠すぎるだろ。たしかに、ソードツインズ事件の黒幕であるRARUやジャイスをいち早く捕まえたいよ。

 しかも、ここは船橋市の中でもかなり北に位置する場所だし、船橋駅からここまで20分はかかったぞ。たとえ高速道路が空いてると考えても、ここから木更津まで1時間半はかかるはずだ。


「こんな都合の悪い日程被りもあるんだな」


 相手が炎の使い手だから、海の一族で対抗したいのもわかる。元々の予定も『わだつみ』は平日だと全員学校にいるから、休日を利用したのも理解できる。だが、俺にとってはいかにも悪都合だ。

 最悪の場合、今日中に加藤を探せないまま夜を迎えて翌日にまた捜索の続きを決行することになる。こんなの、俺だけ断るわけにはいかないしどうすれば……。


「おい令! どうやらお前、木更津に行きたくなさそうな顔してるな。そんなに俺達の任務が嫌か?」

「な……? そんなわけないだろ。それとさ、お前まじで目障りなんだよ」


 カズキとの約束に間に合うか考えてる最中に、毅がまたしても口車に乗りやがった。強い能力者と出会えること事態、逆に俺にとっては絶好の機会なんだが。

 毅を見ていると、いくら刀梟隊でもシャインだ死ねよと言いたくなるぜ。今までと違った嫌みな奴だが、これは任務の功労者として毅に見返すしかなさそうだ。


「用はいち早く加藤を探せばいいんだろ、引き受けますよその任務」

「ふんっ、いい表情だな。もしもお前が加藤と戦闘になる場合は高みの見物をしてやる、ちょうど力量を測るには相応しい機会だからな」

「何言ってるんだ毅、元々これは刀梟隊の任務だろ? お前こそ実力を俺に見せてみろよ」

「ふっ、俺のその時の気分次第だな」


 なんだ毅の奴、俺が引き受けると聞いたら急に落ち着きやがった。俺の強さを拝見したいと云う分、刀梟隊に所属している自覚がなく見えるな。

 これは毅のためでなく刀梟隊のために貢献するんだよ、毅なんて別にどうでもいいわ。他の3人やここにはいないまだ見ぬ隊長に評価されれば、俺は満足だ。


「つかさ……あなたはまた厄介な人に目を付けられましたね」

「心配するな菜瑠美、あんな奴は俺の光で少しわからせてやりたい。それと、君には加藤を説得して貰いたい」


 もし加藤を見つけた後に揉め事になった場合、説得上手の菜瑠美がいる。牛島のときは藤野に対する意思が強いせいで失敗に終わったが、圧倒的な美貌と話術は惹かれること間違いなしだ。


「炎の能力者ね……うちも行くとしましょう。久しぶりにAYBSの誘いに乗るとしますか」

「俺も木更津に行きます。あんた達程の強さは持ってはないけど、第5部隊には志野田RARUがいるんだろ? あいつが動いてるんだったらほっとけないんだ」


 これで、『わだつみ』全員と芳江さんの意向が固まった、刀梟隊との初絡みが遠征任務になるとはね。


「皆さんの協力に感謝します!」


 この前のソードツインズのこともあるし、再び虹髑髏に横取りされないためには俺達10人の合同軍団で加藤を探し出して仲間に加えることだ。


「木更津は初めて行くからいいとする。しかし……」


 俺には明確なタイムリミットも存在する、夜に船橋駅でカズキとの誕生日プレゼントを渡せるかどうかだ。今から行けば夕方までには戻れそうだが、任務が長引いたり高速が混んでいたら間に合いそうにない。

 それと、この任務が終わったら毅が俺と戦いたがっている。今日は無理である言い訳を、移動中に考えておかないとな。


「悪いなカズキ……俺はもしかしたら、


 本当はこんなことを考えたくなかったが、カズキすまない……一生に1度の16歳の誕生日に顔を合わせないことを。でも今は、刀梟隊の任務の助っ人として迅速に遂行することだ──

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