8-8話 自称:令和の切り裂きジャック

 ──こりゃ木更津は戦場になりそうだ。


 2019年6月8日11時55分

 一匹狼と思われた毅の能力者としての複雑な過去を知った俺は、木更津金田インターチェンジを通過して高速道路から降りようとする。

 夜にカズキとの約束もあるし、正午になる前に木更津まで到着したのは俺としてはとても好都合だ。


「案外早く着いたな、ここが木更津か」

「勘違いすんなよ令。木更津に着いた今が、本当の始まりだぞ」

「そんなことはわかっているよ」


 半蔵さんや密偵しにいってる者の情報によると、加藤はこの辺りに普段から住み着いてるとのことだ。といっても木更津は案外広い、俺が設定した制限時間に間に合うか不安になってきた。


「こっちはこっちで動きたいが、菜瑠美達が到着するのにまだ時間が掛かるんだよな」


 男性陣はそのまま木更津まで向かったため、市原のサービスエリアで昼食をとっていた女性陣のことを思っていた。俺達も女性陣がサービスエリアに寄ったのを知ったのはついさっきだったしな、もっと早く連絡を取って欲しかった。

 ま、その時は毅の過去の話を聞いてる途中だったし、和俊さんもサービスエリアに気付くことなく通過しちゃったからな。だが、任務を遂行するためにはハングリー精神も必要だからな。


「なあ和俊」


 駐車場を探している中で、毅が和俊さんに一声を掛けた。毅の奴、任務はまだ始まってないのに何か大きな自信をだしていた。


「どうしたんだ毅?」

「俺をここで降ろしてくれないか?」


 俺は女性陣と合流して10人がかりで加藤を探そうと思ってる中で、毅が単独行動へ乗り出そうと口にした。

 それに、毅は今半蔵さんと大和田さんの間に座っているし、降りるような状態じゃないだろ? もしそうしたいんだったら、最初から端側に座っとけよ。


「おい待てよ毅、1人で行動しようというのか?」

「ああ。お前ら任務のためにわざわざ木更津まで来たんだろ、すぐにでも加藤を探した方がいいに決まってるだろ?」

「そうだけどさ、万が一加藤と戦闘になったらどうするんだ? お前1人だけで大丈夫とは思えない」


 毅の言っていることはたしかに正しい、俺からしても探す時間が長ければ任務が終わって約束の時間も間に合う。

 しかし、加藤がまだどんな強さだか把握もしてないし、単独行動には大きなリスクもある。合同任務であることを心にいれてる俺は、ある決心をする。 


「和俊さん、俺もここで降ります。毅の単独行に少々危険を感じました」

「おい令、お前!?」


 毅がここで降りるのなら俺もここで降りる。毅は危ない行動をしそうだし、李理亜さんが今いない中で毅を止めるには他に誰がいるんだよ?


「心配するな、わしらのことは構わない。わしと和俊と耕士郎くんは別行動を行う」

「要するに加藤を見つけたら、俺達3人の誰かに連絡してくれ」

「俺はどっかでこの李理亜の車を停めないといけないしな、毅と令くんに任せるよ」


 これで決まりだな。和俊さんや半蔵さんとは初仕事でも、なんか俺を信頼していそうな顔をしているな、毅以上にな。


、くれぐれも邪魔はすんなよ」


 本当は毅と行動したいとは思ってないが、これは任務だ。万が一、俺が将来刀梟隊の正式な隊員になった場合、毅は先輩な間柄になるし文句なんて言えない。



◇◆◇



 李理亜さんの車から降りた俺と毅は有力な情報を手に入れるため、木更津のアウトレットパーク付近まで到着した。当然任務であることを忘れてはいけないが、これだと人探しをしていると来場者からは思われそうだな。

 こんな場所があるんだったら、別に先に降りる必要はあったのかと思ってしまった。駐車場も広そうだし、もしかしたら和俊さんもここに停めていそうだ。

 それにしたって、隣接地に遊園地もある良い場所だ。いつかは任務関係なく、菜瑠美と一緒にまたここまで来たいな。


「どうした毅、お前本当に加藤を探す気あるのか? 観覧車の方向ばかり見てるぞ」

「うるさいぞ令、加藤がもしも観覧車が大好きで万が一乗っていたらどうするんだ?」


 何言ってるんだ毅は……観覧車まで距離があるし、視力両目1.5の俺でも乗客なんて見えないよ。

 とりあえず、付近には遊園地もあるこんな賑やかな場所で異能バトルや事件は起きてはいけないな。事件を起こしたらそこで任務終了で職務質問は確定だろうし、そうした緊張感の中でアウトレットの中に入っていく。


「ん? あれは?」


 駐車場を歩いてるところ、見覚えのある車を発見した。あのナンバープレートのない赤色のオープンカーは

 オープンカーの中には煙草の吸殻や愛用の化粧品もあるし、俺は今回の任務に対して本当の危機感を覚えた。


「どうしたんだよ令」

「間違いない、これはレイラの車だ!」


 第5部隊が動いてるだけでなく、レイラまでが木更津にいたとはな。これは柳先生にも伝えたいが、まだ車を運転してそうだし後にしておくか。


「きゃはははは!」


 レイラの車を見て少しした瞬間、喫煙所から男女の下卑た笑いが聞こえてきた。それと、女性の声には聞き覚えがあったため、少し喫煙所の様子を伺おうとする。


「我々は今日も新たな戦力を補強できそうなんて、夢のようねレイラ様」

「RARU、吸いたい時はいつでも私に声を掛けな」


 あれはレイラにRARUも? しかも、RARUはまだ高1の癖して平気な顔で喫煙してやがる。これだけで、俺の怒りが沸きだしたぜ。


「ぐぇへっへっへっ! 加藤炎児もこの前仲間に入ったソードツインズ同様、虹髑髏の幹部候補生として目をつけてたしな! ぎゃははは!」

「静かにしなあんた達。もしこんなところで最近調子こいてる刀梟隊の連中が聞いてたらどうするの?」


 それともう1人黒髪の長髪をしたこれまたやべー奴がいるな。顔つきはイケメンではあるが、常に狂気みじてにやけた顔をしているし、どうみても危険人物だ。


「おいっ!? あのゲス野郎も今ここにいんのか?」

「あいつを知ってるのか毅?」


 毅はやべー奴を見て顔色を変えた。ゲス野郎と呼んでいるし、とんでもない悪党であることは確信した。


「奴の名前は坪本つぼもと迅馬じんま、23歳だ。坪本は刀梟隊に限らず、AYBS全体からもブラックリスト入りしている程の極悪人だ」

「つまり、世界中を敵に回してる奴か」

「そういうことだな。圧倒的な爪攻撃を得意とし、本人も『』と自称をしているらしい。あいつも今は虹髑髏に所属していたとはな、ますます任務が面倒になる」


 令和の切り裂きジャックとか、聞いた話だけでは本当にやべー奴だな坪本は。平気で人を殺していそうな雰囲気をしているし、この場で被害者を出したら大問題だ。


「RARU! 煙草を吸い終えたら加藤炎児を確保するんだよ、そのためにあなたの完璧な変装術が必要なのだから。遅れてくるジャイスが来るまでにね」

「わかってますよレイラ様、代表……いや組織のためにも」

「おいおいレイラぁ、この迅馬様がいることを忘れるなよ」


 RARUは変装の達人なわけだし、誰かに潜んでもおかしくない。今ここで誰かに変装せず、素顔で木更津まで来ていたことは俺として助かったぜ。

 問題なのは初対面となる凶人の坪本だ。どんな奴でも切り裂きそうだし、特に菜瑠美と対面したくない相手だな。


「毅、アウトレットは避けよう。奴らに捕まったらそこで終わりだ」

「仕方ない……本当だったらここで奴らを潰したいのだが、騒ぎになったら任務どころじゃないな」


 レイラ達も喫煙に集中しているし、俺達のことを一切見ていないのが今の救いだ。奴らも目的は加藤なわけだし、今は俺達に構ってる場合ではないかもしれないな。


「ここは和俊さん達と再合流して作戦を立て直すか」


 目所の1つがなくなり、先に大和田さんに連絡を入れようとする。加藤を狙う邪魔者が付近にいたという収穫こそあったが、肝心の加藤はまだ見つからない。

 それにしても困ったものだ、虹髑髏がうろついていたらなかなか加藤を探すことができない。とにかく、七色の2人と虹髑髏の凶悪な工作員2人を木更津から追い出して刑務所にぶちこみたい──



──────────


・告知

ファンアートのお知らせです。朝山なの様より「輝の令と闇姫」のヒロインである心優しき闇の巨乳美少女・天須菜瑠美ちゃんの戦闘服姿を描いてくださりました。ありがとうございます。

戦闘服イラストは2度目でありますが、今回は後ろ姿もあります。とにかく素晴らしい尻に注目です!


https://twitter.com/usudaisranove/status/1237728169538375681?s=19


朝山様のカクヨム作品はこちら

https://kakuyomu.jp/users/asayama_nano_90


代表作・ぺんぎん×エンカウント

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886698194

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