8-5話 小金毅

 ──また変な奴に目を付けられたが、口先だけではなさそうだ。


 柳先生の同級生である元刑事の元町梨理亜さん。彼女は現在、AYBSアビリティブレインズと呼ばれる世界異能犯罪対策本部の日本支部・刀梟隊かたなふくろうたいの一員だ。

 刀梟隊自体がまだどのような組織だか理解してないが、柳先生の後輩もいるし彼らを信じてみるか。


「月曜日以来ですね、和俊さん……まさか、あなたが刀梟隊にいたのは驚きました」


 メンバーの中には、川間さんの実兄である和俊さんも在籍していた。クラスメイトの兄弟として見てなかったから、こんな形で再会するのはとても意外すぎた。


「和俊から聞いたわ。妹さんの弁当を届けるところに、通学中の令さんと菜瑠美さんも待ち合わせたことを」


 なんか、梨理亜さんも和俊さんの行動になんとなく感心しているな、外見に反して相当なシスコンだからな和俊さんは。


「はっはっはっ、実は家族や本業の上司達には黙って刀梟隊に属することになっているんだ。当然絵美にも内緒だ」

「それって川間さんにもか?」

「そうだ、俺の手に眠る強大な『力』についてもだ」

 

 和俊さんもAYBSに認められる程の能力者であることに違いないが、溺愛する妹に対しても能力者と刀梟隊であることを黙っていたのな。肥満体に反して高い身体能力を誇るから、今までにない未知の強さを秘めていそうだ。


「寿司職人そのものも憧れの職業だった。しかし、それ以外にも、長い知り合いである梨理亜から刀梟隊に誘われたんだよ」


 こういうのもなんとなくわからなくもないな、アニメや特撮のヒーローに憧れて正義の秘密組織に所属するのは。

 まさか、梨理亜さんにスカウトされて寿司職人と掛け持ちするのは色々忙しそうだ。月曜日が休みだったのは、何かの奇跡かもしれないな。


「というわけだ令くんと菜瑠美さん、刀梟隊の俺としても宜しく頼むよ」


 これはまた、川間さんに対して隠すべきことができてしまったな。俺と和俊さんとの本当の関係が川間さんに知れ渡ったら、とんでもないことになりそうだ。


「和俊との意外な再開に驚いた中だけど、残りの2人についても私が軽く自己紹介するわね」

 

 今は和俊さんの存在ばかり目にいったが、10代の青年と50代の中年についても気になるな。梨理亜さんの方から、先に白髪が目立つ中年の方から説明しようとする。


「左側にいる方は幸谷こうや半蔵はんぞう殿。AYBSの中だと古参メンバーにして57歳でありますが、出世を望まずに現在は刀梟隊の情報やオペレーターを担当として携わってるわ」

「幸谷と申します……今はまともに戦うことはできませんが、刀梟隊にいることは誇りだと思っています。宜しく頼みますよ、『わだつみ』の皆さん」

「こちらこそ……宜しくお願いします」

 

 話によると、幸谷さんは現在の年齢をを考慮して任務に出動する者達の裏方をサポートしてるようだ。昔は能力者として戦っていたようだが、なんとなく強そうなのは俺にはわかる。


「俺としてはもう1人の存在が気になる」


 若干髪の長い黒髪の10代らしき青年はさっきから俺のことを睨み付けている、初対面であるのに印象が悪すぎるな。こういう奴に限って口先だけな奴かもよ。


「右側にいる方は小金こがねつよしくん、表向きは今年から大学に入ったばかりの18歳だけど、刀梟隊には高校生の時から入っている実力者よ」

「年齢を晒すな、俺を子供扱いする紹介じゃねーか」


 毅さんはまだまだ若い分類なのに、年齢を晒したのが不満なようだな。しかも、明らかに値上のはずの梨理亜さんに対しても悪態を見せている。

 刀梟隊に限らずAYBSは基本的に本業との掛け持ちが大丈夫である上に、潜在能力が高い能力者であるなら15歳から所属できるそうだ。

 だったら、俺と菜瑠美もここでスカウトされても文句は言えないが、学校生活も充実して勉学にも励みたいから今は断るな。


「おい影地令、お前が強い能力者であることはわかっている。今すぐに勝負したいくらいだ」

「勝負? 突然何を言ってるんですか?」


 印象が悪いのは目に見えたが、いきなり俺に対して喧嘩を売る態度を取ってきた。刀梟隊でも随分と口が悪く攻撃的な隊員もいるんだな、まだまだ精神年齢が若い証だ。


「別に俺のことは毅と呼んでもいいしため口で構わない、

「そうか、俺も遠慮なくあんたのことは毅と呼ばせでもらう」


 俺は悪党以外の年齢が上の人間にため口というのは少し抵抗があるが、毅がそう言うのであればそうするしかないな。なんか、塚田や今は虹髑髏に渡った牛島と同じ香りがするな。


「この辺にしなさい毅! 無駄な揉め合いごとは禁物よ、あんた何度もそのことについて今はこの場にいない隊長やAYBSのトップ達に言われてるでしょ」

「ちっ、梨理亜まで言われたら仕方ないな」


 毅は一旦、梨理亜さんの言葉によって引き下がったな。たしかに、毅は俺の嫌いな性格ではあるが、今後協力者であると同時にライバルになってくることは間違いなさそうだ。


「すまないな令くん、毅は昔からああいう性格なんだよ。自分以外の強い能力者を知ったらとすぐさま戦いたくなるんだよ、特に君のような毅より若い人にはな」

「そうなんですか。学校にも毅みたいなタイプの生徒はいたんで、このような人間には慣れてます」


 幸谷さんからも指摘されたが、毅みたいな攻撃的な奴からの挑発も慣れてきたものだな俺も。ま、刀梟隊の問題児として見ておくか。

 ただ1つ気になるのが俺には挑発してきたのに、俺より強いと思ってる菜瑠美に一切眼中がないことだ。異性というのもあるけど、毅くらいの年齢で菜瑠美を見てメロメロにならないのも珍しい。


「小金毅さんですか……変わった方です」

「仲間かもしれないが、俺からしたら新たなライバルあらわる……なんてな」


 言わせてもらうが、いきなり俺の噂を聞いて敵意を示したことには誉めてやるよ。この後にもし戦うことになれば、その減らず口をなくしてやる──



──────────



 刀梟隊やAYBSの組織に関することは八章まとめにでも詳しく載せます。

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